花鳥風月

ナムラケイ

文字の大きさ
上 下
13 / 40
第1章:花ひらく頃、三条大橋にて

友の進言

しおりを挟む
 いやぁぁあああああああ!!
 ぁぁああああああああ!!
 っしぇぇえええええいいい!!
 きぇええええええええええええ!!

 早朝の奇声は二条城の風物詩である。
 庭の一角で、お城勤めの番士達が剣術の稽古に勤しんでいる。竹刀のしなる音が乾いた空気によく響く。
 風通しもノリも良い職場なのでやりたい放題に声を発している。声だけ聞くと動物園のようだが、皆、腕は確かだ。
 寒風吹き荒れる京の冬。武芸に励む番士達の身体からは湯気が立っている。
 一稽古を終えた征次は上半身を剥き出しにして手ぬぐいで汗を拭い、番所の縁側で稽古をさぼっている佐川の横に腰を置いた。
 佐川はわざとらしく鼻をつまんだ。

「汗くさいな」
「当たり前だろう。男所帯で婦女子のようなことを言うな。佐川こそ、もう少し真面目に武芸の鍛錬をしたらどうだ。組頭として示しがつかないだろう」
「俺はいいんだよ」

 佐川は後ろでに両手をついて、空を見上げた。
 はるか高い場所で鳶が滑空している。

「組頭なんてなりたくてなったわけじゃない。武士になんて生まれてきたくなかった」

 征次と佐川の付き合いは長い。何度も聞いた台詞を佐川は懲りずに口にする。
 身体を動かすことが滅法苦手な佐川は、身長は征次とそう変わらないのに体重は10キロ以上軽い。

「仕方ないだろう。生まれる時代も身分も選べやしないんだから」
「そうさなあ。もし生まれ変われるなら、次は自分で自由に仕事が選べる時代がいいな」
「自由に選べるなら、どんな仕事がしたいんだ」
「ビジネスマン一択だ」
商人あきんどか」
商人あきんどではない、ビジネスマンだ。世界をまたにかけ、でかいビジネスをするんだ」
「おまえは口が上手いからなあ」
「ちょいちょい毒があるね、おまえ。さては俺が中弥君と仲良くしているのに嫉妬しているんだな」

 佐川はからかうような目つきで絡んでくる。

「誰がおまえに嫉妬などするか」
「どうだかねえ。さっき、番所で偶然中弥君と会ったから猫を見せてやったら、すごく嬉しそうにしてたぞ」
「さっき? 会ったのか? 中弥と?」
「ああ」
「どんな様子だった?」

 征次は、のほほんと話す佐川ににじり寄った。
 昨日は、自分を制御できずに失態をおかしてしまった。帰り道、中弥はほとんど喋ってくれなかった。
 あれは完全に怒っていた。呆れられたのかもしれない。いや、気持ち悪いと思われたのかも。
 もしそうなら死ぬほど辛い。

「寄るな。おまえ、汗臭いんだから」
「気にするな。それで、中弥の様子はどうだった?」
「だから普通だって。可愛らしく猫と戯れていた」
「そうか」

 猫と戯れる中弥。俺も見たかった。いや、まずは謝らないと。
 征次の奇行に、佐川は察したらしい。「さてはおまえ、もう手を出したのか」などと聞いてくる。

「出してない。けど」
「けど?」
「警戒させてしまった」

 白状すると、佐川は遠慮なく蔑んだ視線を送ってきた。

「中弥君はいい子だよ。俺の髪を見て、変な目をしたり目を逸らしたりしなかった。そんないい子を警戒させるって、倉橋、おまえ何をしたんだよ。まさか無理矢理貞操を奪ったとかじゃないだろうな」
「そんなことするか! 指を舐めただけだ」

 思わず声を荒げてしまった。佐川は束の間硬直したあと、盛大に爆笑した。

「あははははっ! 指? は? 何のプレイだよ、それ」
「プレイとかじゃなくて、こう、自分を押さえられなくて」

 いたたまれなくなり、征次は手ぬぐいを頭からかぶった。
 朝に相応しい話ではなかった。

「ほんっと、おまえは昔から爽やか好青年のナリして筋金入りの変態だよね」
「黙れ」
「自分からゲロったんだろうが。本当、筋金入りの変態さんなんだから」
「うるさい。2回も言うな」

 佐川はまあまあと背中を叩いてきて、自分で触ったくせに、うわ汗がついちゃったよと征次の袴で手を拭っている。

「征次。今の中弥君はさ、昔のおまえのことなんか知らない中弥君なんだ。おまえにとってはちょっとしたスキンシップでも、中弥君にとってはそうじゃないんだから。ちゃんと、ゆっくり丁寧に、一から関係を作らなきゃ駄目だろ」

 至極全うな意見に、征次は頷いた。

「そう、だよな」
「そうだよ。こくりもせずにいきなり触るとか、誰でもビビるわ」
「反省している」
「うむ」
「反省しているけど、中弥といると理性が飛びそうになるんだ。もうなんか全部触って全部知りたくなる」

 たまらなくなるんだとあけすけに話す竹馬の友に、佐川は肩をすくめた。

「本当におまえは、昔から難儀な奴だなあ」
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

処理中です...