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2章

30話 計画が天敵にバレる話

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 無理矢理ではなく、あくまで自然に。
私の友達と友達とがばったり会ったように演出をし、二人きりで話す時間を作る。
その結果、お互いに自然と惹かれあって恋に落ちていく──。

そんなありきたり、だがだからこそ演出するにはハードルが高いシナリオを私は考え揚げていた。

「あら、こんにちは。ラーラさん」
「ごきげんよう、アニー。今日も元気って感じ?」
「元気って感じですよ」

あれから、一月ほど。夏に向かって、徐々にあたたかくなる空気を同じように。私たちの仲も急速にあたたまっていた。

週に2・3度はカフェで集まり、雑談を交わす。

「あー、今日も最高って感じね! アニーの考えるお話! お茶請けに最適かもしれませんわね。それくらい、甘くて素敵なお話ね」

もう、創作ノートを読んでもらっても、まったく恥ずかしいと思わないくらいの仲はふかまっていた。

正直いえば、自分で組んでおいてシナリオのことなんて頭から跳ぶほど楽しい時間ばかりだった。
もちろんエリゼオと会っている時間に不満などないのだけど、やっぱり男友達と女友達では、話をできる領域が違う。

こっちの世界に来て初めて、服やネイルといったいわゆる女子らしい話をすることができた。
ラーラさんは、結構な美容オタクらしい。その詳しさときたら、現代日本でいうところの化粧品コーナーのお姉さんレベルだ。

今日は、私にお化粧を教えてくれるがてら、そうしてもお宅訪問したいという彼女たっての既望で、お屋敷にお越しいただいたのだけど……

「今日は来客があると言っていたけれど、君のことだったか。ラーラ・オースティン公爵令嬢。今日もご機嫌麗しいようで」
「公務では何度もお見かけしていますが、こうしてまともに対面するのは初めてでございますね。あなた様こそ、ご機嫌麗しゅう、エリゼオ王子」

 今日は部屋にエリゼオも招いていた。

 思いがけず、双方から同日に誘いを受けたので、これはちょうどいい機会だと踏んだわけだ。

 さすがにいきなりサプライズ的に引き合わせたのではまずい。一応、きちんと了承をとったうえで引き合わせた。


 私は飲み物の用意だとか理由をつけて、二人が会話を交わすのを、部屋の外、扉の影に隠れて伺う。

 はじめは形式的な挨拶から入ったが、リゼの社交性は図抜けていた。


「アニータさんって、本当に素敵な方ですよね。気さくだし、ユーモアもあって温かい。それに、身分差があっても対等に話してくれるのがいいですよね。オースティン家はぎりぎり公爵家って感じなだけで、そこまで偉くないのに、みんな無駄な気を遣ってきて困るって感じなんですよね」
「それは、そうだね。彼女は、僕にすら自分の言いたいことを正直に言うんだ。それが胸を指したことが何度あったか。ふふ、だが公爵令嬢の君からアニータの褒め言葉を聞けるとは驚いたよ。分かる人もいたものだ」

うん、話題が私のことで、明らかなる過大評価をされているのはどうかと思うけれど、ひとまず共通の話題で雰囲気がほぐれだす。

 エリゼオの作り笑いも、なりを潜めだしているようだ。

 しかし、美男美女、高貴な二人である。
こうして脇から見れば、なおのことお似合いに見えた。

私はこっそりまずは一安心。扉に背中を預けて、胸をなで下ろす。
が。


「また妙なことを考えていますね、アニータ・デムーロ男爵令嬢」


ぬらりと耳元で囁かれた声に、危うく声をだしかけた。あんまり急だったもので、扉に肘をぶつける。

じんじんくる痛みを堪えながらも、私は口を覆い隠し、まず室内を伺う。セーフ、気づかれてはいないらしい。

とすれば、問題は彼だ。

暑い夏に夜道を歩いていたら聞きたくもない怪談が耳に入ってきて、一人になってからぞわっとするみたいな。
いやいや、もっと端的に言えば、夜中に目を覚まして、水を飲みに行ったら、冷蔵庫の前で羽をカサカサ言わせる黒いアイツと遭遇したときみたいな。

とにかく寒気をもたらすくらい、いきなりあらわれた彼。


「また、例のシナリオとかやらでしょうか」

エリゼオの直属となった執事にして、『黒の少女と白王子』のセカンドヒーローであるヴィオラだ。

 とにかく、この場所ではすぐにでも見つかってしまう。私は近場にあった衣装部屋へと彼を連れて行く。
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