上 下
32 / 48
2章

32話 うっかり、きゅん。

しおりを挟む
こうして、私とその協力者であるヴィオラとによる、題して「エリゼオとラーラの自然ロマンス作戦」が始まった。

 動きだしたのは、ラーラにお化粧を施してもらうことになった際だ。

「エリゼオ王子、楽しみにしてたよ。アニーがお化粧した姿!」
「いやいや、私ほとんどお化粧なんてしてませんし。それに、エリゼオ王子も本心では、きっとラーラがより美しくなるのを期待してますよ」
「はいはい、私のことは今日はいいから! とりあえず、まずは下地から塗っていくって感じで始めていくよ」

 今はまだ、彼女はあくまでエリゼオのことを私の友人だと認識している。そこを地道な吹聴で、ちょっとずつ改めてもらう目論見である。

昔、クリエイター周りの各企業に対してシナリオやキャラクターの売り込み営業していた経験を思い起こしながら、私は話を進めていく。

もちろん、お化粧の手もとめない。

イメージは、高校の休み時間などにお化粧室にいって、友達と並んでメイクしていた時の感覚である。

「すご。普段やってないにしては、うまいって感じじゃんアニー」
「ま、まあ昔は毎日のようにしてましたから」

 といっても、霧崎祥子の頃の話である。
 外に出るときなどは化粧をするのは当たり前だったし、基本的には毎日していた。

 が、アニータに転生してきてからは、逆にめっきりしなくなった。
 若いアニータの身体では素肌でもそれなりにきれいであったという理由もあれば、この世界のお化粧事情に、そもそも詳しくなかったというのも大きい。

「ここで使うのは、これね。マカイアの粉。魔の森で取れる魔石を砕いて、オリーブの油と練って作るの。これ、ちょっと高いんだけど私のお気になんだ」

 材料などは聞いてもよくわからなかったが、たぶん下地のことを指すのだろう。
 肌に乗せてみれば、なんとなく似たような感触があった。

「あんまりつけすぎると、肌を痛めるから程々にね~」

 うーん、化粧のしすぎがお肌に悪影響なのはこちらでも同じらしい。

ゲームの世界とはいえ、やはりその現代で生み出された創作の世界だ。
共通項の多さを改めて認識させられながらも、私はラーラに倣って、お化粧を進めていく。

「……ラーラさん、なんてお可愛い」
「お世辞じゃなくて本気って受け取っていい感じ? ありがと」

 ラーラさんは抜群の腕前だった。
ただの化粧好きの人がやりがちな、すべてを誤魔化しにかかって、厚塗りになってしまうなんて失敗はない。

過不足なく、また自分の特徴をきちんと分かっている人のメイクだ。
そのままでも十分に人より優れた顔立ちが、さらに昇華されていく。

「やっぱり、すごく綺麗ですね、ラーラさん……。私のことなんかどうでもよくなるくらいです。これならエリゼオもきっと釘付けですわ」
「ふふ、ほめてくれるのはありがたいけど、それはありえないって感じかも」
「え、どうしてです?」
「王子の目に映っているのはどこまででも、あなただけですもの」

 一瞬、どきりとして、ちょっと心が熱くなったりもするが、私はそこで自分のペースを取り返す。

そんなはずないない。微妙な化粧を施した男爵令嬢と、完璧な化粧を施していて10人が見たら10人が美しいというだろう公爵令嬢だ。
これなら計画通りに……

「すまない、思わず息をのんでしまったよ。そうか、君は化粧をするとそういう風になるのですね、アニータ。慣れないのかい? 頬にチークの色がのってしまっているよ」

 うん、ならなかった。

ヴィオラは、話を吹き込むのに失敗したらしい。
お咎めの目を向ける私に対して、彼がとったのは目を瞑るという単純な返事だ。これ以上は、睨んでいても仕方がなさそうだ。

「え、えっと、エリゼオ。私なんかのへたくそなお化粧より、ラーラの化粧姿を見た方がいくらも目の保養になるんじゃ……」
「君はわからない人だね、ほんと。僕はもう十分、満たされているよ。意外と抜けている君を見られて満足だ」
「か、からかわないでくださいな」
「ふふ、別にちょっと本音が漏れただけのことさ」

