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二部・戻る気はない
父との再会
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慣れ親しんだ屋敷。
子供の頃からソフィーが暮らし、貴族としての勉学に務め、いつか王子との婚約の儀が正式に果たされれば、屋敷から出て行く……そう思っていた場所。
そんな未来は婚約破棄によって、形を変えて。
全く異なる理由で、出て行くことになった。
「行きましょう」
戻るつもりのない屋敷へ、ソフィーは足を踏み入れていく。
もう、二度と帰ってこないと、言わなければいけない。
もうセイリグの人間ではないのだから。
☆
「ソフィー」
「お父様。二度と戻ることはないと思いましたが……こうして戻って参りました」
ソフィーは久しぶりの父を見た。
少し、痩せただろうか。
「お前が戻ってきてくれたこと、感謝している」
「心にもないことを。なぜ、お父様はわたしの顔を見てくださらないのですか」
ソフィーは首を横に振る。
「戻る気などありません」
ソフィーの言葉に、父は眉をつり上げる。
「……セイリグの信用は薄れつつある。土地の税金の管理、資金繰りなど、すでに低迷しつつある。お前のポーションがあれば、すぐにでも我が伝統ある伯爵家は、かつてを取り戻せる」
「通りで、乱暴な契約や発表などなされたのですか」
だから、と続ける。
「戻って来てくれ。元はと言えばお前の婚約破棄さえなければ、こんなことにはならなかったのだ。お前に責任がある」
「……確かに、婚約破棄の一件はわたしの責任です」
それが証拠のない言いがかりだったことが判明しても。
ソフィーが婚約破棄を受け、セイリグの名が傷ついたことには違いない。
ソフィーが悪いか否かなど、取り合ってくれない。
「ですが、お父様はわたしを守ってくださらなかった。何も与えてはくださらなかった。今、わたしがこうしているのは、錬金術の知恵がたまたま役に立ったからです。そうでなければ、わたしは今、こうして頼もしい仲間達に囲まれて、仕事をしていないでしょう」
娼館に身をやつすか、最悪仕事にありつけなければ、物を請うて、なんとか命を繋ぐことしか出来なかったであろう。
父は助けてくれなかった。
だから……。
「ソフィー……」
「さようなら、お父様。わたしがあなたの娘でなくなった以上、わたしにとってもお父様は……もう父ではないのです」
「待ってくれ。私が悪かった。この家のことや利益のことしか考えていなかった。反省している。だからどうか……」
「伯爵」
ソフィーは背を向けた。
「伯爵、今後、あなたとは商売をするつもりはありませんから」
子供の頃からソフィーが暮らし、貴族としての勉学に務め、いつか王子との婚約の儀が正式に果たされれば、屋敷から出て行く……そう思っていた場所。
そんな未来は婚約破棄によって、形を変えて。
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「行きましょう」
戻るつもりのない屋敷へ、ソフィーは足を踏み入れていく。
もう、二度と帰ってこないと、言わなければいけない。
もうセイリグの人間ではないのだから。
☆
「ソフィー」
「お父様。二度と戻ることはないと思いましたが……こうして戻って参りました」
ソフィーは久しぶりの父を見た。
少し、痩せただろうか。
「お前が戻ってきてくれたこと、感謝している」
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ソフィーは首を横に振る。
「戻る気などありません」
ソフィーの言葉に、父は眉をつり上げる。
「……セイリグの信用は薄れつつある。土地の税金の管理、資金繰りなど、すでに低迷しつつある。お前のポーションがあれば、すぐにでも我が伝統ある伯爵家は、かつてを取り戻せる」
「通りで、乱暴な契約や発表などなされたのですか」
だから、と続ける。
「戻って来てくれ。元はと言えばお前の婚約破棄さえなければ、こんなことにはならなかったのだ。お前に責任がある」
「……確かに、婚約破棄の一件はわたしの責任です」
それが証拠のない言いがかりだったことが判明しても。
ソフィーが婚約破棄を受け、セイリグの名が傷ついたことには違いない。
ソフィーが悪いか否かなど、取り合ってくれない。
「ですが、お父様はわたしを守ってくださらなかった。何も与えてはくださらなかった。今、わたしがこうしているのは、錬金術の知恵がたまたま役に立ったからです。そうでなければ、わたしは今、こうして頼もしい仲間達に囲まれて、仕事をしていないでしょう」
娼館に身をやつすか、最悪仕事にありつけなければ、物を請うて、なんとか命を繋ぐことしか出来なかったであろう。
父は助けてくれなかった。
だから……。
「ソフィー……」
「さようなら、お父様。わたしがあなたの娘でなくなった以上、わたしにとってもお父様は……もう父ではないのです」
「待ってくれ。私が悪かった。この家のことや利益のことしか考えていなかった。反省している。だからどうか……」
「伯爵」
ソフィーは背を向けた。
「伯爵、今後、あなたとは商売をするつもりはありませんから」
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