上 下
18 / 40
二章 幼なじみ攻略作戦スタート!

第17話 ポッキータワーは崩れる

しおりを挟む

それ以降は、とくに見せ場もなく、昼休みになった。
パンひとつの食事を終えた僕は、風紀委員と一緒になって廊下で服装チェックに参加し、先生に頼まれて教材の準備をした。もちろん、黒板磨きも忘れていない。
そうした善行を全てやり終えたのは、休憩の終わる十分前、やっと僕は席に戻ってくる。意識して徳を積むというのは、思う以上に疲れる。ふーっと前髪を吹き上げた僕を、

「その調子です。素敵ですね」

結愛は、ばらばらと適当に手を叩いて迎えた。やらせておいて、ぞんざいな態度だった。

「でも、やっぱり澄鈴さん、あんまり見てないんですよねー」
「僕の言った通りじゃないか。もうこんなことはやめよう?」
「いいえ、継続はしますよ。でも、ちょっとは意識づけさせたいですね」
「というと?」
「簡単ですよ、見てもらうんです。とにかくまずは挨拶でもしてきてください♪」

え。声を出すまでもなく、背中をとんと突かれる。
昨日の今日で、ただの挨拶というのも変ではないだろうか。だが意志とは無関係に、なにかに押し出されるたよう、腰が前へ動く。

「え、ちょっと結愛?」

足を動かさなければ、転んでしまう。ふらつきながらも不自然に歩いていたら、澄鈴の前で急に止められた。

「みっちゃん、気を付けてよ。今、四十段め、重要なところなんだから。ここで崩れたら努力が水の泡!」

澄鈴は、なずなと二人、ポッキーで星形のタワーを作っている最中だった。
なにしてんだよ、委員長。トップがこんなことに真剣になってたら、タワーじゃなくてクラスが崩壊するわ。
僕の憂いはよそに、一本置いては、二人は、おーっと顔を見合わせる。澄鈴はこちらを見もしない。それだけで挫けそうだったが、しばらく積み上がっていくタワーを眺めて耐え忍んでいると、

「で、光男はなんかウチに用事あったん?」
「え、いや、その……おは、おはようって言ってなかったなって」
「それわざわざ言いにくる必要あった? もう昼やし」

 言葉には、明白な棘があった。やはりご立腹のようだ。

「いや、えっと。そ、そうだね。はは、ははは」

僕は苦しい笑いを浮かべるしかできなかった。来た道を辿るように、すごすごと自席まで後ろ向き、すり足で引き下がる。

「酷かったですね」

そして一言、厳しいパンチをジト目の悪魔に見舞われた。

「なんか前より一段と酷くなってませんか。動きも言葉もぎこちないし」

ぐうの音も出ない。
自分でもそれは気づいていた。昨日の険悪なムードのことがあったとはいえ、大喧嘩をした次の日だってもう少しましに話をできたはずだ。こんな他愛もないことさえままならないのは、

「だってこんな状態から告白しなきゃって思うと、どうも」

明らかに意識をしすぎているせいだ。

「難しく考えすぎです。まずは仲直りからですよ、急いじゃいけません」
「でもあと一週間しかないんだよね? 焦らない方がおかしくないかな」
「だからこそ、急がば回れって奴です。とにかくもう一回行きましょう」
「え、でも」
「仕方ないですね。次は私も一緒に行きますから、ほら行きますよ」
「結愛が行っても揉め事になるだけじゃないの」

僕の進言は、聞き入れられなかった。
間もなく、結愛がスキップでもするような歩調で二人の元へ移動するから、仕方なく後ろからついていく。結愛は腰を屈めてにっこりと、澄鈴へ微笑みかけた。

「あら、楽しそうなことしてますね♪ 私たちも混ぜてください」
「なんやの、甘利さん。どういうつもり」
「嫌ですね、単にクラスメイトと交流したいだけですよ。それに、私、器用なので得意なんです、こういうの」

結愛はほっそりとした指でポッキーをつまみあげて、そーっとタワーの一番上に置く。

「へぇやるやんか」

負けじと澄鈴も、一つを重ねた。
バトル勃発、やっぱりこうなった。言葉の応酬ではない分、昨日のカフェよりかなり地味ではあるが。

「二人とも仲良かったんだね~。みっちゃん知ってた?」
「仲良いって言うの、これ」
「言うよ! ポッキーに支えられた友情だよ、これこそ!」
「いや、それ割ともろくない?」

ピリピリした空気が流れていたが、天然王こと、なずながそれを感じ取ることはなく冷戦は続く。この悪魔め、僕のことどうでもよくなってない? 張り合いたいだけでは? 思っていたら、

「みっちゃんもやろうよ。じっと見てないでさ」

もはや居合わせたにすぎなくなっていた僕にも、おはちが回ってきた。ポッキーを握らされる。
突然のチャンス到来だった。

「やりましたね。いいところ、見せてください」

結愛が囁くのに、僕はこくと頷く。ここは、あっさりと置いてしまえば格好いいはず。澄鈴も少しは見直してくれるかもしれない。
が、思いと裏腹に僕は力みきっていた。汗の滲みだした手のひら、指先の操作が狂う。
僕のポッキーは、タワーの頂上付近を盛大に打ち付けて、塔はいっぺんにバランスを失った。相応の高さまで組みあがっていた大量のチョコ棒がなだれを起こして、崩れ掛かる。
それも場の悪いことに、なずなの尊顔へ一直線に。

「ご、ごめん、中之条!!」

 なずなの顔は、クレヨンでの落書きよろしくチョコレートの線まみれになっていた。
せっかくの化粧が台無し、女子からしたら最悪のハプニングだ。泣き出してもおかしくない。
僕は必死で頭を下げるのだが、

「あ、美味しい。さすがポッキー!」

 なずなは、頬についたチョコ部分を舐めとらんと、懸命に舌を回していた。
 そういえば、なずなはこうだった。
澄鈴がウエットティッシュで彼女の顔を拭ってやっているうちに、休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴る。

「決着つかずでしたね。私、まだまだいけましたよ」
「ウチだって!」
「強がるのはその程度にしてください。私は別に螺旋状でもいけましたからね。お城だって築けました~」

片付けを終えても、口争いを続行しようとする結愛を引き剥がして、僕は席へと戻った。

「ポッキーにまで遊ばれるなんて……」

つくづくどうしようもないなぁ、僕というやつは。

「全く。せっかくの機会をふいにしちゃうんですから」
「ご、ごめん」
「いいですよ、別に。まだ奥の手がありますから。六限の体育、期待しててください♡」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

竜焔の騎士

時雨青葉
ファンタジー
―――竜血剣《焔乱舞》。それは、ドラゴンと人間にかつてあった絆の証…… これは、人間とドラゴンの二種族が栄える世界で起こった一つの物語――― 田舎町の孤児院で暮らすキリハはある日、しゃべるぬいぐるみのフールと出会う。 会うなり目を輝かせたフールが取り出したのは―――サイコロ? マイペースな彼についていけないキリハだったが、彼との出会いがキリハの人生を大きく変える。 「フールに、選ばれたのでしょう?」 突然訪ねてきた彼女が告げた言葉の意味とは――!? この世にたった一つの剣を手にした少年が、ドラゴンにも人間にも体当たりで向き合っていく波瀾万丈ストーリー! 天然無自覚の最強剣士が、今ここに爆誕します!!

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

処理中です...