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一章

7話 精霊魔法

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ベッティーナがリナルドの屋敷へと移り、二週間程度はあっという間だった。

 そのわけは、過密日程とベッティーナがあまりにも物を知らなかったことにある。

そこで毎日のようにさまざまな分野の講師が訪れて、指導を受けることとなったのだ。

講師の中には「世間知らずにもほどがある。どれだけ宝のように育てられてきたんだ」と憤るものもいたが、残念ながら真逆だ。使わなくなった家具みたいに、裏側にしまわれ続けていたのである。

 周辺諸国の事情から魔法理論、政治や経済の基礎知識、マナーなどまでベッティーナが長らく触れてこなかったことが、幅広く叩きこまれる。

 ありがたいことではあったし望んでいた者でもあったが、ろくに自分の時間を持ないのは痛かった。そして、被害はそれだけにとどまらない。

「つぅっ」

あくまで男として連れてこられたため、剣術などもその対象だったからなおのこと困った。

 正直この十年、まったく身体を鍛えてなどいなかった。

そのため、少し型を習っただけでこのざまだ。全身を筋肉痛に見舞われている。

 おかげさまでまだ空が白みだしてきたくらいの早朝に足を吊り、目が覚める羽目になっていた。

 一度痛みが気になりだすと、もはや眠りなおすことはできない。動いている方がましだと考え、ベッティーナは起きだす。

 ちなみにここへきてからも、着替えや湯浴みはすべて一人で行っている。


もともとあの屋敷にいた頃からそうしていたし、なにより女であることをばれるわけにはいかないから、無理を通したのだ。

 そのため、一人でさっさと朝支度を整えたベッティーナは、部屋を出て庭へと足を運んだ。

屋敷の外へ出たわけではないが、元居た場所とは違い、ここは開放感がある。リヴィの街並みを見下ろしながら、石製の長椅子で一息ついていたら、足音が聞こえてくる。

それだけで、誰が来たのか分かるのだからさすがのオーラだ。

(……厄介なのがきたわね)

ここ数日で彼、リナルド・シルヴェリには苦手意識が芽生えていた。

ベッティーナは、気配を消すように息を殺し景色に同化しようとする。

が。

「こんなに朝早くから起きていると驚いたな、いい心がけだ」

 その男は遠慮なく、ベッティーナの隣に座った。

誰もが息を呑むような美青年だ。あたりの花壇に咲く花より可憐な笑顔がベッティーナへと向けられる。

寝間着姿というラフな格好でも、その輝きは褪せることを知らない。長いまつ毛も、くっきりとした二重も健在で、なんというか光の衣を纏っているかのよう。

だが、そんな外見に騙されてはいけない。ベッティーナは目を景色へとやったまま応じる。


「リナルド様こそ、こんなに早朝からなにを?」
「僕は朝の散歩だよ。今日はたまたま日の光で目覚めたからね。それに、今日のようにからっと晴れた朝には、この子達とたわむれたいと思ってね」

 リナルドはそう言うと、両の掌を握り合わせる。

 彼がゆっくり瞑目すると、その手に付けられた指輪が四つ、それと首から提げていたネックレスにつけた指輪が一つ光る。それらはそれぞれ、白や青といった別の色をして輝いていた。

 ネックレスのものだけは、やたらと眩しいから天使が召喚されるのかもしれない。

そう思いつつも、あまりの輝きにベッティーナが目を瞑っていた少しのうちに、そこには数体の精霊や天使が現れている。

手のひらに乗るような大きさのものが数体に、獣型のもの、人の子のような見た目のものとその種類も幅広い。

「……精霊魔法ですか。ここまでの精霊を呼べる人は初めて見ました」

 普通、契約できても一体のみ、優秀な精霊師で二体程度だ。

「はは、よく言われるよ。でも、別になにか特別な事をしているわけじゃないんだけどね。どうも僕は生来から魔力量も多いし、精霊に好かれやすい体質らしいんだ。一応、「白」だけじゃなくて、「茶」属性もあるんだけどね」

 リナルドはそう言いながら、精霊たちとたわむれはじめる。

 ……よそでやってくれないだろうか、と。ベッティーナが内心で思ったことが顔に出すぎていたのかもしれない。

「なにこの人。やけにオーラが暗い気がするよ、ご主人」

 そのうち、頭に輪を浮かべた手のひらサイズの天使に、こう指摘されてしまう。少女のような外見をした彼女は、リナルドも耳元でしかし、ベッティーナにも聞こえるように話す。

 性格はともかく、さすがは天使である。もしかすると、オーラなどで悪霊が見えることがばれていたりするのかもしれない。

どきりとするが、リナルドはその言葉を取り合わなかった。
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