44 / 59
三章
44話 よぎる不安
しおりを挟む「すまない、ベティ。あとで厳しく言っておくよ」
「いえ、構いません。事実、妙なことが起きているのはたしかです」
「……あぁ。連続することじゃないな、普通は」
リナルドがベッティーナに同調してそう言うのに、ミラーナが首を傾げる。
「なにか他にも事故がありましたの?」
「あぁ実はね。うちの司書も数日前に事故で腕を怪我したんだ。ラファがいなかったら、全治一月はかかっただろうね」
「……あら、そんなことが」
彼女は元来からつぶらな瞳を、もっと丸く見開く。
「なにか、怪我をした時のことって覚えていませんか」
ベッティーナがこう聞くと、彼女はベッドにすとんと腰を落として顎に手をやって短く唸った。
「うーん、本当に急に風が吹いてきて階段の途中から転んだってぐらいしか……。あと、そうだ。階段が濡れていましたわ。誰かが暑くて水撒きをしたのかもしれませんわね」
「……風、ですか」
それを聞いてふと思い出すのは、ヒシヒシと対峙した時のことだ。
その後の事態が強烈だったから記憶から飛んでいたが、あのときベッティーナは突然の突風により彼女の前へ飛び出してしまい、それを守りに入ったリナルドが窮地を迎えた。
今に考えてみればあれも、おかしな現象だ。
まるで狙ったかのようなタイミングで、背中を突き出された。
もしあれが誰かの企みによるもので、今回ロメロやミラーナに降りかかった災難もその人物によるものだったら?
対象がベッティーナから、周りの人間へと移ったということだったら?
まったくありえない話ではない、実際最近ではベッティーナへの嫌がらせは凪になっている。
「顔を上げてくださいな、ベッティーノ様!」
そう言われてやっと、俯いてしまっていたことに気がついた。
はっと前を向くと、ベッドから再び立ち上がったミラーナがベッティーナのすぐ手前までやってきている。
少し腰をかがめて、下からのぞき込んでくるは、顔全体で表現された笑みだ。怪我をした本人だと言うのに、心底楽しげに映った。
「変に考え込んでいても仕方がないですわ、こういうのは。たまたま不幸が二回重なっただけのことです。それも、リナルドがいたから、どちらも助かってますわ」
「……そう言われれば、そうかもしれませんけど」
「けど、でも、じゃありませんわ。それに今となっては、不幸かと言えばどちらかと言えば、幸せかもしれません」
そればっかりは、要領を得ない。
ベッティーナが眉間にしわを寄せていたら、彼女は手を大きく広げる。
「自然の流れで、ベッティーノ様をわたくしの部屋に呼ぶことができましたわ。まぁリナルド様もいますけど」
「おいおい、僕は邪魔者扱いかい?」
「ヒールしてくれたことは感謝してますけど……、そうですわね、よくて添え物?」
「おいおい、ずいぶんな言われようだな」
二人はまた愉快そうに笑いあう。それからリナルドはベッティーナの肩を軽く一回叩いた。
「君は少しネガティブに考えすぎるんだ。もう少し気楽に構えているといいさ」
いつもの余裕がある、爽やかな笑みが投げかけられる。
それから彼は見舞い品として持ってきた土産の披露を始めた。そうして、話題が移り変わっていく。
だが、賑やかしくなる部屋のかたわらで、一人。
ベッティーナの心の中からざわつきは消えない。とにかく冷静にならねば、とイヤリングを触るが心が落ち着いていかない。
この白くて明るい部屋にいることさえ、場違いに感じるのであった。
0
お気に入りに追加
274
あなたにおすすめの小説
王宮侍女は穴に落ちる
斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された
アニエスは王宮で運良く職を得る。
呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き
の侍女として。
忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。
ところが、ある日ちょっとした諍いから
突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。
ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな
俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され
るお話です。
異世界で悪霊となった俺、チート能力欲しさに神様のミッションを開始する
眠眠
ファンタジー
トラックに跳ねられ異世界に飛ばされた主人公。気がつくと、彼は身体のない意識だけの存在に成り果てていた。なぜこのようなことになってしまったのか。謎を探るべく異世界を彷徨う主人公の前に死神さんが現れた。死神さんは主人公に今の状態が異世界転生(仮)であることを告げ、とあるミッションの達成と引き換えに正しい転生と3つのチート能力の贈呈を約束する。そのミッションとは様々な異世界を巡るもので……。
身体を失った主人公が残った心すらボッキボキに折られながらも頑張って転生を目指す物語です。
なお、その過程でどんどん主人公の変態レベルが上がっていくようです。
