婚約破棄されて無職、家無しになったので、錬金術師になって研究ライフを送ります

追放された令嬢

錬金術によるポーション精製

　部屋は工房と呼ぶよりも、色々なことが出来るようになっているようだった。
　色々……それも薪の代わりに書類らしきものが大量に詰め込まれた暖炉。
　術式の施されたナイフ（術式の内容は怖かったのであえて見なかった）。
　それに、毒物から、いわゆる媚薬と呼ばれるものまで。
　依存性のあるような危険物まではなくとも、ここまでに並んでいるものは立派な犯罪臭がするものばかりであった。

「え、えっと……まずは」

　量の指定はなかった。
　質にかんしては、最高の代物を用意すればいいだろう。
　疲れた頭であったが、不思議と好きなことであれば集中が続く。

「薬草を煎じる……」

　ガラス瓶を火の魔法で炙る。
　簡単な魔法で、ソフィーでも扱える。

「次に抽出したものに、適量の魔力を込めて混ぜ――」

　ふと、ソフィーは手を止める。
　生産性を上げるのであれば、この工程を効率良く出来ないか、と。

　魔力を込めて混ぜるのは、強すぎてはかえってポーションの効力が強くなりすぎて、毒物に変わることがある。
　逆に弱すぎれば、ただの草の煮汁になる。
　だから錬金術でポーションを作るには、繊細な技術が必要とされる。

　しかし、だ。
　最新の研究では、この過程の自動化が進んでおり、さらにかき混ぜた後の工程も省略出来るかもしれない……という話を教授から聞いた覚えがある。

「試してみよう」

　ソフィーは記憶を頼りに紙に羽根ペンですらすらと幾何学模様を書いていく。
　どこからどこまでが何を実行するか、それを決めていく。
　最適の魔力量を与える、混ぜる速度の最適化、そして温度を冷ます速度。

「ああ、そうだわ。折角だし、自動に動くようにしましょうか」

　昔、魔術の公演で、演者から実用性のない魔法を教えて貰ったことがある。
　位置を動かしたり、流体に形を与える魔法。
　戦いでも実生活でも使い道の少ないが、見世物としては派手な演出ができたりするらしい。
　そこで、ソフィーが思いついたのは、次々にガラス瓶にポーションを詰め込む作業を自動化する方法だ。
　薬草から抽出する度に、次々とガラス瓶が移動し、ポーションが入っていく術式。

「なんだか楽しくなってきたわ」