30 / 48
2章
30話 計画が天敵にバレる話
しおりを挟む♢
無理矢理ではなく、あくまで自然に。
私の友達と友達とがばったり会ったように演出をし、二人きりで話す時間を作る。
その結果、お互いに自然と惹かれあって恋に落ちていく──。
そんなありきたり、だがだからこそ演出するにはハードルが高いシナリオを私は考え揚げていた。
「あら、こんにちは。ラーラさん」
「ごきげんよう、アニー。今日も元気って感じ?」
「元気って感じですよ」
あれから、一月ほど。夏に向かって、徐々にあたたかくなる空気を同じように。私たちの仲も急速にあたたまっていた。
週に2・3度はカフェで集まり、雑談を交わす。
「あー、今日も最高って感じね! アニーの考えるお話! お茶請けに最適かもしれませんわね。それくらい、甘くて素敵なお話ね」
もう、創作ノートを読んでもらっても、まったく恥ずかしいと思わないくらいの仲はふかまっていた。
正直いえば、自分で組んでおいてシナリオのことなんて頭から跳ぶほど楽しい時間ばかりだった。
もちろんエリゼオと会っている時間に不満などないのだけど、やっぱり男友達と女友達では、話をできる領域が違う。
こっちの世界に来て初めて、服やネイルといったいわゆる女子らしい話をすることができた。
ラーラさんは、結構な美容オタクらしい。その詳しさときたら、現代日本でいうところの化粧品コーナーのお姉さんレベルだ。
今日は、私にお化粧を教えてくれるがてら、そうしてもお宅訪問したいという彼女たっての既望で、お屋敷にお越しいただいたのだけど……
「今日は来客があると言っていたけれど、君のことだったか。ラーラ・オースティン公爵令嬢。今日もご機嫌麗しいようで」
「公務では何度もお見かけしていますが、こうしてまともに対面するのは初めてでございますね。あなた様こそ、ご機嫌麗しゅう、エリゼオ王子」
今日は部屋にエリゼオも招いていた。
思いがけず、双方から同日に誘いを受けたので、これはちょうどいい機会だと踏んだわけだ。
さすがにいきなりサプライズ的に引き合わせたのではまずい。一応、きちんと了承をとったうえで引き合わせた。
私は飲み物の用意だとか理由をつけて、二人が会話を交わすのを、部屋の外、扉の影に隠れて伺う。
はじめは形式的な挨拶から入ったが、リゼの社交性は図抜けていた。
「アニータさんって、本当に素敵な方ですよね。気さくだし、ユーモアもあって温かい。それに、身分差があっても対等に話してくれるのがいいですよね。オースティン家はぎりぎり公爵家って感じなだけで、そこまで偉くないのに、みんな無駄な気を遣ってきて困るって感じなんですよね」
「それは、そうだね。彼女は、僕にすら自分の言いたいことを正直に言うんだ。それが胸を指したことが何度あったか。ふふ、だが公爵令嬢の君からアニータの褒め言葉を聞けるとは驚いたよ。分かる人もいたものだ」
うん、話題が私のことで、明らかなる過大評価をされているのはどうかと思うけれど、ひとまず共通の話題で雰囲気がほぐれだす。
エリゼオの作り笑いも、なりを潜めだしているようだ。
しかし、美男美女、高貴な二人である。
こうして脇から見れば、なおのことお似合いに見えた。
私はこっそりまずは一安心。扉に背中を預けて、胸をなで下ろす。
が。
「また妙なことを考えていますね、アニータ・デムーロ男爵令嬢」
ぬらりと耳元で囁かれた声に、危うく声をだしかけた。あんまり急だったもので、扉に肘をぶつける。
じんじんくる痛みを堪えながらも、私は口を覆い隠し、まず室内を伺う。セーフ、気づかれてはいないらしい。
とすれば、問題は彼だ。
暑い夏に夜道を歩いていたら聞きたくもない怪談が耳に入ってきて、一人になってからぞわっとするみたいな。
いやいや、もっと端的に言えば、夜中に目を覚まして、水を飲みに行ったら、冷蔵庫の前で羽をカサカサ言わせる黒いアイツと遭遇したときみたいな。
とにかく寒気をもたらすくらい、いきなりあらわれた彼。
「また、例のシナリオとかやらでしょうか」
エリゼオの直属となった執事にして、『黒の少女と白王子』のセカンドヒーローであるヴィオラだ。
とにかく、この場所ではすぐにでも見つかってしまう。私は近場にあった衣装部屋へと彼を連れて行く。
0
お気に入りに追加
1,219
あなたにおすすめの小説
【書籍化決定】断罪後の悪役令嬢に転生したので家事に精を出します。え、野獣に嫁がされたのに魔法が解けるんですか?
氷雨そら
恋愛
皆さまの応援のおかげで、書籍化決定しました!
