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一章 おいおい、サキュバスが襲来したんだが!?
第3話 おい、おうちにサキュバスが襲来したんだが!
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二
ずるる、ずるると。
「やっぱ最高だなぁ」
ずるる、ずるると。
僕はカップ麺をすする。一つでは足りないから、ワンタン麺とチキンラーメンの両刀使い、貧乏なりの贅沢だ。
卵は面倒だから生のまま注いだ。チャーシューはないから冷食の唐揚げを代わりに乗っけた。汁がしみて美味くなるのだ、これが。
「……はぁ、最低だなぁ。どうしたら付き合えるんだろう」
涙もしみるのだけど。
通算、八度目の失敗だった。完全に好きと気付いてもう数年め。ずるずると、ずるずると引きずってきてしまっている。今日こそは、と思っていた、偽りなく言うつもりだった。ただ今日だけは、不運が災いしすぎた。
「なんだったんだろ、まじで」
僕は変哲もないリビングを見渡す。
家が光るという不可思議な現象の理由は、果たして分からなかった。光はすぐに消え、走って帰って間近で見た頃には、普段通り。くすんだ洋風一軒家があるのみだった。
玄関扉を開ける時は流石に恐る恐る開けたが、放射線物質が飛び出して、米兵とファイティング──なんていうことはない。燻んだ狸の信楽焼が迎えてくれるだけだった。
僕は今、実質一人暮らしをしている。両親は一ヶ月前、海外へ仕事に出て以来帰ってきていない。なにの仕事かも知らされていないうえ、なんと戻りは未定という、奔放ドラ息子ぶり。どちらが子供なんだか。
一人というのは、気楽だ。そもそも両親は共働きで不在がちだったから、寂しさにも慣れているつもりだ。ただ、酷いのは家事全般で。
「あ、やば。雨降ってないよなぁ」
思えば月初めから皆勤となるインスタントディナーを優雅に終えた僕は、ベランダに出る。ゴールデンウィークの最終日以来、洗濯物を一週間、放置していたのだった。
「僕だって家事くらい別に一人でできるからさ」
「ほんまに? 言ってくれればやるのに」
「全く無問題さ、高校生にもなって親なしで生きられないってことはないね」
澄鈴と交わしたやり取りが後悔を伴って、脳裏に浮かぶ。僕だって自立している。そうアピールしたかったのだ。それがこの自堕落ぶり、この時の僕にもし相まみえることがあったら、往復ビンタをかましたい。
シャツやタオルを適当に畳んで、床に放る。面倒になったわけじゃない。明日とか明後日くらいにたぶん使うので、これでいいのだ。そういうアバウトさがライフに余裕を生むの、うん。
終わったらソファに座って、パズルゲームをすることにした。ソーシャルゲームをしながら夜をふかしていくのは日課だ。
しかし、そこでは異変が起きていた。ホーム画面に、甘利結愛がいない。いつもの、「お疲れ様です、ご主人様」の声もない。
あるのは、画面脇のコマンドとブランクになった背景のみだった。
「なんなんだよ、バグか?」
ひとりごちて、そのまま横たわる。
ならばと再起動をかけようとして、頭の裏がやけに柔らかいことに気づいた。綿生地のふわ、ではなく、むにゅ。二個ない感触に、ふんわり甘い香りまでして、実に豪華な座布団みたい──
「いきなり膝枕だなんて、ふふ。甘えん坊さんなんですね」
真上に、女の子の顔があった。
紫の髪が、朱色に染まった頬を隠すように垂れている。
状況が理解できず丸い瞳と見つめ合うこと数秒、混乱して目をしばたいてコンマ数秒、僕は反射的に起き上がろうとする。そしてテンプレにも頭をごっつん、ぶつけ合った。
打った箇所を抑えながら、同じように自分の頭をさする相手を見る。
会ったこともなければ、当然家に入れた記憶もない顔だった。けれど見覚えはあって、
「いた~い、もういきなりハードなんだから」
