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エピローグ
58話 星は煌めく。
しおりを挟む「なになに、親愛なるベッティーナ様へ。わたくしは今もあなたの顔を思い浮かべて雲にも浮かぶ気分でこの手紙を――」
ベッティーナは慌ててリナルドに読まれぬよう、便箋を机の上から除ける。
「人宛ての手紙を覗くのは、本当に趣味が悪いと思いますよ。しかも、公爵令嬢様のものですし」
「言われてみれば、たしかにそうだ。はは」
行為に比して、爽やかに笑うリナルドを横目にベッティーナはひとまず手紙を読み進める。
が、途中で苦しくなってくるのは、まるで詩のような文章がつらつら綴られていたためだ。彼女らしい言葉まわしで、ミラーナの熱い想いがありありと伝わってくる。
(……なんでこうなるのかしら)
事件が処理される過程で、有力貴族らにはベッティーナの素性が知れ渡ることとなった。
これまで婚約者候補としてベッティーナを見ており、アピールをしてきていたミラーナにも、女であることは露見した。
普通は騙されたと憤ってしかるべきだ。絶縁をつきつけられたとして、なんの不思議もない。気まずいながら謝罪に伺えばミラーナはどう言うわけか
「わたくし、男の方ではなくて、あなたが好きだったのかも! だって、それを聞いても嫌いになれませんもの」
と解釈した。
そのため未だベッティーナへのアピールは続いている。
嫌われなかったのは嬉しいことだけれど、どうしたらいいものやら、これはこれで頭が痛い。
ベッティーナは文面だけで若干気圧されながら、一応気合で最後まで目を通す。
そこに、最も重要な情報が乗っていた。もし読んでいなかったら見落としていたかもしれない。
ベッティーナは縦長の封筒を再度手に取り、傾ける。
するとそこから、見慣れているような、懐かしいような気もするものが出てきた。
「ほら。いいものもあっただろ?」
と、リナルドがかがみ込んで、ベッティーナの方を見上げる。
「修理が終わったから、ってわざわざ送ってくれたんだよ」
この10年間愛用しており、この間までジュリアを封じていたイヤリングだ。
ただし、潰れて歪だった形が、元の星形へと戻っている。中心の赤い宝石も磨いてくれたようで、前よりクリアに輝いて見えた。
「……これを直せるなんて、さすがミラーナね」
「僕もそう思うよ。それでも結構苦心してたって、運んできてくれたミラーナの使用人には聞いたけどね。年季も入ってるから、壊さないために気を使ったそうだよ」
ベッティーナはしばらく手のひらの上に乗せたイヤリングを見つめる。
ミラーナに感謝を捧げながら、一方でもうここにいないジュリアへと思いをやった。
正直、直してもらうかどうかはかなり迷ったのだ。壊れたまま十年間つけていたわけだし、それが自分への戒めでも支えでもあった。
ただ、それはたぶん彼女の遺志に反する。
ジュリアは最期、ベッティーナに『幸せになるよう』言った。思えば彼女がこれをくれた時も、そう願ってくれていたに違いない。
ならば彼女が完全に消えた今こそ、その遺志を汲んで星には煌めいてもらわねばならない。
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