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一章 おいおい、サキュバスが襲来したんだが!?

第2話 別所光男は告白したいが、なぜか家が光ってる。

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それだけのはずだったのだが。

放課後。いざ、というターンになればやはり緊張はするもので。

「やー、今日の授業も疲れたなぁ。せっかくテニス部休みでも、七限まであったら結局しんどい~」

幼馴染であり、想い人。高杉(たかすぎ)澄(すみ)鈴(れ)を前にして、心の糸はぴんと張る。

「そ、そ、そうだね。今にバタンキューだよ、全く」

何気ない会話で、どもりあがってしまった。なんだよ、バタンキューって昭和かよ。少し気を取り直さなければ。

告白を目論んでいた、宝塚駅近くの噴水前はすでに過ぎている。宝塚歌劇場に見下ろされた、雰囲気のいいこの河川敷も終わりが近い。

「てか光男は授業中も寝とったんやから、疲れてへんのやない?」
「疲れてるから寝てたんだよ」
「どうせゲームのしすぎとちゃうん? 昨日も遅くまでやってたとか」
「違うってば。ゲームもしてたけど、もっと大切なことをしてたんだ」
「なんなんそれ、そんなの光男にあったっけ?」

告白のことを考えて、昨晩は微睡むことさえできなかった。そう言えたら、どれほど楽か。
僕の気も知らず、澄鈴は隣でぐーっと伸びをする。袖の隙間から、健康的に少し焼けた肌と白い肌の境目がのぞいて、どきりした。

そんな揺れる男心も知らず、澄鈴はくるりと巻いた短い前髪を風になびかせ、くしゃっと綺麗なアーモンド状の目を細めて笑う。
一言で形容できる。可愛い。

「光男。もっと寝ぇへんと、大きならへんよ」
「いつまで小さい子扱いしてるのさ。百七十もあるんだよ、もう澄鈴より高いじゃないか」
「誤差やん、誤差!」

澄鈴は背伸びをして、十センチ下から僕の頭を撫でる。

「しっかし、いつ触っても柔らかいなぁ。光男の髪」

気安いスキンシップだ。頬が緩みかけるが、子供もしくはペットの犬のように扱われている気もして。黒毛のシェパードに思われるならいいか、格好いいし。とか思うけれど、そういうことじゃない。なんとか振り払う。

「これでも気にしてるんだから。触らないでよ」
「べ、べ、べ、別にっ! 触りたくて触ってたわけやないよ!? 柔らかすぎるんが罪なんよ。羨ましいわぁ、ほんま憧れるし妬ましい! 亜麻色のうるつや髪」
「いや。僕、男子だからね?」

とはいえ、モサモサ髪もツルピカリンも遠慮なのだが。

「女子はみんな憧れるものなの。てか、光男は、羨ましいことだらけなんやで? 文句ばっか言わんの」
「なにが、どこが」

告白を目前にして、男として意識されていない疑惑大を突きつけられている僕のどこに羨望を集める要素があるだろう(反語)。

「髪だけやないよ? 他にも色々!」
「たとえばなにさ」
「たとえば、んー、たとえばかー。こんなに可愛い幼馴染が一緒に下校してくれること! ……なんて他人からしたら、最高やと思うけどな」

彼女は少し駆けていって、川辺の小石を水中へ蹴り入れる。かけていた制かばんが肩で跳ねた。
こちらを振り向いて、にかっと笑う。

「なんてね。恥ずかしいこと言ったな~」

トンカチで一発やられた。
頭を抱えたくなった。可愛いがオーバーフロー、許容範囲を超えてしまった。背景の赤い夕日が後光に見える。実にキュートで、ラブリーだった。

「自分に過大評価すぎたやんね、分かってるよそれくらい、冗談やん」

また歩き出しながら、照れたように澄鈴は言う。

「あのさ、澄鈴」

僕は意を決して発した。今なら、告白しても流れとして大きく不自然ではないのではないか。

「ん? どうしたん、改まって」
「えっと、その、僕はそうでもないと思うな」
「なにのこと?」
「あぁ、えっと。澄鈴の自己評価は十分、身の丈にあってるというか」

しかし、すぐに揺らぐのが僕だった。

「せ、正当に評価できてるんじゃないかなぁって思うよ。僕としては、そういうところもポイント高いというか」
「……ふーん。どうせ、うちは可愛くない。言われなくても! だいたい可愛いキャラやないもんね、ウチこそ男っぽいとかよー言われるし」

無理に褒めようとしすぎて、余計な勘違いが起きてしまった気がする。
違うのだ、むしろアイドルだって目じゃないと思っている。全てぶち抜いてセンター取れるとさえ、だ。握手会に行列ができて、すぐソロCDだって発売されるに違いない。

ただの幼なじみではなく、女子として意識するようになってから五年近く。その間に積み重ねてきた好意は、今や溢れそうなところまできている。
そもそも好きになったきっかけは、この河川敷での出来事からだった。だからこそ、この場所で彼女に思いを伝えて、幼なじみから恋人へ前進するのだ。
つばを飲んでから、口を開く。

「あのさ、僕はその、澄鈴はか、可愛いと思うな」
「え、ほんまに? なんや、照れるんやけど、冗談はよしてよ」
「冗談じゃないよ、本当に。本当さ」
「…………光男?」
「それも僕にとっては一番、というかすごい、というか。澄鈴が笑ってるから僕も勇気づけられて、いつも気力が満ちてきて、えっと。とにかく僕は澄鈴のことが──」

目を瞑って、いよいよというところ

「うわ、なにあれ、見て」

唐突に遮られた。

目を開くと、彼女は住宅街の方を指差して固まっている。その先にあったのは、奇妙な光に包まれる一軒家。それは紛れもなく、

「なんか、光ってへん? 光男の家。ほら横、私の家やし絶対。電気つきっぱなしとかいうレベルちゃうであれ」
「えぇ……。な、なんだよあれ」
「あれは、おじさんおばさん帰ってきた、って感じやないね。ラピュタに連れて行かれる予兆?」

まさか自分の家が発光しているせいで、告白し損ねるなんて。
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