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三章
43話 不幸
しおりを挟む「……まさか君まで怪我をするなんて驚いたな」
ベッティーナとリナルドが通されたのは、白を基調としたこじゃれた内装の一室だった。入った瞬間に、彼女らしい部屋だと思う。
白は単調になりがちな色だが、木目のカゴや椅子などでうまく差し色がされてあり、統一感だけではなく、自然なあたたかみを感じるのだ。
壁面にかけられたラックには小さな雑貨などが飾られており、こだわりが随所に見える。
そんな部屋を奥へと進んでいけば、天蓋のかけられたベッドに、その彼女が横たわって毛布にくるまっていた。
枕の上で顔をこてんと、こちらへ傾けるのはオルラド公爵家のご令嬢・ミラーナだ。
「ベッティーノ様に、リナルド様、わざわざお越しいただいたのですね」
彼女は顔をこちらへ振り向けてくれながら、頬に貼りついていた髪を払う。
夜会で出会ってからというもの、何度か会ってきたが、彼女が髪をおろしているのは、初めて見た。
気丈に振る舞ってこそいるが、見た目に気を遣う余裕がないくらいには、その怪我は重い。どうやら腰を強く打って、動けなくなったらしい。
そのため、彼女の屋敷まで見舞いに訪れたベッティーナとリナルドは直接、彼女の部屋へと案内をされていた。
もはや慣れた手つきである。リナルドは天使・ラファをすぐに召喚し、早速治療がなされる。やはりその効果は絶大のようで、少しののち、彼女はすぐに起き上がることができた。
ミラーナは、よっぽど身体を動かしたかったのかもしれない。
「さすがね、リナルドさま! それにラファも! ありがと!」
リナルドに礼を言いつつ、ラファの羽を一つ撫でると、ベッドから飛び出る。
その場で回転してみたりと、存分に身体を動かしはじめた。
「やっぱりいいわね、動けるって。二日ぶりだからなおさら」
よほど鬱憤が溜まっていたようで、声も一気に明るくなる。
が、今度は調子に乗りすぎたのか、普通に腰を痛めたらしく手を当てて、よよよと崩れこむ。
その陽気さに引っ張られて、リナルドが笑い、場の空気は明るくなるが、ベッティーナの中には不穏さがたしかに残っていた。
一つならただの不運で片付けられたかもしれないが、二度重なってしまえば偶然では片づけられない。
ベッティーナが目をつむり眉を寄せて考えこんでいたら、わずかな羽音が聞こえる。
見れば、天使・ラファが顔の周りを飛び回っていた。
「辛気臭い顔してるね。実は全部あんたの仕業なんじゃないの?」
「ラファ、やめるんだ。滅多なことを言うものじゃない」
すぐリナルドにたしなめられて、彼女は召喚を解かれる。なにかを言いかけていたが、そのまま強制的にネックレスへと戻されていった。
彼女の残していった光の粒が舞う中、ミラーナの前で『悪魔使い』と呼ばれなかったことに、ベッティーナはほっとする。
リナルドに見抜かれて以来それは、他言無用の秘密事項となっていたためだ。
ミラーナのことを信用できないわけじゃないが、ベッティーナ自身、誰かにわざわざ言いたいことでもなかった。
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