上 下
30 / 59
二章

30話 悪霊バレしました。

しおりを挟む

「君がメイド長の気を失わせたことも確認したそうだ。なかなか手荒なことをしたね? 
まぁでも、君への嫌がらせは「金をやるから」との手紙に唆されてやった犯行だと、メイド長はすでに自白もしてる。たぶん夜会に出ていた貴族の誰かの指図だ。だから、それを咎めるつもりはないさ」

もはや、しらを切り通すことはできなさそうだった。

あまりにも証拠が揃いすぎているというか、明白に目撃までされている。女性であるという事実の方は気づかれていないようだったが、一つ見つかってしまったら一緒だ。

ベッティーナは耳飾りに触れて意識的に落ち着く。

こうなったベッティーナにできるのは、もう一つだけであった。

指を握りこみ、指輪に魔力をくわえるとプルソンを机の上へと召喚する。リナルドには見えていないはずだ。
『逃げるわよ』

 念話で端的に、こう伝える。

『は⁉ なんでだよ、ベティ。オレはこの屋敷を気に入ってるんだぜ』
『うるさい、誰のせいだと思ってるの。とにかく行くわよ。力を貸しなさい。私を黒い霧で覆うの』
『あん? だったら、あとで相応の褒美が……』

 ベッティーナは、言うに事欠いてそんな主張をするプルソンに睨みをきかせる。

 褒美どころか説教をくれてやりたいくらいなのだ。

『な、なんだってんだよ。まぁ分かったぜ』

 褒美どころか大説教をくれてやりたい。
 そんなベッティーナの苛立ちが伝わったのか、プルソンは渋々といった感じながら、その全身から黒の魔力を放出しはじめる。

さすがは悪魔だ。魔力の放出ペースは、ベッティーナよりかなり早い。

そうしてできあがった黒の空気は、身体に纏わせることで、視認を阻害したり物理攻撃をもなきものにする。消費魔力が大きくて、長くは続けられないのだけれど、少しの時間があれば済む。

そう考えて姿をくらまそうとしたのだけれど……

「ベッティーノ君、隠れようとしたみたいだけど……見えてるよ」
「……のようですね」

 その黒い霧の一部が、さわさわと消えていく。反対に光の粒を撒いてるのは、リナルドの肩口で飛ぶ小さな天使だ。

悪魔と違い、その姿はリナルドにも、ベッティーナにも見えていた。

「姑息なことはしない方がいいよ。悪魔風情のやることは、あたしみたいな天使にはお見通しなんだから」
「ラファ、口には気をつけるよう、いつも言っているだろう」

天使の放つ光により、プルソンの魔力が打ち消されてしまっていた。

プルソンは力を強め、霧を一気に噴出させるが、それに対抗してラファの力も増していく。
さすがは精霊の上位存在である。並の精霊ならまず間違いなく打ち消せないプルソンの魔術を、真っ向から打ち消してしまえるのだから。

力の関係は互角と言えた。

『ベティ、こいつかなりやるぞ……? やっちまってもいいか。戦って、潰してやる!! ……天使なんて存在はよ、この世を混乱させるだけだぜ。人間の犬になりさがって、いい顔しやがってよ』
「言葉遣いがなってないなぁ。これだから悪魔は野蛮で嫌いなんだよ、あたし」
『てめぇ、言わせておけばいい気になりやがって』

 プルソンは、こう肩をいからせ威嚇をし、いきり立つ。

 悪霊・悪魔と精霊・天使はお互いのことをひどく嫌っていて、常に争いが絶えないから無理もない話だ。
が、ここで戦ったところで、目的は達せられそうになかった。

 たとえばここで、ラファを倒すことができたとして、すぐに決着がつくわけじゃない。そんなうちに、屋敷の周りを囲われれば簡単にお縄になる。

 この天使を相手に戦いを挑んだ途端、ここは敵陣の中心地へとなり替わるのだ。

 ベッティーナはそれを諦めて、プルソンの召喚を解いた。

 今逃げだすことは諦めて、ただ座り直す。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

王宮侍女は穴に落ちる

斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された アニエスは王宮で運良く職を得る。 呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き の侍女として。 忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。 ところが、ある日ちょっとした諍いから 突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。 ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな 俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され るお話です。

異世界で悪霊となった俺、チート能力欲しさに神様のミッションを開始する

眠眠
ファンタジー
 トラックに跳ねられ異世界に飛ばされた主人公。気がつくと、彼は身体のない意識だけの存在に成り果てていた。なぜこのようなことになってしまったのか。謎を探るべく異世界を彷徨う主人公の前に死神さんが現れた。死神さんは主人公に今の状態が異世界転生(仮)であることを告げ、とあるミッションの達成と引き換えに正しい転生と3つのチート能力の贈呈を約束する。そのミッションとは様々な異世界を巡るもので……。  身体を失った主人公が残った心すらボッキボキに折られながらも頑張って転生を目指す物語です。  なお、その過程でどんどん主人公の変態レベルが上がっていくようです。 第1章は「働かなくてもいい世界」。労働不要の世界で、不死の住人達と友達になります。 第2章は「恋のキューピッド大作戦」。世界を救うため、とある二人の恋仲を成就させます。 6〜8つの世界を巡る予定です。

元銀行員の俺が異世界で経営コンサルタントに転職しました

きゅちゃん
ファンタジー
元エリート (?)銀行員の高山左近が異世界に転生し、コンサルタントとしてがんばるお話です。武器屋の経営を改善したり、王国軍の人事制度を改定していったりして、異世界でビジネススキルを磨きつつ、まったり立身出世していく予定です。 元エリートではないものの銀行員、現小売で働く意識高い系の筆者が実体験や付け焼き刃の知識を元に書いていますので、ツッコミどころが多々あるかもしれません。 もしかしたらひょっとすると仕事で役に立つかもしれない…そんな気軽な気持ちで読んで頂ければと思います。

最恐魔女の姉に溺愛されている追放令嬢はどん底から成り上がる

盛平
ファンタジー
幼い頃に、貴族である両親から、魔力が少ないとう理由で捨てられたプリシラ。召喚士養成学校を卒業し、霊獣と契約して晴れて召喚士になった。学業を終えたプリシラにはやらなければいけない事があった。それはひとり立ちだ。自分の手で仕事をし、働かなければいけない。さもないと、プリシラの事を溺愛してやまない姉のエスメラルダが現れてしまうからだ。エスメラルダは優秀な魔女だが、重度のシスコンで、プリシラの周りの人々に多大なる迷惑をかけてしまうのだ。姉のエスメラルダは美しい笑顔でプリシラに言うのだ。「プリシラ、誰かにいじめられたら、お姉ちゃんに言いなさい?そいつを攻撃魔法でギッタギッタにしてあげるから」プリシラは冷や汗をかきながら、決して危険な目にあってはいけないと心に誓うのだ。だがなぜかプリシラの行く先々で厄介ごとがふりかかる。プリシラは平穏な生活を送るため、唯一使える風魔法を駆使して、就職活動に奮闘する。ざまぁもあります。

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ユウ
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

あたし、今日からご主人さまの人質メイドです!

むらさ樹
恋愛
お父さんの借金のせいで、あたしは人質として連れて行かれちゃった!? だけど住み込みでメイドとして働く事になった先は、クラスメイトの気になる男の子の大豪邸 「お前はオレのペットなんだ。 オレの事はご主人様と呼べよな」 ペット!? そんなの聞いてないよぉ!! 「いいか? 学校じゃご主人様なんて呼ぶなよ。 お前がオレのペットなのは、ふたりだけの秘密なんだからな」 誰も知らない、あたしと理央クンだけのヒミツの関係……! 「こっち、来いよ。 ご主人様の命令は、絶対だろ?」 学校では、クールで一匹狼な理央クン でもここでは、全然雰囲気が違うの 「抱かせろよ。 お前はオレのペットなんだから、拒む権利ないんだからな」 初めて見る理央クンに、どんどん惹かれていく ペットでも、構わない 理央クン、すき_____

【第二部完結】 最強のFランク光魔導士、追放される

はくら(仮名)
ファンタジー
※2024年6月5日 番外編第二話の終結後は、しばらくの間休載します。再開時期は未定となります。 ※ノベルピアの運営様よりとても素敵な表紙イラストをいただきました! モデルは作中キャラのエイラです。本当にありがとうございます! ※第二部完結しました。 光魔導士であるシャイナはその強すぎる光魔法のせいで戦闘中の仲間の目も眩ませてしまうほどであり、また普段の素行の悪さも相まって、旅のパーティーから追放されてしまう。 ※短期連載(予定) ※当作品はノベルピアでも公開しています。 ※今後何かしらの不手際があるかと思いますが、気付き次第適宜修正していきたいと思っています。 ※また今後、事前の告知なく各種設定や名称などを変更する可能性があります。なにとぞご了承ください。 ※お知らせ

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

処理中です...