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4章 イルミネーション
42話
しおりを挟むイルミネーションは、どうしてあぁまで綺麗なのだろう。
光が綺麗だから、というのは答えとして十分じゃない。光っているものなんか、車や建物。そこら中に溢れている。
私は、小さいからだと思う。誰かに言ってもたぶんきょとんと首をひねられる。だから誰にも言ったことはない。一人で心の中で思っていることだ。
イルミネーションの光ひとつひとつは、それだけなら光っているのかどうか分からないほど小さい灯りだ。いわば、それはどこかの誰かの小さな願いで、かすかな祈り。一つだけなら、誰にも知られずじまいで消えていく。誰もが気づかずその前を通り過ぎる。
けれど小さな光が数多集まったら、それはひとつの大きな光になる。暗闇をなによりも明るく照らす大きな光。通り過ぎようとした人の誰もが立ち止まる。立ち止まらせる。
小さい頃、冬になると来る日も来る日も見に行った。小さな私の小さな願いも、きっと叶うものと信じて。
小学校から数百メートル行ったところに少し大きなツリーのイルミネーションがあった。学校が終わったら、家に帰らないで直接そこに行く。そして真下にあるベンチに座って、なにをするわけでもなく点灯するのを待つ。学校が終わるのが三時半、点灯するのが六時。
二時間半と聞けばかなり長い時間に思うかもしれないが、その時の私からすればそんな時間はないも同然だった。寒空の下だったろうに、不思議と寒さに震えていた覚えもない。
六時手前になると、決まって私は近くの時計塔を見ながらカウントダウンをした。三、二、一で私の周りの木々が一斉に青白い光を放って点灯する。
それを見るたび何度も、身体がぞわっと真ん中から震えるほど感動した。幼い私は、点灯してからも長い時間見続ける。ずっと見ていられる気さえした。それで、そろそろ家に帰らなきゃと思った時間に家に帰った。
おばさんは私の門限に関して、かなり寛容だった。何時に帰ってもなにも言わず、迎えてくれた。身体が弱かったから、怒るに怒れなかったのだろう。
だから帰るのが九時を回ることもあったと思う。
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