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二章
30話 悪霊バレしました。
しおりを挟む「君がメイド長の気を失わせたことも確認したそうだ。なかなか手荒なことをしたね?
まぁでも、君への嫌がらせは「金をやるから」との手紙に唆されてやった犯行だと、メイド長はすでに自白もしてる。たぶん夜会に出ていた貴族の誰かの指図だ。だから、それを咎めるつもりはないさ」
もはや、しらを切り通すことはできなさそうだった。
あまりにも証拠が揃いすぎているというか、明白に目撃までされている。女性であるという事実の方は気づかれていないようだったが、一つ見つかってしまったら一緒だ。
ベッティーナは耳飾りに触れて意識的に落ち着く。
こうなったベッティーナにできるのは、もう一つだけであった。
指を握りこみ、指輪に魔力をくわえるとプルソンを机の上へと召喚する。リナルドには見えていないはずだ。
『逃げるわよ』
念話で端的に、こう伝える。
『は⁉ なんでだよ、ベティ。オレはこの屋敷を気に入ってるんだぜ』
『うるさい、誰のせいだと思ってるの。とにかく行くわよ。力を貸しなさい。私を黒い霧で覆うの』
『あん? だったら、あとで相応の褒美が……』
ベッティーナは、言うに事欠いてそんな主張をするプルソンに睨みをきかせる。
褒美どころか説教をくれてやりたいくらいなのだ。
『な、なんだってんだよ。まぁ分かったぜ』
褒美どころか大説教をくれてやりたい。
そんなベッティーナの苛立ちが伝わったのか、プルソンは渋々といった感じながら、その全身から黒の魔力を放出しはじめる。
さすがは悪魔だ。魔力の放出ペースは、ベッティーナよりかなり早い。
そうしてできあがった黒の空気は、身体に纏わせることで、視認を阻害したり物理攻撃をもなきものにする。消費魔力が大きくて、長くは続けられないのだけれど、少しの時間があれば済む。
そう考えて姿をくらまそうとしたのだけれど……
「ベッティーノ君、隠れようとしたみたいだけど……見えてるよ」
「……のようですね」
その黒い霧の一部が、さわさわと消えていく。反対に光の粒を撒いてるのは、リナルドの肩口で飛ぶ小さな天使だ。
悪魔と違い、その姿はリナルドにも、ベッティーナにも見えていた。
「姑息なことはしない方がいいよ。悪魔風情のやることは、あたしみたいな天使にはお見通しなんだから」
「ラファ、口には気をつけるよう、いつも言っているだろう」
天使の放つ光により、プルソンの魔力が打ち消されてしまっていた。
プルソンは力を強め、霧を一気に噴出させるが、それに対抗してラファの力も増していく。
さすがは精霊の上位存在である。並の精霊ならまず間違いなく打ち消せないプルソンの魔術を、真っ向から打ち消してしまえるのだから。
力の関係は互角と言えた。
『ベティ、こいつかなりやるぞ……? やっちまってもいいか。戦って、潰してやる!! ……天使なんて存在はよ、この世を混乱させるだけだぜ。人間の犬になりさがって、いい顔しやがってよ』
「言葉遣いがなってないなぁ。これだから悪魔は野蛮で嫌いなんだよ、あたし」
『てめぇ、言わせておけばいい気になりやがって』
プルソンは、こう肩をいからせ威嚇をし、いきり立つ。
悪霊・悪魔と精霊・天使はお互いのことをひどく嫌っていて、常に争いが絶えないから無理もない話だ。
が、ここで戦ったところで、目的は達せられそうになかった。
たとえばここで、ラファを倒すことができたとして、すぐに決着がつくわけじゃない。そんなうちに、屋敷の周りを囲われれば簡単にお縄になる。
この天使を相手に戦いを挑んだ途端、ここは敵陣の中心地へとなり替わるのだ。
ベッティーナはそれを諦めて、プルソンの召喚を解いた。
今逃げだすことは諦めて、ただ座り直す。
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