第1章は「働かなくてもいい世界」。労働不要の世界で、不死の住人達と友達になります。
第2章は「恋のキューピッド大作戦」。世界を救うため、とある二人の恋仲を成就させます。
6〜8つの世界を巡る予定です。
最恐魔女の姉に溺愛されている追放令嬢はどん底から成り上がる
盛平
ファンタジー
幼い頃に、貴族である両親から、魔力が少ないとう理由で捨てられたプリシラ。召喚士養成学校を卒業し、霊獣と契約して晴れて召喚士になった。学業を終えたプリシラにはやらなければいけない事があった。それはひとり立ちだ。自分の手で仕事をし、働かなければいけない。さもないと、プリシラの事を溺愛してやまない姉のエスメラルダが現れてしまうからだ。エスメラルダは優秀な魔女だが、重度のシスコンで、プリシラの周りの人々に多大なる迷惑をかけてしまうのだ。姉のエスメラルダは美しい笑顔でプリシラに言うのだ。「プリシラ、誰かにいじめられたら、お姉ちゃんに言いなさい?そいつを攻撃魔法でギッタギッタにしてあげるから」プリシラは冷や汗をかきながら、決して危険な目にあってはいけないと心に誓うのだ。だがなぜかプリシラの行く先々で厄介ごとがふりかかる。プリシラは平穏な生活を送るため、唯一使える風魔法を駆使して、就職活動に奮闘する。ざまぁもあります。
生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。
水定ユウ
ファンタジー
村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。
異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。
そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。
生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!
※とりあえず、一時完結いたしました。
今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。
その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。
あたし、今日からご主人さまの人質メイドです!
むらさ樹
恋愛
お父さんの借金のせいで、あたしは人質として連れて行かれちゃった!?
だけど住み込みでメイドとして働く事になった先は、クラスメイトの気になる男の子の大豪邸
「お前はオレのペットなんだ。
オレの事はご主人様と呼べよな」
ペット!?
そんなの聞いてないよぉ!!
「いいか?
学校じゃご主人様なんて呼ぶなよ。
お前がオレのペットなのは、ふたりだけの秘密なんだからな」
誰も知らない、あたしと理央クンだけのヒミツの関係……!
「こっち、来いよ。
ご主人様の命令は、絶対だろ?」
学校では、クールで一匹狼な理央クン
でもここでは、全然雰囲気が違うの
「抱かせろよ。
お前はオレのペットなんだから、拒む権利ないんだからな」
初めて見る理央クンに、どんどん惹かれていく
ペットでも、構わない
理央クン、すき_____
【第二部完結】 最強のFランク光魔導士、追放される
はくら(仮名)
ファンタジー
※2024年6月5日 番外編第二話の終結後は、しばらくの間休載します。再開時期は未定となります。
※ノベルピアの運営様よりとても素敵な表紙イラストをいただきました! モデルは作中キャラのエイラです。本当にありがとうございます!
※第二部完結しました。
光魔導士であるシャイナはその強すぎる光魔法のせいで戦闘中の仲間の目も眩ませてしまうほどであり、また普段の素行の悪さも相まって、旅のパーティーから追放されてしまう。
※短期連載(予定)
※当作品はノベルピアでも公開しています。
※今後何かしらの不手際があるかと思いますが、気付き次第適宜修正していきたいと思っています。
※また今後、事前の告知なく各種設定や名称などを変更する可能性があります。なにとぞご了承ください。
※お知らせ
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
戦力より戦略。
haruhi8128
ファンタジー
【毎日更新!】
引きこもりニートが異世界に飛ばされてしまった!?
とりあえず周りを見学していると自分に不都合なことばかり判明!
知識をもってどうにかしなきゃ!!
ゲームの世界にとばされてしまった主人公は、周りを見学しているうちにある子と出会う。なしくずし的にパーティーを組むのだが、その正体は…!?
感想頂けると嬉しいです!
横書きのほうが見やすいかもです!(結構数字使ってるので…)
「ツギクル」のバナーになります。良ければ是非。
<a href="https://www.tugikuru.jp/colink/link?cid=40118" target="_blank"><img src="https://www.tugikuru.jp/colink?cid=40118&size=l" alt="ツギクルバナー"></a>
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる