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1章
18話 【ジュリアside】嫉妬する公爵令嬢
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アニータとエリゼオ、二人が和気藹々と弁当を楽しんでいる頃ーーーー。
王城直下にある公爵邸の一室では、少女が一人怒りに狂っていた。
公爵令嬢、ジュリア・エルミーニである。
巻き毛を振り乱しながら、彼女が握る黒のドレスだ。
「ふざけてるわよ、こんな展開! なんで、このあたしがこんな目に!?」
クローゼットから、わざわざ引っ張り出してきた。
どうにか今日見た光景を頭から消し去ろうと長い爪で引っ掻き回し、裂く。
繊維の裂ける音が部屋に響く。
一つ100万ペリー、つまり現代で言うならば100万円もする一張羅が無惨にもただの布へと回帰していった。
それでも収まらず二着、三着と無駄にするうち、さらに彼女の心はぐつぐつと煮えたぎっていって、
「なんで、なんでよぉぉ!!! あたし、いい子にしてきたのにぃっ!」
そして絶叫とともに、閾値を越えた。
へたりと、カーペットの上にしゃがみこむ。一転、その瞳に潤むのは涙だ。
憧れだった、格好よくて優しくて高貴で可憐な自分にぴったりだと思っていたエリゼオ王子。
茶会の場では常に彼の横を陣取り、アピールならば最もしてきたし、微笑みかけられた回数も一番多い。
名も知らぬ男爵令嬢に邪魔をされそうになった時は、突き飛ばして額を打ち付けてまで、退けた。
それくらい、真っ向から好意を伝えてきたというのに。
美しく高貴で優雅でこの世の誰より魅かれる女であるはずの自分が、だ。
「せっかくここまで積み上げてきたのに……!」
それがどうだ、ここへきて妙な雰囲気を纏った黒服女に掻っ攫われた。
ぞっとくるような展開以外の何でもない。
ぎりっと歯噛みをする。歯茎が抉れそうなくらい、強く強く噛み付ける。
「お、お嬢さま。お気持ちはお察ししますが、どうかその辺りで……」
執事が扉の外から遠慮がちに首だけで覗き、声をかけてきた。
その召していた黒服が、気に食わなかった。
鎮火していた炎に再び油が注ぎ込まれる。
「あなた、早くあたしの前から去りなさいっ! 今すぐよ、その忌々しい服を破って燃やしなさい」
「し、しかし……これは旦那さまから、エルミーニ公爵からいただいたもので」
「だから、なにっ!? あたしは、今! 今、苛立ってるの」
その黒服を見ると、ゆらゆら霧が立ち上るかのごとく幻覚が見えてくる。
あの謎の黒いドレスの女と、愛しかったエリゼオが体を寄せ合っている場面だ。
あんな見たこともない女となぜ。
再び苛立ちが頭の半分を占めたところで、ふとジュリアは思いついた。
「あなたに命令するわ、しがない邪魔執事」
「………な、なにをでしょう?」
「あなた、数人の衛兵を連れて、今から王城のあらゆる門を囲むのよ。そして、出てくる女を捕まえるのよ。あとはどうにでもしてくれていいわ。
ぼこぼこに殴っても、汚い裏路地に捨ててきてもいい」
そう。見たこともない女である以上は、やつは王城に仕える人間ではないはず。
とすれば、必ず城から出てくる。
もうすっかり夜であった。他の貴族女性たちは、とっくに家路についているはずだし、奉公人ならその姿格好で判別できる。
これからドレスで出てくる10~30代の女がいたと出てくるとすれば、あの黒服泥棒女に違いない。
ジュリアは白目をひん剥き、卑怯な計画に唇を吊り上げた。
王城直下にある公爵邸の一室では、少女が一人怒りに狂っていた。
公爵令嬢、ジュリア・エルミーニである。
巻き毛を振り乱しながら、彼女が握る黒のドレスだ。
「ふざけてるわよ、こんな展開! なんで、このあたしがこんな目に!?」
クローゼットから、わざわざ引っ張り出してきた。
どうにか今日見た光景を頭から消し去ろうと長い爪で引っ掻き回し、裂く。
繊維の裂ける音が部屋に響く。
一つ100万ペリー、つまり現代で言うならば100万円もする一張羅が無惨にもただの布へと回帰していった。
それでも収まらず二着、三着と無駄にするうち、さらに彼女の心はぐつぐつと煮えたぎっていって、
「なんで、なんでよぉぉ!!! あたし、いい子にしてきたのにぃっ!」
そして絶叫とともに、閾値を越えた。
へたりと、カーペットの上にしゃがみこむ。一転、その瞳に潤むのは涙だ。
憧れだった、格好よくて優しくて高貴で可憐な自分にぴったりだと思っていたエリゼオ王子。
茶会の場では常に彼の横を陣取り、アピールならば最もしてきたし、微笑みかけられた回数も一番多い。
名も知らぬ男爵令嬢に邪魔をされそうになった時は、突き飛ばして額を打ち付けてまで、退けた。
それくらい、真っ向から好意を伝えてきたというのに。
美しく高貴で優雅でこの世の誰より魅かれる女であるはずの自分が、だ。
「せっかくここまで積み上げてきたのに……!」
それがどうだ、ここへきて妙な雰囲気を纏った黒服女に掻っ攫われた。
ぞっとくるような展開以外の何でもない。
ぎりっと歯噛みをする。歯茎が抉れそうなくらい、強く強く噛み付ける。
「お、お嬢さま。お気持ちはお察ししますが、どうかその辺りで……」
執事が扉の外から遠慮がちに首だけで覗き、声をかけてきた。
その召していた黒服が、気に食わなかった。
鎮火していた炎に再び油が注ぎ込まれる。
「あなた、早くあたしの前から去りなさいっ! 今すぐよ、その忌々しい服を破って燃やしなさい」
「し、しかし……これは旦那さまから、エルミーニ公爵からいただいたもので」
「だから、なにっ!? あたしは、今! 今、苛立ってるの」
その黒服を見ると、ゆらゆら霧が立ち上るかのごとく幻覚が見えてくる。
あの謎の黒いドレスの女と、愛しかったエリゼオが体を寄せ合っている場面だ。
あんな見たこともない女となぜ。
再び苛立ちが頭の半分を占めたところで、ふとジュリアは思いついた。
「あなたに命令するわ、しがない邪魔執事」
「………な、なにをでしょう?」
「あなた、数人の衛兵を連れて、今から王城のあらゆる門を囲むのよ。そして、出てくる女を捕まえるのよ。あとはどうにでもしてくれていいわ。
ぼこぼこに殴っても、汚い裏路地に捨ててきてもいい」
そう。見たこともない女である以上は、やつは王城に仕える人間ではないはず。
とすれば、必ず城から出てくる。
もうすっかり夜であった。他の貴族女性たちは、とっくに家路についているはずだし、奉公人ならその姿格好で判別できる。
これからドレスで出てくる10~30代の女がいたと出てくるとすれば、あの黒服泥棒女に違いない。
ジュリアは白目をひん剥き、卑怯な計画に唇を吊り上げた。
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