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一章

14話 条件付きの協力

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「君は気が合ったかもしれないな、辞めていったロメロと。あいつもかなりの本の虫で、作家になることが夢だっていつも語っていたっけ」
「そうなのですか。でも、じゃあどうして辞めたのでしょう? 本を読むのにも書くのにも、これほど適した環境はないと思いますが」

「まぁそうなんだけどねぇ」

 思わず、普通に会話を交わしてしまった。

 だが、そのロメロという司書を知らないベッティーナにとって、彼を知る人物からの情報は貴重なものだ。しょうがないと割り切って、辞めた理由を再考する。

 作家になりたいという志を同じくしているからこそ、しっくりとこなかった。

もしベッティーナが彼の立場なら、しがみついてでもこの仕事をしていたい。

「……もしかして、諦めた?」

 まだいっさい煮詰まっていない考えが外へと漏れる。それをリナルドは、くすっと笑い、首を横へ振った。

「逆だよ、逆。天と地ほどに違うな」

 ベッティーナはその意味をすぐには理解できず、眉をしかめる。

「もうなったんだよ、物書きにね。この間、紙の本が発売された。もしかすると、それで書くのに専念したくなったのかもしれないよ」
「……それは考えもしませんでした。その本はお持ちなのですか?」

 その本に、なにかペラペラが霊障を引き起こした理由が隠されている可能性もある。

リナルドならば所持しているかもしれないと尋ねたが、今ここにはないそうだ。

でも、とリナルドは付け加える。

「街の中にある、市井書庫。そこになら、置いてあるかもしれないね。新しく出た書籍は、そこの書庫で集めて、必要だったり読みたいものを一定期間おいたあとに、ここの書庫に移しているんだ」

 国が違えば、状況がまったく異なる。

 アウローラ国には、民間に開放された書庫などなかった。そもそも識字率だって決して高いものではない。

 あくまでベッティーナが知る範囲ではあるが、巷で本が広く読まれているなんてことは、ありえない。

「……随分と開放的なのですね」
「うん、やっぱり知識というのは、誰かが占有しているよりも広まっていろいろな考え方が生まれる方がいいだろう? ってお堅い話はここまでにしようか」

 そこまで言って、リナルド王子は立ちあがる。

 さっきまで外に出ていたのか、正装をしていたが、その肩には草木の枝葉が乗っているのだから、アンバランスだ。

「……あの、クズがついてますよ」
「はは、やはりこうなるか。まああとで適当に払っておくさ。それより、どうする? 書庫に行くなら外出できるよう僕がはからうけど?」

 ある程度の自由が保障されているとはいえ、人質として連れてこられたうえ、いまだ研修中の身である。

 外に出られるのは、原因究明のためには願ってもないことだ。

ベッティーナは慌てて立ちあがり、すぐに頭を下げた。

 が、それだけでは認めてはくれないらしい。

「どうしようかなぁ」

 と、わざとらしく言うのが聞えてベッティーナが顔を上げて見れば、リナルドの右口角がきゅっと上向いていた。
 片頬には、浅い笑窪ができている。

「ま、書庫の封鎖問題に協力してくれるという条件付きの話だけどね」

 ……やはり、あなどれない男だ。そして、その得意げな顔には「葉っぱだらけになってるくせに」と少し腹が立つ。

 頬が勝手に引きつりそうになるが、ベッティーナは意地だけで表情を崩さない。

どうにか持ち直して、かつ笑顔を浮かべてみせる。

「協力します。どうぞお願いします」
「はは、無理してるのが丸わかりだな。目の焦点も僕に合ってないし。でも、まぁ及第点ってところかな。いいよ、任せておいて」
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