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2章 黒服男
19話
しおりを挟む駅に着いてから、他に人気もしない駅でしばらく待っていると笹川さんがやって来た。まだ約束した時間の二十分以上も前だった。
かなり身軽な格好をしていた。青色のワンピースに、サンダルが夏らしい。見たままそう思った。本当はトレンドとか、遊びとか、もっと複合的に考えたうえで選んでいるのかもしれないけれど、私には分からない。
「こんにちは」
「こんにちは、ふふっ」
笹川さんは私を一目見て、吹き出すように笑った。
「……そんなに面白いですか」
「あは、すいません。白い服だなんて考えてなかったので、一瞬そら似の別人かと思いました」
「気が向いたんです。やはりおかしかったですね」
「いえ、そうは言ってません。けど髪型もあって、ちょっと。ふふっ」
「……もう髪型のことは言わないでくださいってば」
「わかってます、これで終わりにしますから。ふふっ」
前髪を指先で引っ張って、伸ばす。すだれのごとく綺麗に切り揃えられた髪は、目を隠すこともできない。
本当は隣駅の美容室に行こうと思っていたのだが、美容室に行ったことがなかったから怖気付いて、最寄り駅の散髪屋に行った。どうせ噂は噂だろうと楽観視していたら、本当にされた。
笹川さんはそれから私を見るたびに笑う。それも仕方ないことだ。たまに鏡を見れば、自分でも笑いそうになる時があるくらいだから。
「やっぱり早いですね。今日は先に来られるかと思ったのに」
「……僕は、こうなんです。むしろ笹川さんが早いんですよ」
これはずっと癖だ。なにをするにも余裕を持って動きたい。ぎりぎりに行って、なにか思わぬことがあったらと思えば不安になってくる。
「これなら初めから十一時半にしておけばよかったですね」
「そうしたら、今度は十一時に来ますよ」
「なるほど、それじゃあ結局変わりませんね」
電車を待ってから、二つ隣の駅で降りる。ここには小さいながらショッピング街があって、最寄り駅よりはいくらか栄えている。
今日行く店は、ピザを売りにしているイタリアンだ。ここの辺りではまま有名らしく、会社の同僚が興奮しながら行ったことについて語っていた。駅の離れまで歩くと、路地裏に店名の書かれた看板と何人か人の並んでいるのを見つけた。
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