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8話 対面

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残す獲物は、大本命一人。

だがそれも、狩りまでは時間の問題だと思えた。

父と夜伽の約束をしていたのなら、エライザ本人がここにくるのは間違いない。

さながら、縄張りにやってくる魚を身を潜めて待つ鮫の気分だ。食らうための用意は、周到に整えた。

「あなたたち、今日はもういいわ」

部屋の外を警備兵はこう告げる。

「エライザ様、しかしこれは任務で……」
「お父様の命令よ。それにあたしも、恥ずかしいところ見られたくないの」

わざと乱した寝巻きから、右肩だけをのぞかせる。
さも行為が激しくなったことが理由かのように見せかけ、人払いした。

これで、エライザがやってきて不審に思う者はいない。


あとは、扉が開く瞬間を待つだけだ。
そう決意して私は、廊下側の壁の横で息を顰めて張り付く。

切りかかるまでの流れを何度も頭で反復していたら、やがて、外から足音が聞こえはじめた。

基本的に父の寝屋に来れるのは、彼が許可したものだけ。
間違いない。エライザのものだ。

決着の時が、刻一刻と迫ろうとしている。
胸の中で毒蛇がのたうち回っているのかと思うくらい、心音がうるさく駆け上がっていった。

必ずや全てを白日の元に引っ張り出して、世間に晒してやる。これまで散々されてきた分、今度は私が踏み台にしてやる。

そんなふうに思い詰め、自分との戦いに必死になっていたからか。
もしくは、これが終われば全てが叶うという、ほんの少しの油断からか。

直前まで気づけなかった。

足音が、一つだけではないことに。

不思議なことに一度分かると、いくつも聞こえてくる。

不測の事態だった。
こうなる可能性そのものを考えなかったわけじゃない。

けれど動揺で身体の動きが鈍くなることまでは、考えが回っていなかった。

「やっぱり、来てたのね。この不細工女」

殴りかかるどころか、だった。
一歩も動けず、しゃがんで壁に張りついたままの姿勢で、見つかってしまった。

エライザは、私の周りを兵隊たちに囲ませる。鼠一匹抜け出せぬ包囲網だ。
万にひとつも、逃がしてくれるつもりはないらしい。

「……エライザ」
「風呂に入ってる間に、あたしが外に散歩に出ていただなんて、ありえないもの。
 すぐ、誰のことだか分ったわ。あんたの変装だってね。昔あたしを真似て、よくやってたでしょ。
 なんで、あんたがここにいるの。なにを企んでーー」

そこで、怒りの声が悲痛な叫びへと一変した。
無残にも縛られ気を失った父の姿に、彼女はやっと気づいたらしい。
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