8 / 14
8話 対面
しおりを挟む
♢
残す獲物は、大本命一人。
だがそれも、狩りまでは時間の問題だと思えた。
父と夜伽の約束をしていたのなら、エライザ本人がここにくるのは間違いない。
さながら、縄張りにやってくる魚を身を潜めて待つ鮫の気分だ。食らうための用意は、周到に整えた。
「あなたたち、今日はもういいわ」
部屋の外を警備兵はこう告げる。
「エライザ様、しかしこれは任務で……」
「お父様の命令よ。それにあたしも、恥ずかしいところ見られたくないの」
わざと乱した寝巻きから、右肩だけをのぞかせる。
さも行為が激しくなったことが理由かのように見せかけ、人払いした。
これで、エライザがやってきて不審に思う者はいない。
あとは、扉が開く瞬間を待つだけだ。
そう決意して私は、廊下側の壁の横で息を顰めて張り付く。
切りかかるまでの流れを何度も頭で反復していたら、やがて、外から足音が聞こえはじめた。
基本的に父の寝屋に来れるのは、彼が許可したものだけ。
間違いない。エライザのものだ。
決着の時が、刻一刻と迫ろうとしている。
胸の中で毒蛇がのたうち回っているのかと思うくらい、心音がうるさく駆け上がっていった。
必ずや全てを白日の元に引っ張り出して、世間に晒してやる。これまで散々されてきた分、今度は私が踏み台にしてやる。
そんなふうに思い詰め、自分との戦いに必死になっていたからか。
もしくは、これが終われば全てが叶うという、ほんの少しの油断からか。
直前まで気づけなかった。
足音が、一つだけではないことに。
不思議なことに一度分かると、いくつも聞こえてくる。
不測の事態だった。
こうなる可能性そのものを考えなかったわけじゃない。
けれど動揺で身体の動きが鈍くなることまでは、考えが回っていなかった。
「やっぱり、来てたのね。この不細工女」
殴りかかるどころか、だった。
一歩も動けず、しゃがんで壁に張りついたままの姿勢で、見つかってしまった。
エライザは、私の周りを兵隊たちに囲ませる。鼠一匹抜け出せぬ包囲網だ。
万にひとつも、逃がしてくれるつもりはないらしい。
「……エライザ」
「風呂に入ってる間に、あたしが外に散歩に出ていただなんて、ありえないもの。
すぐ、誰のことだか分ったわ。あんたの変装だってね。昔あたしを真似て、よくやってたでしょ。
なんで、あんたがここにいるの。なにを企んでーー」
そこで、怒りの声が悲痛な叫びへと一変した。
無残にも縛られ気を失った父の姿に、彼女はやっと気づいたらしい。
残す獲物は、大本命一人。
だがそれも、狩りまでは時間の問題だと思えた。
父と夜伽の約束をしていたのなら、エライザ本人がここにくるのは間違いない。
さながら、縄張りにやってくる魚を身を潜めて待つ鮫の気分だ。食らうための用意は、周到に整えた。
「あなたたち、今日はもういいわ」
部屋の外を警備兵はこう告げる。
「エライザ様、しかしこれは任務で……」
「お父様の命令よ。それにあたしも、恥ずかしいところ見られたくないの」
わざと乱した寝巻きから、右肩だけをのぞかせる。
さも行為が激しくなったことが理由かのように見せかけ、人払いした。
これで、エライザがやってきて不審に思う者はいない。
あとは、扉が開く瞬間を待つだけだ。
そう決意して私は、廊下側の壁の横で息を顰めて張り付く。
切りかかるまでの流れを何度も頭で反復していたら、やがて、外から足音が聞こえはじめた。
基本的に父の寝屋に来れるのは、彼が許可したものだけ。
間違いない。エライザのものだ。
決着の時が、刻一刻と迫ろうとしている。
胸の中で毒蛇がのたうち回っているのかと思うくらい、心音がうるさく駆け上がっていった。
必ずや全てを白日の元に引っ張り出して、世間に晒してやる。これまで散々されてきた分、今度は私が踏み台にしてやる。
そんなふうに思い詰め、自分との戦いに必死になっていたからか。
もしくは、これが終われば全てが叶うという、ほんの少しの油断からか。
直前まで気づけなかった。
足音が、一つだけではないことに。
不思議なことに一度分かると、いくつも聞こえてくる。
不測の事態だった。
こうなる可能性そのものを考えなかったわけじゃない。
けれど動揺で身体の動きが鈍くなることまでは、考えが回っていなかった。
「やっぱり、来てたのね。この不細工女」
殴りかかるどころか、だった。
一歩も動けず、しゃがんで壁に張りついたままの姿勢で、見つかってしまった。