紫の艶めいたボブヘア、まるい琥珀色の瞳、そして特徴的な露出の多い衣装。
その容姿は、パズルゲームの悪魔サキュバス・甘利結愛そのものだった。
ずるる、ずるると。
「やっぱ最高だなぁ」
ずるる、ずるると。
僕はカップ麺をすする。一つでは足りないから、ワンタン麺とチキンラーメンの両刀使い、貧乏なりの贅沢だ。
卵は面倒だから生のまま注いだ。チャーシューはないから冷食の唐揚げを代わりに乗っけた。汁がしみて美味くなるのだ、これが。
「……はぁ、最低だなぁ。どうしたら付き合えるんだろう」
涙もしみるのだけど。
通算、八度目の失敗だった。完全に好きと気付いてもう数年め。ずるずると、ずるずると引きずってきてしまっている。今日こそは、と思っていた、偽りなく言うつもりだった。ただ今日だけは、不運が災いしすぎた。
「なんだったんだろ、まじで」
僕は変哲もないリビングを見渡す。
家が光るという不可思議な現象の理由は、果たして分からなかった。光はすぐに消え、走って帰って間近で見た頃には、普段通り。くすんだ洋風一軒家があるのみだった。
玄関扉を開ける時は流石に恐る恐る開けたが、放射線物質が飛び出して、米兵とファイティング──なんていうことはない。燻んだ狸の信楽焼が迎えてくれるだけだった。
僕は今、実質一人暮らしをしている。両親は一ヶ月前、海外へ仕事に出て以来帰ってきていない。なにの仕事かも知らされていないうえ、なんと戻りは未定という、奔放ドラ息子ぶり。どちらが子供なんだか。
一人というのは、気楽だ。そもそも両親は共働きで不在がちだったから、寂しさにも慣れているつもりだ。ただ、酷いのは家事全般で。
「あ、やば。雨降ってないよなぁ」
思えば月初めから皆勤となるインスタントディナーを優雅に終えた僕は、ベランダに出る。ゴールデンウィークの最終日以来、洗濯物を一週間、放置していたのだった。
「僕だって家事くらい別に一人でできるからさ」
「ほんまに? 言ってくれればやるのに」
「全く無問題さ、高校生にもなって親なしで生きられないってことはないね」
澄鈴と交わしたやり取りが後悔を伴って、脳裏に浮かぶ。僕だって自立している。そうアピールしたかったのだ。それがこの自堕落ぶり、この時の僕にもし相まみえることがあったら、往復ビンタをかましたい。
シャツやタオルを適当に畳んで、床に放る。面倒になったわけじゃない。明日とか明後日くらいにたぶん使うので、これでいいのだ。そういうアバウトさがライフに余裕を生むの、うん。
終わったらソファに座って、パズルゲームをすることにした。ソーシャルゲームをしながら夜をふかしていくのは日課だ。
しかし、そこでは異変が起きていた。ホーム画面に、甘利結愛がいない。いつもの、「お疲れ様です、ご主人様」の声もない。
あるのは、画面脇のコマンドとブランクになった背景のみだった。
「なんなんだよ、バグか?」
ひとりごちて、そのまま横たわる。
ならばと再起動をかけようとして、頭の裏がやけに柔らかいことに気づいた。綿生地のふわ、ではなく、むにゅ。二個ない感触に、ふんわり甘い香りまでして、実に豪華な座布団みたい──
「いきなり膝枕だなんて、ふふ。甘えん坊さんなんですね」
真上に、女の子の顔があった。
紫の髪が、朱色に染まった頬を隠すように垂れている。
状況が理解できず丸い瞳と見つめ合うこと数秒、混乱して目をしばたいてコンマ数秒、僕は反射的に起き上がろうとする。そしてテンプレにも頭をごっつん、ぶつけ合った。
打った箇所を抑えながら、同じように自分の頭をさする相手を見る。
会ったこともなければ、当然家に入れた記憶もない顔だった。けれど見覚えはあって、
「いた~い、もういきなりハードなんだから」
紫の艶めいたボブヘア、まるい琥珀色の瞳、そして特徴的な露出の多い衣装。
その容姿は、パズルゲームの悪魔サキュバス・甘利結愛そのものだった。
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