上 下
40 / 53
3章

40話 特殊スキル『魔力保有(大)』は、大量の魔力を賄えます。

しおりを挟む


「原因が分からないんだよねぇ、疫病の。苦しんでるのは、お腹っぽいんだけど、全身なんて人もいて。
 なんていうか、まとめて言うと、まじで手詰まり! みんな苦しんでるのに投げ出すわけにはいかないし……。
 ほんと、嫌になっちゃう!」

ルリっぽく言えば、こうらしかった。

彼女は、患者たちの待合室をちらりと見せてくれる。

老若男女が集められていた。
青い顔をしていたり、うなだれていたり、ただごとではないのは明白だった。

「みんな。こっち入って。ヒールは、この部屋でやってるんだ」

ルリに促されるまま、俺たちは奥へ進む。

それなりに広いスペースは確保されていて、ポーションなどの用意もあるが……。
人は、ほかに誰もいなかった。

「あれ、ヒーラーを何人か呼んでるって話じゃなかったか」
「それなの、聞いてよ、ヨシュっち! あんまりにも過酷だって、みんなどこか行っちゃったんだ」

……サジを投げられた、ってわけか。

ヒーラーとしては、どうなのだろうと思うが。一概にその判断を否定もできなかった。

彼らの様子を見て、万が一自分も、などと思ったのかもしれない。

「もしかして、一人で治療してるの……?」

ソフィアが尋ねる。

「そうなの、もう鬼無理じゃん? ヒールしても、ヒールしても、あんな感じでね。いたちごっこなんだ。ルリの魔力の方がもう限界っていうかさあ」

ルリはため息と共に、肩を落とす。
彼女の両親も手伝ってはくれているようだが、ヒーラーは、彼女しかいないらしい。

「魔力が……、そっか。ルリちゃんも休んだ方がいいよっ! 治す側が倒れちゃったら、元も子もないもん」
「ミリリさん、ありがとうね。でも、放ってはおけないっていうか……」
「だよね、だよね、いい子すぎるよ」

ミリリは、しきりにルリの頭を撫で回す。まるで子犬を愛でるかのような可愛がりようだ。

「私の魔導を使えば、ヒール効果のサポートくらいはできると思うんだけど……。
 魔力補給までは難しいかも…………」

転じて、心底恥じるように、ミリリは唇を引き締める。
なにか他に打つ手はないかと頭を捻り出す彼女と対照的に、俺の元には閃きが降りてきていた。

「できるよ、魔力補給なら」
「えっ、ヨシュア。ほんと!?」
「ほんと。こんな大真面目な時に嘘言えるような人間じゃないんだよ、あいにくな」

俺には、『魔力保有(大)』の特殊スキルがある。
これは恒常的に発動しており、人の何倍もの魔力を溜め込むことができるのだ。

ヒール魔法は、光属性の魔法を持つものが、治癒の鍛錬を積んだ末にスキルとして習得するもの。

前パーティーでは、ルリがそれを担っていたため、俺は身につけていないが、魔力量という形でなら力を貸せる。

「じゃあ、魔力流すぞ。気持ち悪くなったりしたら言えよ」
「…………う、うん」

俺は、ルリと両手を握り合い、目を瞑る。

魔力は、個人によってその性質が異なる。
簡単には受け入れられないこともあるのだが、

「きてる、もっといけるかも? あはっ、気持ちいい……かも。ヨシュっち、もっといける!? あっ、いいよ」

…………むしろ好相性だったみたいだ。
ルリは、悩ましい声を上げて、たまに息を詰まらせ、乱す。

「なんか、こう、官能的だ……。というか、背徳的? 犯罪っぽいかも」

ミリリがぼそり、そんな感想を述べる。

いや、違うんだけどね? ちょっとは思ったけど。
ルリとは一つしか歳離れてないし、というか、やましい行為ではなく、ただの魔力の供給だから!

「…………羨ましい」

ソフィアは、端的にこう呟いていた。
なにがだよ、と思うが、魔力を乱さないようにするためには、反応もできない。

ルリの魔力は、本当に枯渇する手前だったらしかった。
少し長めにかかって、魔力の供給が終わる。

俺が目を開けると、ルリは手を握っては開くを繰り返していた。

「……ものの数分だったのに、元気いっぱいかも。ルリ、こんなに力が湧いてくること最近じゃなかった! ねぇ、ヨシュっちは大丈夫なの? こんなにたくさん魔力をもらっちゃって。私が全回復ってかなりじゃない?」
「うん。その辺の心配はいらねぇよ。なんなら、まだまだ渡してやれるくらいだ」
「やっぱりヨシュっちは頼りになるね。よーし、ヒール再開!」

ルリは、にひっと笑う。
ミリリと一緒になって、おー! と拳を突き上げていた。

子供っぽさ全開なのだが、その心は十分に大人びている。

町の人にとったら、彼女の方が俺よりよっぽど頼りになると思われているはずだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