エライザは、私の周りを兵隊たちに囲ませる。鼠一匹抜け出せぬ包囲網だ。
万にひとつも、逃がしてくれるつもりはないらしい。
「……エライザ」
「風呂に入ってる間に、あたしが外に散歩に出ていただなんて、ありえないもの。
すぐ、誰のことだか分ったわ。あんたの変装だってね。昔あたしを真似て、よくやってたでしょ。
なんで、あんたがここにいるの。なにを企んでーー」
そこで、怒りの声が悲痛な叫びへと一変した。
無残にも縛られ気を失った父の姿に、彼女はやっと気づいたらしい。
32
お気に入りに追加
623
あなたにおすすめの小説
今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~
コトミ
恋愛
結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。
そしてその飛び出した先で出会った人とは?
(できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)
hotランキング1位入りしました。ありがとうございます
目を覚ました気弱な彼女は腹黒令嬢になり復讐する
音爽(ネソウ)
恋愛
家族と婚約者に虐げられてきた伯爵令嬢ジーン・ベンスは日々のストレスが重なり、高熱を出して寝込んだ。彼女は悪夢にうなされ続けた、夢の中でまで冷遇される理不尽さに激怒する。そして、目覚めた時彼女は気弱な自分を払拭して復讐に燃えるのだった。
新しい人生を貴方と
緑谷めい
恋愛
私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。
突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。
2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。
* 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。
真実の愛の言い分
豆狸
恋愛
「仕方がないだろう。私とリューゲは真実の愛なのだ。幼いころから想い合って来た。そこに割り込んできたのは君だろう!」
私と殿下の結婚式を半年後に控えた時期におっしゃることではありませんわね。
お兄様、奥様を裏切ったツケを私に押し付けましたね。只で済むとお思いかしら?
百谷シカ
恋愛
フロリアン伯爵、つまり私の兄が赤ん坊を押し付けてきたのよ。
恋人がいたんですって。その恋人、亡くなったんですって。
で、孤児にできないけど妻が恐いから、私の私生児って事にしろですって。
「は?」
「既にバーヴァ伯爵にはお前が妊娠したと告げ、賠償金を払った」
「はっ?」
「お前の婚約は破棄されたし、お前が母親になればすべて丸く収まるんだ」
「はあっ!?」
年の離れた兄には、私より1才下の妻リヴィエラがいるの。
親の決めた結婚を受け入れてオジサンに嫁いだ、真面目なイイコなのよ。
「お兄様? 私の未来を潰した上で、共犯になれって仰るの?」
「違う。私の妹のお前にフロリアン伯爵家を守れと命じている」
なんのメリットもないご命令だけど、そこで泣いてる赤ん坊を放っておけないじゃない。
「心配する必要はない。乳母のスージーだ」
「よろしくお願い致します、ソニア様」
ピンと来たわ。
この女が兄の浮気相手、赤ん坊の生みの親だって。
舐めた事してくれちゃって……小娘だろうと、女は怒ると恐いのよ?
裏切りの先にあるもの
マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。
結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
婚約者の断罪
玉響
恋愛
ミリアリア・ビバーナム伯爵令嬢には、最愛の人がいる。婚約者である、バイロン・ゼフィランサス侯爵令息だ。
見目麗しく、令嬢たちからの人気も高いバイロンはとても優しく、ミリアリアは幸せな日々を送っていた。
しかし、バイロンが別の令嬢と密会しているとの噂を耳にする。
親友のセシリア・モナルダ伯爵夫人に相談すると、気の強いセシリアは浮気現場を抑えて、懲らしめようと画策を始めるが………。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる