Nora First Edition

第六話

第6話 4

「敵は、完全に沈黙しました。
今度こそ帰りましょう、素敵ハウスに。」


カナは、目を瞑って探知している影に意識を集中させた後に目を開いてそう言った。
B.Kの特徴までも正確に感知したので、精度の信頼度は言うまでもないだろう。


そして、穏やかな表情で目の前にある素敵ハウスを指差し三人を先導した。



多少、荒らされた所はあったが…出ていく前とあまり変わっていない。
きっとカナが必死に守ってきたおかげだろう。


アイクにとっては我が家ともいえる場所だ。
シオが管理していた倉庫も、エグザスとジュリがファンシーに整えていた宿所も、ベルとコーダと過ごしたキーウエポンの研究所、グレーズが酔って破壊した壁、カナが転んで粉々にした床。

そして、愛しい人と過ごした大切な場所。


変わっていない所は何も変わっていない、そんな当たり前の状態を見たアイクは少しだけ嬉しそうな表情を浮かべて静かに“ただいま”と口ずさんだ。




「早速で悪いが、お前は何者なんだ？
エグザス程の体の精度、そして自身の影を広げる特殊能力。

ホープの他に何かしらの人類の切り札を持っているのか？」


「何かしらではありません。
ホープを含む全ての切り札を自分は使えます。

極限まで獣化を押さえた獣人化。

自分の影を操るエグザスとは違うタイプの神話継承の“影使い〔ダークマスター〕”。


ホープの出力強化をするキーウエポン複合型の武装インフィニティ。
自分達は、共鳴型と呼んでいます。

そして、全ての森羅万象。





アイク殿と分かれてから、これらの力を使いこなせるよう鍛練の日々でした。
数こそは多いですが、能力の仕様を昔から分かっていたので一人での訓練もさほど苦ではありませんでしたね。」


B.Kの問いにさらっとカナは答えた。

人類の切り札の一つ一つは、たしかに強力だがそれ故に適合できる人間は限られていた。
安全で適合率が高めなホープでさえ、数が僅かなのだ。


、
「獣人化だと…！
成功例がいたのか！？

被験者は、全員…死んだと聞かされていたが。」



特に獣人はリスクが大きく被験体で成功したと言う話は聞いた事がない為、B.Kは驚いた表情でカナを見る。
カナは本人は、肩の大きさを知らないのか落ち着いた表情でお茶の準備をしていた。

そしてカナは、思い出したかのように口を開く。



「ぁあ…名前は忘れましたが、自分はある人物の遺伝子をベースとして作られた人造人間〔ホムンクルス〕です。

だから“普通の人間”という枠組みには入れま…。」



アイクは、話の途中だがカナの額を小突いた。
いつも叩く場所が決まっているのは、話を止めることができるから。


アイクは眉間にシワを寄せてカナをみている。



「人間に普通もクソもないだろ。
他の人より切り札のキャパを超えていたただそれだけのことだろお前は。

一々、“普通”なんてつけるな。

胸をはっていろ、頭悪いんだから化け物だとかごちゃごちゃ言ってるんじゃねーよ。」

「ふふ…。
アイク殿も相変わらずですね。


…キーウエポン達は無事です。
辺りの部屋は荒らされはしましたが、彼処だけはアイク殿のセキュリティーもあって進入寸前で食い止めれました。」


叩かれた所を抑えてフフッと笑ったカナは、ゆっくりと扉の前に移動して腕を横に一振りする。
先程まで話していた影の力が作用されているのだろう。

そして、ゆっくりと扉を開いた。