婚約破棄されて無職、家無しになったので、錬金術師になって研究ライフを送ります

二部・戻る気はない

静かに語るメイド

　ソフィーはシャロンに指示を出しながら仕事を続ける。
　人手が増えたことで、ようやく仕事に落ち着きが見えてきたところか。
　そんな折、ハンナは無表情で戻ってきたのだ。

「ハンナ。戻って来たの」
「ええ。お土産の変わりに、すぐに煮え湯を用意させていただきます」
「いえ……煮え湯はいらないわ」

　なぜ、煮え湯を用意する。

「熱くて渋いお茶はいかがでしょうか？」
「帰ってきたばかりなのだし、あなたが飲んだら？」
「そうさせていただきます」

　丁寧に紅茶を淹れて一人でに飲むハンナ。
　彼女はカップを傾ける。

「お茶を飲んだら、台帳などの仕事に戻ります」
「それはそうだけど……」
「なにか？」
「お父様のこと、そろそろ聞かせて欲しいの」

　ソフィーは聞かざるを得なかった。
　大事なことだ。
　しかし、あっけからんと紅茶をソーサーに戻すハンナ。

「元気でしたよ。あらゆる意味で」
「そうじゃなくて、どうしてお父様は何も言わないの？」

　それだけで察したのであろう。
　ハンナは少し姿勢を正す。

「伯爵はただいま、ご多忙でして、今しばらくお嬢様の意志を尊重するとのことです」
「……なら、このまま甘えさせていただこうかしら」

　ピクリとまつ毛が動いた……気がした。

「……信じると言うのですか。このメイドを」
「なにか言ったかしら？」
「いいえ。別に」

　含みのある言葉に、ソフィーは反応しない。
　彼女はソフィーにとって大事な友人である。
　それだけだった。