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借金令嬢
ジュリアン王子とロジェ
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――side ロジェ――
時は少し前へと遡る。
ソフィーが婚約破棄を言い渡されたその後のことだ。
ある一室にて、ロジェはジュリアン王子に面会を申し出たのだ。
「ジュリアン王子。どうして婚約破棄など」
「ロジェか。何用だ?」
「あのような場で婚約の決まっていた彼女に対して、なぜあのような仕打ちを!」
「私はマリオンを愛している。だからだ」
ロジェは主君の言葉に思わず、目を覆いたくなった。
ジュリアン王子には婚約者がいたにもかかわらず、このような世迷いごとを口にするとは。
「そのマリオン様はあなたとの婚約によって、妃という立場が欲しい。それでもですか……?」
「黙れ! 彼女は私に献身的に尽くしてくれていたのだ! 困っている時や、音楽を奏でている時にはいつも現れ、話をした! 私が王位について悩んでいる時にも、相談に乗ってくれていた!」
「その全てが、単にあなたに近づくための作戦だったとしても?」
ロジェは知っていた。
あの女、マリオンの本性を。
「ソフィー・ド・セイリグ令嬢……でしたか。彼女は無実だ」
キッパリとロジェは言った。
「なんの証拠がある?」
「マリオンが自分の荷物に、薬品を自らかけているところを目撃した者たちがいるのです」
「戯言を! たわごとなど、捨て置け!」
「それも、一人ではないのです」
ジュリアン王子は露骨に顔色が変わった。
彼も知っていたのだろう。
「セイリグ令嬢は、あなたに反論する証拠がなかった。だから、令嬢という立場も失った」
もし、セイリグ令嬢が、本気で証拠を探せば。
あるいはセイリグ家が持てる力を使って、証拠を探れば、見つけられたであろう。
もし、そうなれば立場が悪くなるのは王子だ。
だから、証拠を探さなかったのかもしれない。
もう今となっては真相など分からないが。
「マリオンは、あなたを愛しているのではない。あなたの立場を愛しているのです」
「黙れ……!」
「あなたは、軽率な行動で婚約破棄を行った。今後、王位を継いでいくに辺り、大きな汚点となるでしょう。まずは、セイリグ令嬢やその実家への謝罪。並びにマリオンとの婚約を破棄し、有力諸侯に対して此度の一件についての説明や謝罪を――」
ロジェは王子にできることを滔々と語る。
もし、セイリグ令嬢が王子のために証拠を探さなかったとしても、ロジェには見過ごすことのできない事実であった。
国は。王たるものは。多くの責任を持って生きる存在なのだから。
「では、失礼します」
ロジェが去った部屋に一人の少女が、クローゼットから這い出てくる。
「王子……」
「マリオンか。すまない……そなたを不安にさせてしまった」
「私、怖いです……」
「案ずるな。なにも案ずるでない」
不安そうにしているマリオンに、ジュリアン王子は彼女に囁く。
それはさも、愛の告白をしているかのようでもあった。
「私には、何もかもを解決できる方法があるのだから」
それからロジェは三日三晩、戦い続けた。
突然、黒ずくめの男たちに襲われ、追いかけられ続け。
おまけに魔物まで使役していたのか、一人で戦うような相手ではない強力な敵を孤軍奮闘で戦い続けたのだ。
そして、ソフィーと出会う前に敗れた。しかし、顔が潰されても、彼はすぐには死なずなんとか逃げ延びることができた。
だが、そのしぶとさも、逃げ延びた先で続かなかったのだ。
時は少し前へと遡る。
ソフィーが婚約破棄を言い渡されたその後のことだ。
ある一室にて、ロジェはジュリアン王子に面会を申し出たのだ。
「ジュリアン王子。どうして婚約破棄など」
「ロジェか。何用だ?」
「あのような場で婚約の決まっていた彼女に対して、なぜあのような仕打ちを!」
「私はマリオンを愛している。だからだ」
ロジェは主君の言葉に思わず、目を覆いたくなった。
ジュリアン王子には婚約者がいたにもかかわらず、このような世迷いごとを口にするとは。
「そのマリオン様はあなたとの婚約によって、妃という立場が欲しい。それでもですか……?」
「黙れ! 彼女は私に献身的に尽くしてくれていたのだ! 困っている時や、音楽を奏でている時にはいつも現れ、話をした! 私が王位について悩んでいる時にも、相談に乗ってくれていた!」
「その全てが、単にあなたに近づくための作戦だったとしても?」
ロジェは知っていた。
あの女、マリオンの本性を。
「ソフィー・ド・セイリグ令嬢……でしたか。彼女は無実だ」
キッパリとロジェは言った。
「なんの証拠がある?」
「マリオンが自分の荷物に、薬品を自らかけているところを目撃した者たちがいるのです」
「戯言を! たわごとなど、捨て置け!」
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彼も知っていたのだろう。
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もし、セイリグ令嬢が、本気で証拠を探せば。
あるいはセイリグ家が持てる力を使って、証拠を探れば、見つけられたであろう。
もし、そうなれば立場が悪くなるのは王子だ。
だから、証拠を探さなかったのかもしれない。
もう今となっては真相など分からないが。
「マリオンは、あなたを愛しているのではない。あなたの立場を愛しているのです」
「黙れ……!」
「あなたは、軽率な行動で婚約破棄を行った。今後、王位を継いでいくに辺り、大きな汚点となるでしょう。まずは、セイリグ令嬢やその実家への謝罪。並びにマリオンとの婚約を破棄し、有力諸侯に対して此度の一件についての説明や謝罪を――」
ロジェは王子にできることを滔々と語る。
もし、セイリグ令嬢が王子のために証拠を探さなかったとしても、ロジェには見過ごすことのできない事実であった。
国は。王たるものは。多くの責任を持って生きる存在なのだから。
「では、失礼します」
ロジェが去った部屋に一人の少女が、クローゼットから這い出てくる。
「王子……」
「マリオンか。すまない……そなたを不安にさせてしまった」
「私、怖いです……」
「案ずるな。なにも案ずるでない」
不安そうにしているマリオンに、ジュリアン王子は彼女に囁く。
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「私には、何もかもを解決できる方法があるのだから」
それからロジェは三日三晩、戦い続けた。
突然、黒ずくめの男たちに襲われ、追いかけられ続け。
おまけに魔物まで使役していたのか、一人で戦うような相手ではない強力な敵を孤軍奮闘で戦い続けたのだ。
そして、ソフィーと出会う前に敗れた。しかし、顔が潰されても、彼はすぐには死なずなんとか逃げ延びることができた。
だが、そのしぶとさも、逃げ延びた先で続かなかったのだ。
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