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第八章 寂しがりやに、さようなら
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しおりを挟む「おら、来いよ。オレだけ見てろ」
エリヤ本人にとっては、まさしく言葉通りの意味しか持たないのだろう。氷の尖兵たちを自分ひとりに引きつけて、ほかの四人や来場客たちに注意を向けさせないようにしてくれている。それはマコトにもわかっているのだが、わかっていても、とにかく、めちゃくちゃ、どうしようもなく――。
「かっ、こいいっ……!」
ぐっと両の拳を握りしめて、マコトが腹の底からの熱を吐き出す。誰が何と言っても――いや、エリヤの場合は『誰が何とも言えないほど』かっこいいのだ。
自分の中に、こんなにも原始的な感情が眠っていたのかと、エリヤの素顔を見るたびに思い出す。人の心の根底を揺さぶる存在感は、当然のように、氷の女王が戯れに作り出しただけの人形にも影響を与えた。あるものは体の一部を溶かし、あるものは手足の一部を落としながら、エリヤただひとりを見つめ続けている。冷たいはずの冬の空気は、この一瞬だけ完全に消え去り、信じられないような熱気に包みこまれた。マコトの額に、じわりと汗が滲み出る。
「素で乙女ゲームの俺様キャラのような台詞を吐けるあたりが末恐ろしいな」
「アンタって乙女ゲームも嗜むタイプなのね。あとでオススメ教えなさい」
「っ、エリヤ!」
相変わらず緊張感のないタイシとミサキのやり取りを軽々と追い越して、悲痛な響きを帯びたユウの声がエリヤに向かって飛んでいく。ちらっとユウに視線を送ったエリヤは、なにかを言いかけるように僅かに口を開くが、すぐに踵を返して走り去った。その背中を、二十体もの氷の兵士たちが、大名行列さながらにぞろぞろと追従する。
「ユウ、あのね。アイツ、ちょっとかっこつけるところあるのよ。外見的な意味じゃなくて、中身的な意味で」
すぐにエリヤと兵士のあとを追いかけようとしたマコトだが、ミサキがユウに優しく語り掛ける内容に好奇心が刺激され、思わず足を止めてしまった。
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