気がつくと怪しげな洋館の前にいた。後ろから私を乱暴に押してくるのは、攻略対象キャラクターの兄だった。そこで私は理解する。ここは乙女ゲームの世界で、私は断罪後の悪役令嬢なのだと、
「お前との婚約は破棄する!」というお約束台詞が聞けなかったのは残念だったけれど、このゲームを私がプレイしていた理由は多彩な悪役令嬢エンディングに惚れ込んだから。
しかも、この洋館はたぶんまだ見ぬプレミアム裏ルートのものだ。
なぜか、新たな婚約相手は現れないが、汚れた洋館をカリスマ家政婦として働いていた経験を生かしてぴかぴかにしていく。
そして、数日後私の目の前に現れたのはモフモフの野獣。そこは「野獣公爵断罪エンド!」だった。理想のモフモフとともに、断罪後の悪役令嬢は幸せになります!
✳︎ 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
婚約者に冤罪をかけられ島流しされたのでスローライフを楽しみます!
ユウ
恋愛
侯爵令嬢であるアーデルハイドは妹を苛めた罪により婚約者に捨てられ流罪にされた。
全ては仕組まれたことだったが、幼少期からお姫様のように愛された妹のことしか耳を貸さない母に、母に言いなりだった父に弁解することもなかった。
言われるがまま島流しの刑を受けるも、その先は隣国の南の島だった。
食料が豊作で誰の目を気にすることなく自由に過ごせる島はまさにパラダイス。
アーデルハイドは家族の事も国も忘れて悠々自適な生活を送る中、一人の少年に出会う。
その一方でアーデルハイドを追い出し本当のお姫様になったつもりでいたアイシャは、真面な淑女教育を受けてこなかったので、社交界で四面楚歌になってしまう。
幸せのはずが不幸のドン底に落ちたアイシャは姉の不幸を願いながら南国に向かうが…
魔法の使えない不良品伯爵令嬢、魔導公爵に溺愛される
ねこいかいち
恋愛
魔法で栄えた国家グリスタニア。人々にとって魔力の有無や保有する魔力《オド》の量が存在価値ともいえる中、魔力の量は多くとも魔法が使えない『不良品』というレッテルを貼られた伯爵令嬢レティシア。両親や妹すらまともに接してくれない日々をずっと送っていた。成人間近のある日、魔導公爵が嫁探しのパーティーを開くという話が持ち上がる。妹のおまけとして参加させられたパーティーで、もの静かな青年に声をかけられ……。
一度は書いてみたかった王道恋愛ファンタジーです!
無理やり『陰険侯爵』に嫁がされた私は、侯爵家で幸せな日々を送っています
朝露ココア
恋愛
「私は妹の幸福を願っているの。あなたには侯爵夫人になって幸せに生きてほしい。侯爵様の婚姻相手には、すごくお似合いだと思うわ」
わがままな姉のドリカに命じられ、侯爵家に嫁がされることになったディアナ。
派手で綺麗な姉とは異なり、ディアナは園芸と読書が趣味の陰気な子爵令嬢。
そんな彼女は傲慢な母と姉に逆らえず言いなりになっていた。
縁談の相手は『陰険侯爵』とも言われる悪評高い侯爵。
ディアナの意思はまったく尊重されずに嫁がされた侯爵家。
最初は挙動不審で自信のない『陰険侯爵』も、ディアナと接するうちに変化が現れて……次第に成長していく。
「ディアナ。君は俺が守る」
内気な夫婦が支え合い、そして心を育む物語。
【本編完結】番って便利な言葉ね
朝山みどり
恋愛
番だと言われて異世界に召喚されたわたしは、番との永遠の愛に胸躍らせたが、番は迎えに来なかった。
召喚者が持つ能力もなく。番の家も冷たかった。
しかし、能力があることが分かり、わたしは一人で生きて行こうと思った・・・・
本編完結しましたが、ときおり番外編をあげます。
ぜひ読んで下さい。
「第17回恋愛小説大賞」 で奨励賞をいただきました。 ありがとうございます
短編から長編へ変更しました。
62話で完結しました。
家から追い出された後、私は皇帝陛下の隠し子だったということが判明したらしいです。
新野乃花(大舟)
恋愛
13歳の少女レベッカは物心ついた時から、自分の父だと名乗るリーゲルから虐げられていた。その最中、リーゲルはセレスティンという女性と結ばれることとなり、その時のセレスティンの連れ子がマイアであった。それ以降、レベッカは父リーゲル、母セレスティン、義妹マイアの3人からそれまで以上に虐げられる生活を送らなければならなくなった…。
そんなある日の事、些細なきっかけから機嫌を損ねたリーゲルはレベッカに対し、今すぐ家から出ていくよう言い放った。レベッカはその言葉に従い、弱弱しい体を引きずって家を出ていくほかなかった…。
しかしその後、リーゲルたちのもとに信じられない知らせがもたらされることとなる。これまで自分たちが虐げていたレベッカは、時の皇帝であるグローリアの隠し子だったのだと…。その知らせを聞いて顔を青くする3人だったが、もうすべてが手遅れなのだった…。
※カクヨムにも投稿しています!
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした
葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。
でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。
本編完結済みです。時々番外編を追加します。
婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな
カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界
魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた
「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね?
それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」
小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く
塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう
一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが……
◇◇◇
親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります
(『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です)
◇◇◇
ようやく一区切りへの目処がついてきました
拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる