ペンと羅針盤

ナムラケイ

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33:幸せすぎて ★

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「航平、少しいきめる?」
「え?」
「お腹に、ちょっとだけ力入れて」

 言われたとおりにすると、有馬の全部が滑るようにぐんと挿ってきた。

「………っ!」
「航平」
「有馬、これっ…」
「うん。全部入ったよ」

 下腹部がじんじんする。ナカが発熱してるみたいに熱い。触ってもないのに前が勃ち上がっている。
 有馬は両肘で上体を支えたまま、微動だにしない。
 馴染むのを待っているように。
 同じ男だから分かるが、有馬は相当自制している。アナに挿れたら、思う存分腰を振りたいのが男の本能だろうに。
 航平の方も、静止されている方がナカをありありと感じてしまうし、もどかしい。

「動けよ」

 促すと、有馬は躊躇う。

「でも」
「いいから。じっとされてる方が、苦しい」
「ちょっとでも痛かったら、ストップって言って。セーフワードだよ」

 言い含めてから、有馬はゆっくりと腰を引く。
 引かれる感触がぞくぞくする。それから、打ち付けるようにずんっと奥まで入ってきた。
 もう一度引かれて、また突かれる。
 3度目のストロークで、目の前がちかっと光って、高い声が飛び出た。
 セーフワードを使う余裕なんてなかった。

「ああっ…!」

 身体が震えて、腹が生ぬるく濡れていく。
 その感触にびっくりして視線を下ろすと、性器が震えながら精液を吐き出している。
 しごいて出す時とは違う、勢いのない射精。

「なん、でっ…」

 それは予感のない唐突な射精だった。
 イく気なんて全くなかったのに。
 呆然とする航平の髪を梳きながら、有馬が口づけた。

「大丈夫?」
「…俺、イったのか?」
「うん。ナカでね」

 男の中イキとか。知識では知っていたが、本当にそんなことできるのか。
 有馬は腰の動きを止め、労るように航平の髪を撫でている。

「航平。抜くね」
「え?」
「ゆっくり抜くから」

 囁く有馬の上腕を掴んだ。

「待てよ。あんた、まだだろ?」
「僕は大丈夫だから。これ以上すると、辛いでしょ?」
「辛くないっつったら嘘になるけど、いいから、続けろよ」
「航平」
「お互い気持ちよくないと、セックスする意味ないだろ」

 そう言うと、有馬は相好を崩した。

「どうしよう。幸せすぎて泣きそうだ」
「ばーか」

 有馬の目尻には本当に涙が滲んでいて、航平は震える指先でその涙を拭った。
 その後は、声を殺すのを止めた。
 有馬の全部が欲しい。その思いで、有馬の動きに必死で応える。ただただ夢中だった。
 繋がった部分から身体がどろどろに溶けて、自分と有馬の境界が無くなったみたいだ。
 意識が朦朧とする中、有馬のものがどくんと脈打つ。
 放たれる熱い液体の感触を0.3ミリ越しに感じていた。 

 目覚めると明け方だった。
 視線を巡らせると、有馬と目が合う。肘を立ててこちらを見ている。起き抜けではなさそうだ。

「寝顔見てるとか趣味悪りい」

 そう言ったつもりだったが、喉が嗄れて音にならなかった。
 有馬が差し出したペットボトルを一気に半分空ける。

「航平。僕を受け入れてくれてありがとう」

 有馬は幸せそうに微笑んでいる。自分も同じような顔をしているのだろう。

「おう」

 照れくさくて、それだけ短く答えた。
 いつ寝てしまったのかは覚えていないが、身体は綺麗に清められていた。
 裸のままだが、触れる有馬の体温とシーツのさらさらが気持ちいい。
 水を飲んで眠気が冴えると、下半身に猛烈な違和感が襲ってきた。股関節とふくらはぎも痛い。
 自分の身体が違うものになった気がする。

「なんか、まだ入ってるみたいだ」

 そう言うと、有馬は流し目を送ってきた。

「朝から誘ってるの?」
「誘ってない! ってか支度しねえと」

 時間は十分あるが、身体を温めないと普通に動けそうにもない。
 航平の様子を察したのか、有馬が言った。

「お風呂入れるね。身体を温めれば、だるさも薄れると思うから」
「サンキュ」
「その前に、お尻を見せて?」

 さも当然のように言うので、思わず「うん」と答えそうになったのを寸前で留めた。
 今こいつ、何て言った?

「は?」
「お尻見せて」
「朝から何言ってんだ」
「傷がないか確認するだけだから」

 ああ、そういうことか。
 朝っぱらから何をされるかと思った。納得はするが、見せれるわけがない。

「自分でするからいい」
「自分じゃ見えないでしょ」
「恥ずいって」
「昨日散々見たのに?」
「昨日と今日は違うだろ」
「いいから」

 抵抗空しく、こっちの力が入らないのをいいことに、強引に身体をひっくり返され、アナルを晒す羽目になった。

「うん。ナカは綺麗にしたし、切れたりしてないから大丈夫。襞の部分が少し腫れてるから、お風呂あがったら軟膏を塗ってあげる」

 あんたは医者か。
 突っ込む気力も失せる航平であった。
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