 ちょっと揶揄ってくるキャラが大好きな私は、うっかりきゅんとしてしまった。が、そうじゃなくて、これは一筋縄ではいかないらしい。

もう少し作戦をきちんと練る必要がありそうだ。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

元カレの今カノは聖女様

abang
恋愛
「イブリア……私と別れて欲しい」 公爵令嬢 イブリア・バロウズは聖女と王太子の愛を妨げる悪女で社交界の嫌われ者。 婚約者である王太子 ルシアン・ランベールの関心は、品行方正、心優しく美人で慈悲深い聖女、セリエ・ジェスランに奪われ王太子ルシアンはついにイブリアに別れを切り出す。 極め付けには、王妃から嫉妬に狂うただの公爵令嬢よりも、聖女が婚約者に適任だと「ルシアンと別れて頂戴」と多額の手切れ金。 社交会では嫉妬に狂った憐れな令嬢に"仕立てあげられ"周りの人間はどんどんと距離を取っていくばかり。 けれども当の本人は… 「悲しいけれど、過ぎればもう過去のことよ」 と、噂とは違いあっさりとした様子のイブリア。 それどころか自由を謳歌する彼女はとても楽しげな様子。 そんなイブリアの態度がルシアンは何故か気に入らない様子で… 更には婚約破棄されたイブリアの婚約者の座を狙う王太子の側近達。 「私をあんなにも嫌っていた、聖女様の取り巻き達が一体私に何の用事があって絡むの!?嫌がらせかしら……!」

前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る

花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。 その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。 何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。 “傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。 背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。 7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。 長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。 守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。 この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。 ※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。 (C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

今更困りますわね、廃妃の私に戻ってきて欲しいだなんて

nanahi
恋愛
陰謀により廃妃となったカーラ。最愛の王と会えないまま、ランダム転送により異世界【日本国】へ流罪となる。ところがある日、元の世界から迎えの使者がやって来た。盾の神獣の加護を受けるカーラがいなくなったことで、王国の守りの力が弱まり、凶悪モンスターが大繁殖。王国を救うため、カーラに戻ってきてほしいと言うのだ。カーラは日本の便利グッズを手にチート能力でモンスターと戦うのだが…

役立たずの私はいなくなります。どうぞお幸せに

Na20
恋愛
夫にも息子にも義母にも役立たずと言われる私。 それなら私はいなくなってもいいですよね? どうぞみなさんお幸せに。

私は側妃なんかにはなりません!どうか王女様とお幸せに

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のキャリーヌは、婚約者で王太子のジェイデンから、婚約を解消して欲しいと告げられた。聞けば視察で来ていたディステル王国の王女、ラミアを好きになり、彼女と結婚したいとの事。 ラミアは非常に美しく、お色気むんむんの女性。ジェイデンが彼女の美しさの虜になっている事を薄々気が付いていたキャリーヌは、素直に婚約解消に応じた。 しかし、ジェイデンの要求はそれだけでは終わらなかったのだ。なんとキャリーヌに、自分の側妃になれと言い出したのだ。そもそも側妃は非常に問題のある制度だったことから、随分昔に廃止されていた。 もちろん、キャリーヌは側妃を拒否したのだが… そんなキャリーヌをジェイデンは権力を使い、地下牢に閉じ込めてしまう。薄暗い地下牢で、食べ物すら与えられないキャリーヌ。 “側妃になるくらいなら、この場で息絶えた方がマシだ” 死を覚悟したキャリーヌだったが、なぜか地下牢から出され、そのまま家族が見守る中馬車に乗せられた。 向かった先は、実の姉の嫁ぎ先、大国カリアン王国だった。 深い傷を負ったキャリーヌを、カリアン王国で待っていたのは… ※恋愛要素よりも、友情要素が強く出てしまった作品です。 他サイトでも同時投稿しています。 どうぞよろしくお願いしますm(__)m

旦那様は離縁をお望みでしょうか

村上かおり
恋愛
 ルーベンス子爵家の三女、バーバラはアルトワイス伯爵家の次男であるリカルドと22歳の時に結婚した。  けれど最初の顔合わせの時から、リカルドは不機嫌丸出しで、王都に来てもバーバラを家に一人残して帰ってくる事もなかった。  バーバラは行き遅れと言われていた自分との政略結婚が気に入らないだろうと思いつつも、いずれはリカルドともいい関係を築けるのではないかと待ち続けていたが。

処理中です...