用済み勇者、捨てられたのでスローライフな旅に出る ~勇者はやめても善行はやめられないみたいです~【第二章開始】

日之影ソラ
ファンタジー
勇者パーティーは魔王を倒し、人類の未来を守った。役目を終えた勇者たちは王都へ帰還し、称賛の声と浴びながらそれぞれの故郷へと帰っていく。そんな中、一人王都に残った勇者が王城の一室で眠っていると、窓から見知らぬ者たちが侵入してくる。 彼らが自身の命を狙う暗殺者であることに気付いた勇者だったが、彼は抵抗しなかった。なぜなら彼は知っていたから。自らの役目は魔王を倒すこと。それが終われは用済みになることを。 そして、勇者は殺された。 王国の人々は勇者の死を悲しみ、信じないと強く主張する者もいた。勇者が、人々の英雄が死ぬはずがないと。きっと生きているのだと。 事実、彼は生きていた。殺された勇者の遺体は、魔王だった少女が作り出した偽者だったのだ。こうして勇者という肩書から解放された青年は、新たな旅に出る。 元勇者と元魔王のコンビが、世界中を旅していろんなことを体験したり、時に人助けをしたりするお話。 男性向けHOTランキング1位&ファンタジー2位【07/20】

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

剣と弓の世界で俺だけ魔法を使える~最強ゆえに余裕がある追放生活~

初雪空
ファンタジー
ランストック伯爵家にいた、ジン。 彼はいつまでも弱く、レベル1のまま。 ある日、兄ギュンターとの決闘に負けたことで追放。 「お前のような弱者は不要だ!」 「はーい!」 ジンは、意外に素直。 貧弱なモヤシと思われていたジンは、この世界で唯一の魔法使い。 それも、直接戦闘ができるほどの……。 ただのジンになった彼は、世界を支配できるほどの力を持ったまま、旅に出た。 問題があるとすれば……。 世界で初めての存在ゆえ、誰も理解できず。 「ファイアーボール!」と言う必要もない。 ただ物質を強化して、逆に消し、あるいは瞬間移動。 そして、ジンも自分を理解させる気がない。 「理解させたら、ランストック伯爵家で飼い殺しだ……」 狙って追放された彼は、今日も自由に過ごす。 この物語はフィクションであり、実在する人物、団体等とは一切関係ないことをご承知おきください。 また、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。 ※ カクヨム、小説家になろう、ハーメルンにも連載中

勇者召喚に巻き込まれたモブキャラの俺。女神の手違いで勇者が貰うはずのチートスキルを貰っていた。気づいたらモブの俺が世界を救っちゃってました。

つくも
ファンタジー
主人公——臼井影人(うすいかげと)は勉強も運動もできない、影の薄いどこにでもいる普通の高校生である。 そんな彼は、裏庭の掃除をしていた時に、影人とは対照的で、勉強もスポーツもできる上に生徒会長もしている——日向勇人(ひなたはやと)の勇者召喚に巻き込まれてしまった。 勇人は異世界に旅立つより前に、女神からチートスキルを付与される。そして、異世界に召喚されるのであった。 始まりの国。エスティーゼ王国で目覚める二人。当然のように、勇者ではなくモブキャラでしかない影人は用無しという事で、王国を追い出された。 だが、ステータスを開いた時に影人は気づいてしまう。影人が勇者が貰うはずだったチートスキルを全て貰い受けている事に。 これは勇者が貰うはずだったチートスキルを手違いで貰い受けたモブキャラが、世界を救う英雄譚である。 ※他サイトでも公開

Sランクパーティから追放された俺、勇者の力に目覚めて最強になる。

石八
ファンタジー
 主人公のレンは、冒険者ギルドの中で最高ランクであるSランクパーティのメンバーであった。しかしある日突然、パーティリーダーであるギリュウという男に「いきなりで悪いが、レンにはこのパーティから抜けてもらう」と告げられ、パーティを脱退させられてしまう。怒りを覚えたレンはそのギルドを脱退し、別のギルドでまた1から冒険者稼業を始める。そしてそこで最強の《勇者》というスキルが開花し、ギリュウ達を見返すため、己を鍛えるため、レンの冒険譚が始まるのであった。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

HP2のタンク ~最弱のハズレ職業【暗黒騎士】など不要と、追放された俺はタイムリープによって得た知識で無双する~

木嶋隆太
ファンタジー
親友の勇者を厄災で失ったレウニスは、そのことを何十年と後悔していた。そんなある日、気づけばレウニスはタイムリープしていた。そこは親友を失う前の時間。最悪の未来を回避するために、動き始める。最弱ステータスをもらったレウニスだったが、、未来で得た知識を活用し、最速で最強へと駆け上がる。自分を馬鹿にする家を見返し、虐げてきた冒険者を返り討ちにし、最強の道をひた進む。すべては、親友を救うために。

処理中です...