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1章

1話 【まじ?】パーティーの攻撃も防御も陰からほとんどを支えていたのに、『平凡』だとパーティーを追放されました…………。

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それはまさに、青天の霹靂だった。

危険度A、モンスターの狂龍・クレージードラゴンを刈るクエストに出ていた道中でのことだった。

休憩を取ることとなり、パーティーリーダーと二人になったところで、それは唐突に告げられた。

「ヨシュア・エンリケ。君には今日でうちのパーティーは出て行ってもらうことになった。残念だけど、そういうことで」

腹が立つほど未練の一つもなさそうに言ったのは、リーダーのサンタナ・ポランニー。子爵家出身のいわば坊ちゃんだ。

男の割には長い髪が、森を渡る風にたなびいていた。

俺は理解できずに数秒。
一気に沸き起こった悔しさや、怒り、疑念にさらに数秒。

黙り込んでしまってから、やっとのことで唇を開ける。

「……なんで俺が、追放なんだ」
「決まっているよ、そんなことは。君は存在感がまるでない。いてもいなくても同じなんだよ。
 君はたしかにそれなりに戦闘もでき、戦略も練れる男だ」
「……だから、俺はずっとお前たちをサポートしてきただろ?」

ふん、と鼻で笑われる。

「だが、裏を返せばその程度でしかないんだよ、君は。
 全ての面において、君は平均でしかないんだ。そんな人間は、僕のパーティーには不必要だと思ってね」

平均、その言葉が俺の胸に刺さる。

『「平均」でいさえすれば、誰かに除け者にされることはない』

そう信じて、これまでやってきた俺には、あまりに無慈悲で救いのない現実だった。

「お言葉だが、……平均的のなにが悪い?」
「悪くはないよ、だがよくもない。突出した能力を持ち合わせるスーパースターの前には劣るという話さ。
 君の冒険者レベル35というのは僕らと大して変わらない。けれど君は剣に長けているわけでも、特殊な魔法技があるわけでもない」

サンタナは、尊大に腕を広げて見せる。

挙句は近くにあった大木にもたれかかって、ふっと笑った。

「餞別だ。正直に言ってやろう。
 我が『彗星の一団』には君のような没個性はいらない。
 レベルはまだ40やそこら。そんな低いうちから、危険度Aの魔物を倒すパーティーなんだぞ、僕たちは」

「…………俺の方こそ、正直に言ってやる。
 お前たちがそのレベルで危険度の高い魔物と戦えていたのは、俺が影で攻撃を加えていたからなんだが?」

サンタナは、見栄張りだ。

強い魔物を倒したいという欲が人一倍強く、うまくいかなければ癇癪を起こすこともあった。

本当なら『平均』でいるためにも、パーティーの実力に相応した魔物を相手にしたいところだったが…………。

仕方なく、高ランク魔物を倒させてやっていた。
つまり彼に、高ランクの魔物を相手に取れる実力はない。

「いまさら言い訳は見苦しいな、ヨシュア」

聞く耳を持ってはくれなかった。
俺は悔しさから、舌を強く噛む。

「……で、これ、他のメンバーにも了解は得てんのか」
「あー……………も、もちろんさ。みんなが気まずいというからね、リーダーの僕がこうして代表して通告している。
 嫌な役割だね、全く」

変な間があったのは気にかかるが、わざわざ確かめてどうなることでもないのは、もう分かっていた。

どう転んでも、サンタナが俺の追放を翻意することはないだろう。

ただ一つ、心残りなこともあった。

「ソフィアも、か……?」
「ふん。君の昔馴染みだそうだが、残念ながら、聡明で力もある僕の方についてきたいそうだ。
 ま、さすがに同情はしていたが」

紫のロングヘアが美しい、弓使いの少女。
ソフィア・シュルツとは幼い頃からの知り合いで、魔法学校でも一緒だった。

人とのコミュニケーションが極端に下手だった彼女は、俺が初めての友人だったらしい。

ある時は「生涯一の恩人」とまで言ってくれていたのだが……。

あれはお世辞だったか、それとも心移りしてしまったか。


もう一人のメンバーであるルリ・ルーカスとだって、俺はうまくやれていると思っていた。

おっちょこちょいな彼女を陰から補助魔法やらで魔物の手から守ったことは数知れず、関係も良好だったはずだ。

幼い見た目とはうらはらに結構我慢をするタイプなので、定期的なストレス解消にも付き合ってきた。

けれど、それもこれも、これにて水の泡。
空虚の中に弾けて、なかったことになったらしい。

唇を強く噛み締めて、俺は俯く。

「君もよくわかっていると思うが、僕たちはこれからまたクエストに戻るんだからね。
 君は先に町に戻っているといいよ」

もっとも、帰れるかどうかも知らないけれど。

サンタナが残虐性に満ちた笑みで、小さく言ったのを、俺は聞き逃さなかった。

実際、ここはダンジョンの中腹地。
戻ろうにも、それなりに高ランクの魔物が潜んでいる地点を通過せざるを得ない。

パーティーの力を合わせ、やっと乗り越えてきた難所だ。

「……サンタナ、お前らこそ気をつけろよな」
「君に言われなくとも心得ているよ。僕は剣という特技もあり、優秀だからね」

言い返したいことはいくらもあったが、喉につっかえる。
あっそ、と素っ気なく呟くのが精一杯だった。

「じゃあまた会うことがあったらね、ヨシュア。もうないだろうけど。……そら、早くいけ」

木陰にとどまって、サンタナが顎をしゃくる。
最後、剣先で冒険者衣服の裾をばっさり切られた。

俺は悔しさと失望にまみれつつも、陽の下へと一歩を踏み出すしかなかった。




ーーここが栄光への道の始まりであるのだが。
ヨシュアはまだそれを知らない。
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