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1章 追放と受け入れ
23話 襲撃と秘策
しおりを挟む真っ先に、彼らの襲来を察知したのは、天使であるナナだった。
「……この変な笑い方、間違いありません! あの、悪い代官たちです!」
なんてことない、穏やかな陽気の昼。
彼女の発言は、突然の雷雨の如く、昼食の席に激震を走らせた。
「しかも、今回は上官も連れてきてるみたいです。男爵って、呼ばれてる人がいるみたい…………」
「ナナさん、それ本当ですか?」
険しい顔をするナナにあわせるように、レティは途端に顔を青くして、尋ね返す。
「はい、私、かなり耳はすぐれてるんです……。間違いありません」
「あぁ、あぁせっかく村がよくなってきたのに、またあいつらが。ど、どうしましょう!」
前回、サリを人質に取られたことが強い恐怖として植え付けられているのだろう。
フォークやナイフを投げ出すように置いて、レティは焦り出す。
「落ち着いてください、大丈夫、大丈夫ですから」
ハイネは彼女の袖をひき、にこりと笑いかけた。
「こんな時は焦らないことが肝心ですよ、レティさん」
「……ハイネさん」
「大丈夫。レティさんも、サリさんも、傷ひとつつけさせませんよ」
決意を込めて、ハイネは言い切る。
そのうえで、頭を整理しながら席を立った。
「それで、ナナさん。あの悪徳代官たち。ここにくるまで、どれくらいかかりそうかな」
ナナは、天使の特殊能力として、かなり遠くの音を聞き取れる力を持つ。
つまり、村への襲来まではまだ時間があるはずだ。
「まだ三十分近くはかかると思いますっ」
「よし、じゃあ今のうちに、村に知らせよう。ナナさんも、レティさんも、お願いするよ」
サリは、ハイネにしがみついて離れなかったので、一緒に連れて行くこととなる。
それぞれ三方に分かれて、村中の家々を訪れていった。
最低限必要なものを持って、村の集会所に集まるよう呼びかける。
これまでは、家に篭って息を潜めてやり過ごしていたそうだが、
それでは一軒ずつ狙い撃ちされたときに対処のしようがない。
守ることを考えれば、一箇所に固まってもらっていた方がありがたかった。
少ない人数ということもある。
村人が一堂が会すまで、ほとんど時間はかからなかった。
「みなさま。話を信じてくださって、ありがとうございます」
「ハイネさんの言うことだ、嘘などないだろうよ」
「そうだ、そうだ。俺たちはあんたの人柄も買ってんだから」
まったく頼もしい人たちだ、そしてこの上なくありがたい。
これなら乗り切れるかもしれない。
そう思うハイネだったが、残り二十分、十分と迫るごとに、不安感が堂内を包みだす。
「もう、あいつらの支配はうんざりだ……」
「くそ、なんだって俺たちはあんな奴らに虐げられなきゃいけない…………」
よほどの圧政を強いられてきたのだろうことは、ハイネにも分かっていた。
彼らの心には、拭いきれない恐怖が植え付けられているらしい。
「今日はハイネさんがいるじゃないか! みんなで必死に抵抗すれば、なんとかなるさ。
撃退しちまおうさ」
「でもよ、あいつらが代官である以上、倒したところで、また別の役人が来ちまうだけだろ……」
「しかも、目をつけられてるぞ、間違いなく。つぎは、とんでもない軍隊引き連れてきやがるかもしれない」
それは、その通りだった。
現に今日だって、悪徳代官たちは、上長である男爵を連れてきているわけだ。
ナナの報告によれば、数も前より増えて200人近い兵がいるとか。
たとえば今回を凌いだとしても、この負のループから抜け出せるかどうかは分からない。
この次は、より大量の兵でもって制圧しにくる可能性もある。
「くそ、どうすればいいんだ……。は、ハイネさん………!」
「やめろ、こればっかりはハイネさんにだってどうしようも…………」
「本当にハイネさんが領主だったらなぁ」
痛ましい声だった。身を抉るような苦しみが、ハイネにまで伝わってくる。
希望などなく、ただ悲観的な未来を憂う声だ。
ハイネは目を瞑り、それらを聞く。
なんの罪もない彼らを苦しめる代官たちが、許せない気持ちでいっぱいだった。
どうにかしたくてしょうがない。
恩を返さねばならないのだ、ハイネは。
一宿一飯のような、軽いものではない。
この村の人が、自分のような街の除け者をこうして受け入れてくれた恩義を。
「……ハイネ殿」
サンタナ爺が、『領主の器』と評してくれたことが脳裏に蘇ってくる。
正直言って、自分ではまったくそう思わなかった。
今もその考えは、変わらない。
けれど、もしそうなることで、この村が救われるのだとしたら。
ハイネの懐には一つだけ、妙案があった。
不安に堕ちるレティ、達観した様子のサンタナ爺など、村人たちの顔を見渡す。
「みなさん、一つ聞いてくれますか」
それから、こう切り出した。
ハイネは、作戦を余すことなく、村人たちに伝える。
自分で語っていて、絵空事にしか思えぬような話だったが、
「ハイネさん! それだ、それだよ! どうか、お願いいたします!」
「よし、きた。やってやろうぞ!! ハイネさんを俺たちのリーダーにするんだっ!!」
村人たちは承認してくれた。
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