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二章 幼なじみ攻略作戦スタート!

第21話 おかえりなさい。

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「おかえりなさい」

鍵を開けて玄関に入ると、結愛が狸の信楽焼と一緒に待ち構えていた。
リビングへ向かいながら

「今日は最高のお膳立てだったんじゃないですか、私!」
「うん、助かったよ」
「その感じだと本当にうまくいったみたいですね」「ちなみにどこまで?」「なんですか、その袋。お土産ですか」

サキュバスは、まるで主人の帰宅に興奮するペットのように、僕の左右から顔を交互に覗かせる。

「これは、澄鈴とスーパーに行ったからだよ。……まぁそれくらいの関係には、なれたかな」
「大進歩じゃないですか、おめでとうございます!」
「うん。ありがとうな、結愛」

えへへ、と彼女は微笑む。
これまで多大な迷惑を被ってきた。けれど、少なくとも今わいてくる想いは、素直に感謝しかなかった。

「じゃあ、ご褒美ください。成果報酬制なので、悪魔は!」
リビングに入ると、結愛はソファの上にちーんと正座して言う。
「えっと……ちょっと高級なカップ麺でいい?」
「んー、それもいいですけど、今回はもっと別のものがいいです」

どんな無茶な報酬を求められるのだろう。
身構えていたら、彼女は頭を傾けて、つむじを僕に向けた。

「座ってください。それから、ちょこっとでいいので、頭撫でてくれたらなぁ、なんて。無理でしょうか」
「え、そんなことでいいの?」
「……ダメ、ですか?」
「ダメ……じゃないけど」

警戒しすぎたせい、それはあまりに拍子抜けなお願いだった。
だが、実際やるとなると、話は別だ。少女漫画のイケメンみたいに、スマートにはいかない。僕は恐る恐る結愛の髪に手を伸ばす。指が沈みこむと、鼻先を抵抗感のない甘さがくすぐった。指先から伝った温かさに、唾を飲む。

「ねぇご主人様」
「ま、まだなにかあるの」
「私は寝たフリをするので、そのままなぁなぁでキスをして抵抗できない私を襲っていただくというのは」
「倫理的にダメ!」

無駄に凝った設定のせいで少し想像しちゃったじゃないか!
油断しかけていたが、やはり淫魔だけあって、とんでもない。
「じゃあいいです、これで。これで十分です」
結愛はふふふと笑って、頬を赤らめる。
屈託のない、少女のような笑顔だった。そこに、いつもの妖艶さはない。
揶揄われてばかりだからこそ分かった。ふざけているわけではなく、結愛は単に嬉しがっているのだ。僕なんぞにできる、これくらいのことを。
撫でれば撫でるほど、心臓が不規則に跳ねた。それは、生理的な反応のせいだ。たぶん。

「あ。ご主人様も今日は頑張ったと思うので、私もお撫でしましょうか?」
「えっいや、いいよ」
「そう言わずに、ぜひ」

 どぎまぎしたまま、結局僕は押しに負けた。入れ替わりに結愛の膝に頭を乗せることになる。

「今幸せです、私。ご主人様のところに来られて良かったです、ほんと」

結愛は、慈しむように優しく僕の髪を撫でながら、小さく呟いた。
僕も心地よさを感じてはいたが、まさか僕もだよ、とは返せないでいたら、結愛は機嫌よさげにパズルゲームのBGMを口ずさむ。子守歌のようだった、危うく眠りかけていたら、

「そういえば、ご主人様って料理できるんですか。お肉も野菜も買っちゃって」
「あー……どうしようかな」
「調子に乗りすぎですよ、ほんとにもう」
「ごめん。結愛、料理はできないんだよね」
「えぇ、からっきしです。でもせっかくなので、やりましょうか二人で。自炊できるっていうのも印象アップに繋がりますよ」
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