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 部屋に戻るとイガリさんは目を覚ましていて、きっちりと軍服を着込んでいた。
 その凛々しさは、明け方までしとげなく乱れていた人と同一人物とは思えない。

「グンシさんは、こんな時間から働いているんですね」

 俺が持ってきた水で、イガリさんは温かい紅茶を煎れてくれた。
 ソファに並んで座り、紅茶で身体を温める。

「戦争が近いからな」
「……戦争?」
「アクアイル王国との戦争だ。近く開戦する」

 グンシさんが言っていた「大事な時期」って、そういうことか。
 デザイア帝国が方々で侵略戦争や小競り合いを繰り返しているのは知っているが、どれもが遠く離れた国境の出来事なので、俺には自国が戦争をしているという実感はあまりない。

「それ、俺に話していいんですか」
「良くないな」

 イガリさんは悪びれずに肩をすくめた。
 その肩に流れるさらさらの髪を、俺は指で梳く。

「イガリさんとグンシさんも、戦争に行くんですか」

 聞かずにはいられなかった。
 綺麗な人だけれど、俺の恋人は紛れもなく一国の軍人だ。

「前線には行かないよ。軍師と皇帝補佐官だからね。俺たちは司令部での指揮に入る」
「それは、戦場に行くよりも大変なことですよね」
「どうしてそう思う?」
「自分の判断が、見えないところで人の命を奪うから」

 俺の言葉に、イガリさんは微笑んだ。

「君はいい子だな」

 朝に相応しい軽いキスを交わしながら、俺はふと思い当たる。

「あれ。グンシって、名前じゃなかったんですか?」

 それを聞くと、イガリさんはぶはっと噴き出した。
 イガリさんがこんなに笑うの、初めて見た。
 笑うとクールな顔立ちが急に幼くなる。
 可愛くて悶えそうだ。

「「軍師さん」なんて妙な呼び方するなと思ってたけど、名前だと思ってたからか」
「だって、最初にきちんと自己紹介してくれなかったじゃないですか」

 あまりに盛大に笑っているので、俺は膨れる。

「ごめんごめん。あの人の名前はトールヴァルト。肩書が皇帝付軍師だから、普段は軍師や軍師殿って呼ばれている。ま、引き続きグンシさんって呼んでやりなよ。訂正しないってことは、彼もその呼び方を気に入ってるんだろうし」

 そう話を終わらせると、俺の恋人は立ち上がった。端正な立ち姿に朝日が差す。

「さ、お仕事の時間だ。君もそろそろ職人さんたちが来るんじゃないか?」

 時計を見ると、まだ午前7時過ぎだ。
 皇帝府の始業時間も職人たちが来るのも8時だが、イガリさんが仕事を始めるなら、俺もそうしよう。

「完成、楽しみにしててくださいね」

 そう言うと、イガリさんは困ったような顔をした。

「楽しみだけど、複雑だな。君、仕事が終わったらここには来なくなるんだろう?」

 可愛らしく小首を傾げられて、俺は身もだえする。
 あーもう、この人は! なんの最終兵器なんだよ、一体!

「煽ったの、そっちですからね」
「は? え、ちょっとテオ、なにするっ」

 イガリさんをソファに押し倒し、抵抗の言葉を吐く唇を塞いだ。
 
 すみませんグンシさん。始業時間までには出勤させるし、激しくはしないので、これはノーカンでお願いします。
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