46 / 70
三章 恋人のフリ?
46話 Gショックはお気に入り!
しおりを挟む
背後には、着付けを手伝ってくれた店員さんが控えている。
「お似合いですよ、とても」
これこそお世辞じゃなかろうか。
なんて思っていたら、
「じゃあ彼氏さんにご覧いただきますね」
試着室のレースが開かれる。そこに、鴨志田が立っていた。
黙したまま、全身を何往復も見つめてくるので、必死に意識を店内の壁へ逸らす。
「……な、なんですか」
「いいんじゃないか? 眠り姫が見違えたな、と思って」
「ほんま、ろくなこと言わん!!」
「あ、馬鹿、殴るな。せっかくのドレスがもう縒れるぞ」
ふふっ、と店員が微笑ましげに希美たちを眺める。
本物のカップルだと、信じてやまないといった様子だ。
「どうされますか? こちらでしたら、彼女様のイメージにも合うかと」
面倒だからだろう、鴨志田も否定はしなかった。
まぁ、あえて言うほどのことでもないのは確かだ。耐性がないので、関係なく照れてはしまうが。
「そうですね、俺もよく似合ってると思います。後輩はどうだ?」
「えっと……」
基本的に服には無頓着な人間だ。
個人的な好みは赤系色、というぐらいしか答えられない。判断基準はといえば、なにをおいても価格だ。
希美は、裾の端にくくられた値札を見てみる。
全ての眠気が一気に消え飛んだ。二桁万円はくだらない。
「で、どうだ?」
「あの、これは素敵ですけど素敵すぎるというか……身の丈的にどうかなぁみたいな」
波風の立たない断り文句を探していたら、
「すいません。じゃあ、これ買います。あぁ、そのまま着ていきます」
鴨志田の財布から、カードが出てくるのが先だった。
居酒屋の割り勘とはわけが違う。払いますよ、などとは口が裂けても言えない。
「あんまり気にすんなよ。俺の頼みごとの一環だと思ってくれ」
「……そういう範疇です? これ」
「リクルートスーツなんて着てたら、会食の端にも預けてもらえないっつの。まぁ気に入らないなら、終わったら返してくれればいいさ」
鴨志田は、余裕綽々といった様子だった。
御曹司の金銭感覚は、浮世離れしているようだ。
さらには、靴やバッグといった小物類も見繕ってもらいセットで購入する。
「時計も買えばよかったのに。Gショックだけ浮いてないか?」
「えっと、そこまではお願いできません。これ、お気に入りですしドレスで見えませんし!」
「お似合いですよ、とても」
これこそお世辞じゃなかろうか。
なんて思っていたら、
「じゃあ彼氏さんにご覧いただきますね」
試着室のレースが開かれる。そこに、鴨志田が立っていた。
黙したまま、全身を何往復も見つめてくるので、必死に意識を店内の壁へ逸らす。
「……な、なんですか」
「いいんじゃないか? 眠り姫が見違えたな、と思って」
「ほんま、ろくなこと言わん!!」
「あ、馬鹿、殴るな。せっかくのドレスがもう縒れるぞ」
ふふっ、と店員が微笑ましげに希美たちを眺める。
本物のカップルだと、信じてやまないといった様子だ。
「どうされますか? こちらでしたら、彼女様のイメージにも合うかと」
面倒だからだろう、鴨志田も否定はしなかった。
まぁ、あえて言うほどのことでもないのは確かだ。耐性がないので、関係なく照れてはしまうが。
「そうですね、俺もよく似合ってると思います。後輩はどうだ?」
「えっと……」
基本的に服には無頓着な人間だ。
個人的な好みは赤系色、というぐらいしか答えられない。判断基準はといえば、なにをおいても価格だ。
希美は、裾の端にくくられた値札を見てみる。
全ての眠気が一気に消え飛んだ。二桁万円はくだらない。
「で、どうだ?」
「あの、これは素敵ですけど素敵すぎるというか……身の丈的にどうかなぁみたいな」
波風の立たない断り文句を探していたら、
「すいません。じゃあ、これ買います。あぁ、そのまま着ていきます」
鴨志田の財布から、カードが出てくるのが先だった。
居酒屋の割り勘とはわけが違う。払いますよ、などとは口が裂けても言えない。
「あんまり気にすんなよ。俺の頼みごとの一環だと思ってくれ」
「……そういう範疇です? これ」
「リクルートスーツなんて着てたら、会食の端にも預けてもらえないっつの。まぁ気に入らないなら、終わったら返してくれればいいさ」
鴨志田は、余裕綽々といった様子だった。
御曹司の金銭感覚は、浮世離れしているようだ。
さらには、靴やバッグといった小物類も見繕ってもらいセットで購入する。
「時計も買えばよかったのに。Gショックだけ浮いてないか?」
「えっと、そこまではお願いできません。これ、お気に入りですしドレスで見えませんし!」
0
お気に入りに追加
39
あなたにおすすめの小説
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
付喪神、子どもを拾う。
真鳥カノ
キャラ文芸
旧題:あやかし父さんのおいしい日和
3/13 書籍1巻刊行しました!
8/18 書籍2巻刊行しました!
【第4回キャラ文芸大賞 奨励賞】頂きました!皆様のおかげです!ありがとうございます!
