Nora First Edition

第十四話

第14話 32

「ありが…とう…あの…獣を…攻撃してくれ…て。

苦しそうな…表情…が、見れた…だけでも…よか…った。」


「諦めるな！！
まだ…なんとかなるだろ！！」



アイクは、声が裏返る位叫んだ。
腕も上がらず、足も上がらず、体も上がらない。

芋虫のように動く事さえできないでいた。



女は、返事を返す様子もない。


漫画だったら…ここで助かる術を見つけたり、毒物を克服して華麗に救出したりしただろう。
だが、無慈悲にも天井はゆっくりと下がりプチプチやメキメキと不快な音を立てながら女を潰して潰れた肉塊に変えていく。

体が動かないアイクは、目の前で動けない状態でそれを見せつけられた。
アイクは無力だと、言わんばかりに。


唯一の救いは悲鳴がなかったこと。
既に意識がなかったのか、口が動かなくなったたけかは知る術がないが…。

そんな地獄のような時間が終わったと同時に体が動くようになった。
シロの言った通り、後遺症もなく先ほどの麻痺が嘘のようだ。



赤髪の女性が話し終わった後の儚い笑みが、サヤと重なる。
儚い笑みのまま潰されていく様子が。


「いたゾ！！
人間ダ！！」


「何が…獣人だ…。
こんな…ふざけた事しか起こせないのかよ…お前らは…。

誰かを不幸にしなくちゃ…生きていけないのか？」




獣達は、アイクを囲むと頭を傾げて笑い出した。



「言っている意味がわからなイ。
使い捨ての道具に幸せも不幸もないだろウ？

お前は、削られていく鉛筆の芯を涙を流しながら使用するのカ？
使った後のストローも後生大事に取っておくのカ？

冗談も休み休…。」


その瞬間に獣の頭が弾け飛んだ。相方が死んで叫びそうになったが、他の獣は叫びはせずにアイクの姿に驚いている。
アイクの胸元にある赤色のネックレスから、サヤが体をかけるときにでてくるような真紅の雷を広範囲に放っていた。

アイクの体を包み込むように真紅の雷は広がっていき、アイクのキーウエポンと共鳴する。



“体”


共鳴したアイクのキーウエポンから、真紅の雷が広がり肉体を強化していく。
その瞬間に、アイクの姿がブレた。



獣の頭をパンチで粉砕し、片方の獣を蹴りだけで横に割ったのだ。



生命力の強い獣は、体を割られただけでは死なない。


アイクは、直ぐに両手をキーウエポンで切断すると胸ぐらを掴んで獣を睨む。



「いいか、これはお願いでもない。

“命令”だ。
俺たちノラのファーストサンプル…俺の妻のサヤを…何処に連れていった？
簡単には死なないんだ、答えなければ嬲り殺してやるよ。」




アイクは、脅しではない証に獣の一部をキーウエポンで少しだけ削った。

悲鳴が上がったが、アイクは追撃を加える様子はなく淡々とした表情でソレを眺めてそのまま移動する。

だが、だんまりを決め込むようならキーウエポンでまた少しだけ削っていく。
死にそうになったら、心で治癒した。


それを繰り返すと、獣は正気を失ったような声で話を始める。


「…処刑…台.ダ。
実験にも…苗床にも使わな…イ。

敵軍の…英雄として…我々を圧倒し畏怖の感情を…植え付けた…人間として…讃えるよう…にな。


公開…処刑だ。

この砦の中枢で…するだろ…う。」

「そうか。
ありがとな。」



アイクは、優しい声色でそう言うと無慈悲に教えてくれた獣を真っ二つにした。