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清泉皇帝
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しおりを挟むこんな意思のある瞳を持った女性なら、絶対あの冷帝に負けることなく隣に立てて、かつ、国を前に進めていける。
頭から布を被るゆったりとした服装は最初の頃から変わらず、だから余計に瞳の印象が強くなる。紅も刷かない唇は熟れた桃のようにみずみずしい。
最初から美人だとは思っていたけど、星羽と話せば話すほどに打ち解けて、その性格が好きだと思う。
最初から物腰柔らかに応対してくれて、瞳のこともきれいだと言ってくれた。美琪や惠燕のように侮蔑の色を浮かべることもなく、また冷帝のように品定めするように見られたこともなかった。
皇帝のことで弱気になっていた麗華を慰めてくれたし、星読みの事だって素直に信じてくれた。
あの町を離れてからこの瞳のことで良い思いなんてしてなかったけれど(花淑とは邂逅を果たせたけど)、この瞳のおかげで星羽と会えたのだったら、それは素晴らしい運命だ。
麗華が翠の瞳に飽きた冷帝に捨てられるまでは後宮(ここ)で暮らしていかなければいけないのだし、だとしたら心を許せる友達が居たほうが良い。
星羽は、まさに信頼に値する、麗華が好きな人だった。
星羽は勉強熱心だし、絶対に皇帝の隣にいるにふさわしい人だと、そう思う。
「……私は、そうやってご自分の運命を探す星羽さまが美しいと思います」
心を込めてそう言うと、星羽はふふ、と微笑んでくれた。
「嬉しいわ、私のことをそんな風に思ってくれて。私も、貴女のその、嘘のないきれいな翠の瞳が好き。もっと見せて頂戴」
星羽が向かいの椅子から麗華の隣の椅子へと移動し、ひじ掛けにおいていた麗華の手を取る。間近にきれいな透明な黒の瞳が寄って、視線を外すなんて考えもしなかった。
……目の前が陰になる。
ちゅ、と瞼に湿った感触と小さな音が聞こえて、麗華は呆然とした。
影が去り室内の灯りが目の前に戻ると、目の前に黒い瞳を細めて微笑む星羽の顔があった。
……えっ?
「陛下には内緒ですよ……?」
まるでいたずらが成功したみたいな笑みを浮かべている。状況が飲み込めない麗華はぼんやりと席を立つ星羽の姿を目で追った。
その視線に気が付いた星羽が振り向いて微笑んだまま口を開く。
「あら、もう一度して欲しい?」
「ええっ!? いややややややや!?」
神秘的で透明な黒の瞳は奥深く、何を考えているのか分からない。口づけされたことに驚いて頭の中が混乱しているけれど、麗華の心には、決して嫌な気持ちはなかった。
「び……、びっくりしましたけど、嫌じゃありません……。……でも……」
自分たちは皇帝と結ばれるために此処に居る筈だ。そう言いたくて言えないでいると、星羽は、そうね、と笑みを浮かべたままそう言った。
「だから、これは二人だけの秘密。さあ、今日はもう宮にお戻りなさい。またお話しましょう」
やさしい声でそう言われて、麗華はぼんやりとしたまま自分の部屋に戻った。
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