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元令嬢の錬金術ライフ

家からの使い

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 ロジェと食事をした翌日。
 ソフィーは眠い目を擦りながら目を覚ます。

「もう、朝ね」

 思いの外、疲労が溜まっていたのだろう。
 ここのところすぐに眠れてしまう。

「ポーションの売り方……これから考えていかなくちゃ」

 悩ましくはあるが、借金の返済が済んだ以上、これからの生活を考えなければいけない。
 研究だけに没頭はできない。
 ふと、扉を叩く音が聞こえた。

「……誰? まさか、ダーレン? それともロジェさん?」

 ソフィーが扉を開けると、見慣れたメイドの制服が目に飛び込んできた。
 セイリグ家のメイドが着ている制服。

「おはようございます、お嬢様」

 ソフィーは咄嗟に扉を閉めた。

『開けて下さい、お嬢様』

 どんどんどんと、まるで借金取りのような叩き方をするセイリグ家に勤めていたメイド。
 本物の借金取りであるダーレンといい勝負が出来そうな軽快な叩き方だ。

「ご、ごめんなさい……まさか、ハンナが来るなんて思ってもみなかったから……」
「お久しぶりでございます、お嬢様」

 無表情に、無頓着な髪型。
 ちゃんと装いをしっかりすれば、素材は良いのだから、しゃんとした方がいいのに、姿勢がずれているのか、服の左右のバランスが崩れている。

「えっと、ハンナは何をしにわたしの工房まで……?」
「工房? この物置小屋がですか?」
「これからちゃんとした設備を整えていくの。それにまだ、荷物の整理が出来てないの」
「冗談です」
「分かりにくい……」

 ハンナは無表情なまま指でわっかを作る。

「お嬢様が家から絶縁されて、すぐに自分の工房を持つとは……いくら盗んだんです? 十枚? 二十枚?」
「その手をやめなさい」
「冗談です」
「だから、分かりにくい……」
「もし、お嬢様の実力で工房を作ったのなら、この短期間でよく出来たものです」
「あ、ありがとう」
「冗談です」
「……わたしはどう返せばいいのか分からないわ」

 ソフィーは彼女がニガテだった。
 彼女はメイドだが、かなり奔放な人だ。
 メイド内で点々としており、初めはランドリーメイド(洗濯担当)で、次はスティルルームメイド(お茶菓子担当)。最終的にはパーラーメイド(接客担当)に落ち着いたものの、途中で庭師になっていたこともあった。もはやメイドではない。

「それで……あなたはどうしてここまで来たの?」
「いえ。とある方が証拠をジュリアン王子との婚約破棄理由が不正となる証拠を、セイリグ伯に書簡にてお報せなされたのです」

 ロジェだ。
 彼は一度、ジュリアン王子に伝える前に、父に伝えたのだろう。

「そして、伯爵はあなた様の元に自分を派遣しました」
「そのことを伝えに?」
「いえ」

 彼女は無表情のまま。しかし、それでいてどことなくソフィーを試すかのように真剣に見つめてくる。

「あなたがどのような選択をするのか。その如何を問うためです」
「どのような、選択?」
「ジュリアン王子と戦うのであれば、伯爵はかなりの準備が必要になります。ソフィー様の潜伏、それから証拠の確保。王子に対して一件を告発する準備。あるいは爵位を剥奪されるリスクもあります。関係諸侯の協力も必要になる。……厳しい戦いになるでしょう」

 ゴクリとソフィーは唾を飲む。
 そんなことをすれば、王族相手に政治的な戦争の始まりになりかねない。

「わたしは帰らないわ。もう、セイリグ家の人間じゃないもの」
「よろしいのですか?」
「よろしいもなにもないわ。ここでタダの少女、ソフィーとして、錬金術を極めるの」
「錬金術で商売を始める……いや、始めているのですか」

 ならば、とハンナは頭を下げた。

「不肖、このハンナ。あなた様のお助けするよう伯爵からお願いされました」
「父が……お願い……?」
「はい。命令ではなく、お願いです」

 ハンナはピシッと指をさしてきた。

「不思議ではなかったですか? なぜ、このハンナが、あなた様の工房に訪れたのか」

 そのままハンナは指を立てて振る。

「それは、伯爵があなたの身を追っていたからですよ」

 そして、彼女はそのまま指でとことこと人が歩く再現をする。

「娼館に足を踏み入れたとセイリグ伯爵が知った時は、一日中屋敷内をウロウロしていたのを覚えております」
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