コバナシ

プロローグ

プロローグ10

子供は戦では珍しく金髪と灰色の瞳をした男の子。
ろくに食事をとっていないようで、ガリガリに痩せ細っていた。

歳は…14歳位だろう。


「小柄だとは思っていたが…こんな子供も戦場に駆り出しているのか。」


歳は、優の子供と同じくらい。
知らなかったとはいえ殴り飛ばしてしまった事実に蓮は手を震わせた。

先程まで視線を下に向けていた子供だったが、手が震えたのが分かったのか視線を蓮に向ける。
子供とは思えないほどの虚ろな視線は蓮の肩を僅かにビクッとさせた。


「…殺せよ。」


初めて言葉を口にした子供はとても冷たい声色でそういった。
虚な目で、何もかも疲れたような表情。

まだ幼いのになんて表情をするのだろう…。
大介も子供の表情を見てはいないものの、辛そうな表情を浮かべている。



「…どうせ、生きていた所でロクに飯にもありつけやしない。
ここにいる奴らは皆そうさ。

泥や雑草を食べて生きるのに限界が来て売られたのが俺たちだ。
飼い主様の言う通りのことができれば、奴隷にされて売られて…結果を出せばもしかしたら人として生きていける。

飼い主様の所に戻ったところで殺されるか売られるかなら生き残っても仕方ない。
変に生かして苦しませるくらいなら助けると思って俺も…あそこにいる奴らも殺せよ。」


男の子は拘束されている他の賊に視線を送った後に視線を蓮に再び向けた。
対する蓮の視線は泳いでおり、拘束している大介も困惑した表情だ。

大人として子供を守りたい気持ちと…この世の厳しさへの理解。
大人も子供も関係なく知恵や力がないものは容赦なく淘汰されてしまう世界。

仮に今この子供を救えたとしても、今後同じように売られそうになった子供や奴隷を見つけるたび同じように救えるのだろうか？

放っておけないそれだけの理由でこの子や他の者たちを助けたら、助けきれなかった同じような境遇の物に妬まれしまい結果的に不幸な目に合わせてしまうのではないだろうか？

悔しいがここで生かして苦しみ続けて野垂れ死ぬくらいだったら、今ここで楽にしてあげるのも慈悲なのではないか？


そんな色んな思考が蓮の頭の中をグルグルとまわる。
考えることに夢中になっていた蓮は走り出していた椿に突き飛ばされた。
大介から見て左側に派手にゴロゴロと転がっていく。

突然の事に蓮や大介は勿論、男の子も驚いた顔をした。
そんな事を気にもせず椿は思い切り男の子の頬をビンタする。


「子供だろうが大人だろうが、簡単に死ぬとか殺せとか言わない！

生まれた以上、苦しくても生き続けるのが私達の使命なんだから。」


「…そんな綺麗事で腹が膨れるっていうのか！
それで生きていけるんだったら、俺達も苦労はしない！」


突然自分に向けれた綺麗ごとが子供の逆鱗に触れたようで、子供の様子が変わる。
子供の虚な目は明らかな怒りをあらわにして、食らいつくように体を動かしたのだ。

大介が腕だけだが動きを抑えている為、前のめりになるような体勢に変わった程度の動きだったがそれを気にもせず子供は話を続ける。


「その身なりだと恵まれた環境で花のように大切に育てられてきたのだろ！

お前は…空腹を紛らわせる為に泥や雑草を口にした事はあるのか？
拒絶する体に無理やり押し込んででた涙と一緒に口にしてなんとか飲み込めるものだ。

面白半分で暴力を振るう大人達にあった事があるか？
逆らったら、本当に殺されるか飯にもありつけない。」


男の子は、そういうと脱力したように肩と頭を下に負けて息切れをする。
そして、下を向いたままポツポツと涙を流して地面を濡らしていく。