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元令嬢の錬金術ライフ

剣の錬金術

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 ソフィーが外に出るとハンナは無表情ながら握り拳を作っていた。

「これで安定した販売が出来ます」
「さすがの手腕ね」
「通行人にポーションを売っても、所詮は客足に左右されます。それよりも、ギルドに直接売り込んだ方が、安定的に月収が確定しますから」

 ハンナはそれよりも、と続ける。

「お嬢様にはこれからポーションの大量生産が必要不可欠になってきます」
「ああ、それなら問題ないわ」

 ソフィーにはすでにダーレンの娼館にて、ポーションを自動精製する術を身につけている。
 だから数には問題がない。

「さすがですね、お嬢様。それであれば大量生産したポーションを売っていけます」

 二人が冒険者ギルドの目の前で話している間。
 ロジェが現れた。

「やあ」
「ロジェ? ギルドに何をしに来たの?」
「一応、目先の仕事だけ確保しておこうと思ってね。暮らしていくだけのカネならあるが、仕事も必要だからね……潜伏するためには」

 そうだ。彼は暗殺者を向けられて、なんとか生き延びたのだ。
 となれば、騎士には戻れないハズ。

「そういうワケだから、体裁だけでも整えるためにここへ。ソフィーは?」
「ポーションの販売をしに来たの」
「ソフィーのポーション……というか錬金術はすごいからね。エリクシール、だっけ?」
「仮よ、仮。わたしのは全然、賢者の石にはほど遠いから」
「でも、俺は死なずにこうして生きている。それほどすごい薬ならギルドも欲しがるハズ」

 では、とソフィーとロジェの間に割り込むようにハンナが立つ。

「それならばあなたが宣伝を行ってください」
「……メイドさん? もしかしてセイリグの……」
「あなたはお嬢様になんの用か存じませんが、お嬢様のせめて役に立って下さい」
「えっと、具体的には?」
「怪我をして、有効性を実証してください」

 二人とも笑っている。
 が、どこかバチバチと火花が散っていた。

「ろ、ロジェ。そういえばあなたの剣、少し貸してくれないかしら」
「なにかな? ソフィー」
「あなたの身に何かあったらいけないわ。だからちょっと、ね」



 ソフィーは工房に戻ると、記憶を頼りにロジェの剣に錬金術を施す。
 毛筆のペンなのは世間一般だが、ガラスの中にあるインキはスカーレットだ。
 毛先を意識して、細く、そして、太さが一定になるように術式を描いていた。

「これが錬金術……」

 切れ味の圧倒的な増加に、刃こぼれのしない再生の術式。
 刃がこぼれても、その部分から再生する。
 物質の再生など、特に錬金術が得意とする分野だ。

「はい、どうぞ」

 彼女が剣を手渡すと、ロジェは驚いたように剣を見つめる。

「すごい……なんだか強そうな感じがする……!」
「感じ、じゃなくて本当に強くなったか試して欲しいの」

 ふとロジェの隣に立つハンナが、ホウキを両手で握りしめて、構えていた。

「では、お嬢様に近づくナンパ野郎を排除します」
「あなたはケンカを売らないの」

 排除なんて言葉を持ち出さないで欲しい。

「とにかく、結果はすぐに伝えるよ」

 ロジェはそう言い残して、冒険者ギルドへ向かった。
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