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第十三話
第13話 12
しおりを挟む「ナツか。
ここ近辺で、怪しい動きをするものがあると通報があった。
お前が変なトラブルを起こすとは思えないが…。」
アステラは、チラリとナツの手元を見るとグッタリとしたハルの姿が目に入り全てを察したのかギロリと軍人に視線を向けた。
「自分は、獣もインフィニティの技術を持つと聞きこの見回りに気を引き締めて従事していました。
この暗闇とあってあの犬が匍匐前進している獣に見えた為に咄嗟に発砲をしました。
申し訳ありません!」
軍人はアステラに向き直ると、ビシッと敬礼してそう報告した。
あまり感情を出さないアステラだったがこの時は強く舌打ちを響かせた。
「謝罪する相手を間違えていないか?」
アステラは、そう言うと右手にある銃を腰にしまう。
そして、放心状態のナツの近くに移動して頭を下げる。
「私の部下が大きな失態を犯し、誠に申し訳ありません。
どんな責任も請け負う覚悟はあります。」
「そんなに謝られたって、賠償をかけたって、そこのバカを殺したってハルは帰ってこない。
インフィニティの事は僕の耳にも入っていたのにも関わらず、安易な行動をしていた僕にも責任はある。
…僕の事はいいから、街の見回りをしてくれこれ以上被害がでないようにね。」
ナツは、ハルを抱えてゆっくりと立ち上がり頭を下げたままのアステラを素通りしてその場を去った。
覚悟はしていた、別れの時を。
だけど、こんな呆気なく…そして唐突に起こるなんて考えもしなかった。
理由は単純。
自分の不注意だ。
「…っぁああああ!!」
自宅についたナツは、叫んだ。
恐らく生まれて初めての叫んだのだろう。
ナツに枯れていた心に火を灯していたのは、ハルだった。
一緒に過ごす楽しい感情も、病気で倒れた不安な感情も、それを乗り越えた感動した感情も。
そして、別れることによって生まれた悲しい感情も。
全て、ハルがくれたもの。
叫びながら、それだけは強く頭に残した。
いつまでも消えないように。
ハルを抱きしめ叫んだ後に落ち着くとナツはハルに死化粧をした。
撃たれた怪我を丁寧に塞ぎ、今までの感謝と一緒に 別れを惜しむように丁寧に洗っていた。
そして、次の日にハルを自分で火葬した。
短い時間とはいえハルに良くしてくれた、ノラのメンバーだけは声をかけていた。
特に、これと言った事はなかったが涙を流さなかったナツの分までジュリが涙したと言う。
それから、ナツは取り憑かれたように研究を進めた。
最初の腕輪の効果の向上。
そして、前に話した能力を分散して各々の能力をオリジナルより向上したもの。
そして、後にアイクが対峙する事になる人形。
それと、人と人の精神を入れ替えるもの。
「ナツ、大丈夫か?
無理してないか?」
「なんだ、君か…。
いや、無理はしてないさ。
ただ、寝付けない時間を研究時間に使ってるだけ。」
ナツは、目の下に大きな隈を作っていて少しだけ窶れたような感じだ。
ご飯は、アイク達がナツの家に押しかけてご飯を食べているが誰も居ない朝は何も食べてないだろう。
寝付けない時間で研究に没滅しているようだが、一般的にそれを無茶しているって言うんだろうに…そんな事は本人も重々承知だろうから、無理に言うのもあれか。
ベルは、話題を変えるように口を開いた。
「あのセキュリティー人形…たしか“ゲート”だっけ?
あんな怪物じみた奴をよく作れたね。
武器まで、再現できたせいで実験運用した部隊が壊滅しかかった…らしいけど…。」
「それは、前もって情報を伝えていたにも関わらず訓練実験で運用した奴が悪い。
僕の実験は、全て僕が被験者だ。
あのファーストサンプルを使ってもなんとか勝てたって位なのにね。」
一部の部隊では、キーウエポンを使う強化サヤが出現したらしく壊滅しかかったという。
やれやれと言ったように、肩を竦めてパソコンをいじる。
今、ナツがパソコンで調査員しているのは精神を入れ替えるインフィニティみたいだ。
この実験の意義は、獣を生かして捉えて体を入れ替えて潜入するとの事らしい。
もし、バレても殺される直前でインフィニティを解除すればいい。
ある程度の作戦は練られてはいるが、全てはインフィニティのでき次第になる。
「…ちょうどいい、ベル。
実践の前に実験に付き合ってくれないかな?
今日は助手が不在でね、少しだけ体を取り替えて欲しい。
安全性は、実験動物で確認済み。
後は、人間でそれが可能かどうか…。」
「ぇえーよ。」
軽い返事で答えたベルは、ナツの言われた通りにした。
実験は勿論、成功。
記憶は、交換前の人間のままで交換した人物の記憶などは吐き出せないようだ。
「僕も実際にやるのは、初めてだけど…肉眼で自分自身を見るのは何か違和感があるね。
記憶は魂とつながっているのかな、この状態でも僕の記憶が遡れる。」
「交換した相手の記憶は遡れないのは、不便だな。
手当たり次第に交換して情報収集とかもできそうだが…。」
そんなやりとりをした後にナツは精神を元に戻す。
「いや、これでいい。
変に記憶を吸い出せてしまって人格や精神が崩壊する可能性もあるし、万が一こちらの情報が獣達のに入っても困る。
記憶のバックアップがあれが、仮に洗脳とかやられても対処ができるかなぁ。」
ナツはそういながら、椅子に座り記録をするためにパソコンを再び操作し始めた。
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