おいしいは、嬉しい。
おいしいは、温かい。
おいしいは、いとおしい。
料理人であり”あやかし”の「剣」は、ある日痩せこけて瀕死の人間の少女を拾う。
少女にとって、剣の作るご飯はすべてが宝物のようだった。
剣は、そんな少女にもっとご飯を作ってあげたいと思うようになる。
人間に「おいしい」を届けたいと思うあやかし。
あやかしに「おいしい」を教わる人間。
これは、そんな二人が織りなす、心温まるふれあいの物語。
※この作品はエブリスタにも掲載しております。
こちら、あやかし移住就職サービスです。ー福岡天神四〇〇年・お狐社長と私の恋ー
まえばる蒔乃
キャラ文芸
転職活動中のOL菊井楓は、何かと浮きやすい自分がコンプレックス。
いつも『普通』になりたいと願い続けていた。ある日、もふもふの耳と尻尾が映えたどう見ても『普通』じゃない美形お狐様社長・篠崎に声をかけられる。
「だだもれ霊力で無防備でいったい何者だ、あんた。露出狂か?」
「露出狂って!? わ、私は『普通』の転職希望のOLです!」
「転職中なら俺のところに来い。だだもれ霊力も『処置』してやるし、仕事もやるから。ほら」
「うっ、私には勿体無いほどの好条件…ッ」
霊力『処置』とは、キスで霊力を吸い上げる関係を結ぶこと。
ファーストキスも知らない楓は篠崎との契約関係に翻弄されながら、『あやかし移住転職サービス』ーー人の世で働きたい、居場所が欲しい『あやかし』に居場所を与える会社での業務に奔走していく。
さまざまなあやかしの生き方と触れ、自分なりの『普通』を見つけていく楓。
そして篠崎との『キス』の契約関係も、少しずつ互いに変化が……
※ 土地勘や歴史知識ゼロでも大丈夫です。 ※ この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません
希望が丘駅前商店街~黒猫のスキャット~
白い黒猫
ライト文芸
ここは東京郊外松平市にある希望が丘駅前商店街、通称【ゆうYOU ミラーじゅ希望ヶ丘】。
国会議員の重光幸太郎先生の膝元であるこの土地にある商店街はパワフルで個性的な人が多く明るく元気な街。
その商店街にあるJazzBar『黒猫』にバイトすることになった小野大輔。優しいマスターとママ、シッカリしたマネージャーのいる職場は楽しく快適。しかし……何か色々不思議な場所だった。~透明人間の憂鬱~と同じ店が舞台のお話です。
※ 鏡野ゆうさんの『政治家の嫁は秘書様』に出てくる商店街が物語を飛び出し、仲良し作家さんの活動スポットとなってしまいました。その為に商店街には他の作家さんが書かれたキャラクターが生活しており、この物語においても様々な形で登場しています。鏡野ゆうさん及び、登場する作家さんの許可を得て創作させて頂いております。
コラボ作品はコチラとなっております。
【政治家の嫁は秘書様】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/210140744/354151981
【希望が丘駅前商店街 in 『居酒屋とうてつ』とその周辺の人々 】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/274274583/188152339
【日々是好日、希望が丘駅前商店街-神神飯店エソ、オソオセヨ(にいらっしゃいませ)】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/177101198/505152232
【希望が丘駅前商店街~看板娘は招き猫?喫茶トムトム元気に開店中~】
https://ncode.syosetu.com/n7423cb/
【希望が丘駅前商店街 ―姉さん。篠宮酒店は、今日も平常運転です。―】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/172101828/491152376
【Blue Mallowへようこそ~希望が丘駅前商店街】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/427152271
【希望が丘駅前商店街~透明人間の憂鬱~】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/427152271
【希望が丘駅前商店街~黒猫のスキャット~】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/813152283
あやかし警察おとり捜査課
紫音
キャラ文芸
二十三歳にして童顔・低身長で小中学生に見間違われる青年・栗丘みつきは、出世の見込みのない落ちこぼれ警察官。
しかしその小さな身に秘められた身体能力と、この世ならざるもの(=あやかし)を認知する霊視能力を買われた彼は、あやかし退治を主とする部署・特例災害対策室に任命され、あやかしを誘き寄せるための囮捜査に挑む。
反りが合わない年下エリートの相棒と、狐面を被った怪しい上司と共に繰り広げる退魔ファンタジー。
※第7回キャラ文芸大賞・奨励賞作品です。
このたび、小さな龍神様のお世話係になりました
一花みえる
キャラ文芸
旧題:泣き虫龍神様
片田舎の古本屋、室生書房には一人の青年と、不思議な尻尾の生えた少年がいる。店主である室生涼太と、好奇心旺盛だが泣き虫な「おみ」の平和でちょっと変わった日常のお話。
☆
泣き虫で食いしん坊な「おみ」は、千年生きる龍神様。だけどまだまだ子供だから、びっくりするとすぐに泣いちゃうのです。
みぇみぇ泣いていると、空には雲が広がって、涙のように雨が降ってきます。
でも大丈夫、すぐにりょーたが来てくれますよ。
大好きなりょーたに抱っこされたら、あっという間に泣き止んで、空も綺麗に晴れていきました!
真っ白龍のぬいぐるみ「しらたき」や、たまに遊びに来る地域猫の「ちびすけ」、近所のおじさん「さかぐち」や、仕立て屋のお姉さん(?)「おださん」など、不思議で優しい人達と楽しい日々を過ごしています。
そんなのんびりほのぼのな日々を、あなたも覗いてみませんか?
☆
本作品はエブリスタにも公開しております。
☆第6回 キャラ文芸大賞で奨励賞をいただきました! 本当にありがとうございます!
小児科医、姪を引き取ることになりました。
sao miyui
キャラ文芸
おひさまこどもクリニックで働く小児科医の深沢太陽はある日事故死してしまった妹夫婦の小学1年生の娘日菜を引き取る事になった。
慣れない子育てだけど必死に向き合う太陽となかなか心を開こうとしない日菜の毎日の奮闘を描いたハートフルストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる