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第2章 水の都アクアエデンと氷の城

緊急イベント 7

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ざわめく街を見下ろして、スイはずずいと女王蜂を見せ付けた。

「………………この蜂さんが女王蜂です」

《愛し子?なにを………》

「この女王蜂さんを捕まえようとしたプレイヤーさんは自首してください。今すぐに。」


スイの言葉に、全員が顔を見合わせる。
捕まえるってなんだ?と。
カガリたちも険しい表情をしている中、スズメバチ達も近くに飛んでくる。

「まってくれ!捕まえるってなんだよ!?」

「意味がわかんないよ!スイたん!」








「………女王蜂さんは、むすめさんの蜂さんを殺さないならハチミツはわけてくれるって言ってくれました。」

「知ってるよ!俺ハチミツもらったし!あの時はありがとうございまーす!」

《う、うむ……》


スイの話を聞き拡散されたハチミツ情報。
それは瞬く間に広がり、ハチミツクエストは前よりもしやすくなってハチミツの流通はとても良くなったのだ。
それはとてもいい事だろう。
実際に女王蜂は快くハチミツを分けてくれたのだ。
食事には昆虫でも取れる蜂たちは、半分ほどハチミツが減っても問題ないようだ。
また、ハチミツの生産が実は物凄いハイスピードらしい。
一日に何度もは無理だと伝えられたようだが、翌日来る分にはハチミツは渡しても大丈夫と女王蜂は優しく言ったらしい。

だから、ギルドにも伝えられてハチミツクエストは1日2回までの限定クエストに変わった。
中にはプレイヤーが食べ物を代わりに渡して好感度を上げるなんてこともあったらしい。


「………そんな時の話らしいですよ」


プレイヤーにも心を開いた女王蜂は最近外に自発的に出ることもあったらしい。
日光浴的にその日も出てきていた。




「あ、ここじゃない?ほら蜂の巣ある」

ある女性プレイヤーが蜂の巣を指さした。
周りにいた蜂達と一緒にそちらを見る女王蜂。

「あ、ハチミツもらえますか?」

《うむ、良いぞ》

近づき答えると、女性プレイヤーは嬉しそうに隣にいた男性プレイヤーの腕を叩いた。

「よかったね!クエストクリア!…………ん?どうしたの?」

ポワンと女王蜂を見る男性プレイヤーは、凄い勢いで女王蜂に近ずき抱きついた。
本当に一瞬である。

《なにをする!!》

「綺麗だぁ……なんて綺麗なんだぁ………」

まるで魅了に掛かっているようなその様子に、全員が鳥肌を立てた。

《母様を離せ!》

《母様に触れるな!》

娘達は一斉に男性プレイヤーを離そうと頑張るが、一瞬で吹き飛ばされ命を散らした。

《!!娘たち!》

「あいつ何してんの!?」

何とか離そうとしても、仲間のプレイヤーにすら手を上げる男性プレイヤー。
フレンドリーファイアがある為ダメージを受けている。

「あいつ、何考えて…………」

「いや、女王蜂かわいから……」

「あんたも何言ってるの!?」

不思議と何人かの男性プレイヤーが女王蜂に好意を示したのだ。

《なんなのだ!》

顔を近づけるプレイヤーを必死に押しのけようとする女王蜂。
娘たちは助けに行きたいが、女王蜂がそれを止めた。
無闇に命を散らすな、と。
それを聞いた男性プレイヤーが更に、女王様お優しい!吐息を荒らげる。

全員ドン引きである。







「…………まって、たしかプレミアムガチャで引いたの、蜂じゃなかった?」



そう、魅了されたかのような男性プレイヤーは、蜂のガチャを引いていたのだ。
同じく女王蜂に少なからず好意を示すプレイヤーも昆虫のガチャを引いていた。


「あいつ、離した方がいいって!!」

「でも、どうやって!?」

「もう死に戻りさせた方が早くない!?」

「えぇ!!女王蜂は!?」

魔法を展開していく魔術師は他の魔術師にも促す。
そして、同時に魔法を放った。


「どうせモンスターなんだから、時間たったらリポップするって!!」


そういって、男性プレイヤーと女王蜂は炎の魔法により焼き尽くされた。




「……………良かったのかな?」

「仕方ないじゃない………」

微妙な雰囲気のまま、残ったプレイヤーはため息を吐き出して街へと戻って行った。

あーあ、クエスト失敗だし、イエローなったしで最悪だわ

そう言って居なくなったプレイヤーを娘たちは見送った。
この娘達の嘆きが蜂達だけがわかる周波を出して第3の街のスズメバチまで届けたのだ。

この周波を感じてスズメバチは一斉に第2の街近くの森に集まり女王蜂がリポップするのを待つ。











「だって!仕方ないじゃない!こいつおかしくなるし、他も変だし!!いいじゃない!女王蜂はリポップするでしょ!!何が問題なのよ!」

私はレッドになるの覚悟してやったのよ!
叫ぶのは噴水広場にいる女性プレイヤーだった。
あの時魔法で女王蜂と男性プレイヤーを焼き尽くしたプレイヤーである。

近くには3人がかりで押さえつけられてる男性プレイヤーもいた。

レッドとは、人を殺したプレイヤーのことを指す。
名前が赤に変り、色々な制限がかかる。
もちろん、牢屋行きである。

直ぐに今の状況を運営に伝えた所、プレイヤーキルに変わりないからイエローになる事に決まった。数回街の人の頼みやクエストをクリアする事でプレイヤーネームは緑に戻る。
そして、蜂についての内容を何とかしてくれと話した結果運営は修正すると言っていた。

男性プレイヤーを見たらまだ修正されてはいないようだが。



「……………これで女王さま蜂の巣引越しして中に篭もったのよ。スズメバチさんも助けに来て、近づくだろうとプレイヤーを一斉に攻撃した!」

ブンブンと女王蜂を振り回すスイに、目を回す女王蜂。
慌てて近づく娘達とスズメバチ達がスイを止めた。


「でも!そんな事言われても仕方ないじゃない!リポップするの分かってるからその場を離れる一種の手じゃない!!」

ゲーム攻略中には確かに必要なのかもしれない。
しかし、スイはその女王蜂に好意があったのだ。
すなわち



「でも!!私は嫌だわ!!!」




ザ・自己中


「…………あー、スイ。確かにあいつらのせいでこの緊急イベントが発生しただろうがな…」

どっちの言い訳もわかるわけで、カガリは言い淀む。
それには全プレイヤーも困惑していた。
システム上の事もあり、仕方ない所もある。
でも、その為に今後ハチミツを入手出来ない可能性もあり、それは料理をするプレイヤーには致命的だ。

そしてなにより



「…………この街が破壊されそうだったんですよ!」



これは、確かに見逃せない事でもある。
全員が困った顔をしている中、男性プレイヤーははっ!と目を見開いた。

「……………俺」

女王蜂を盲目的に見ていたのが戻ったのだ。
そして慌て出す。
そう、記憶がある事とこのプレイヤースイたん見守り隊なのだ。

「ス、スイたん………」

「戻ったの!?」

良かった!と喜ぶクランのメンバー達。
しかし、スイは良くない。

「…………良くないです。でも、理由もわかりました。でも、イライラしますのでこうしましょう」








リポップするから大丈夫なんですよね?
男性プレイヤーさん含めあのクランの人達をピーピーピーピーピーピーして死に戻りを何度かしたらいいんじゃないでしょうか?




鬼がいる。






全員が青ざめるがクリスティーナはふむ、と考える。


「……………スイ、スイが女王蜂さん大好きなのわかったし、お怒りなのもよーくわかった。でも、システム的にも仕方ないし、やりすぎると最悪垢BANされちゃうよ?それは流石に私嫌だわ」

「…………クリスティーナ?」

「だからさ、いい解決あるじゃない!ね?」

全プレイヤーが首を傾げる中、フェアリーロードのメンバーは一点集中する。
ほの暗い笑みが浮かぶ少女へと。




「「「「「ナズナさま、よろしくお願いします」」」」」

「任された」


殺戮天使、降臨。


「連帯責任。クラン全員にナズナスペシャル10連撃しちゃうぞ☆」



可愛く言っているけど、動く足さばきが全てを台無しにしている。


「「「「「「「アッーーー!!」」」」」」」


その場にいる全プレイヤーの前で高く高く飛ばされた複数人のプレイヤーは、ある場所を必死に抑えて悶え苦しむが、我らが殺戮天使様はそんなに優しくない。

「今、1回目。あと9回」

「ま!まってくれ!!」

「むりだ!あと9回!?」

「死んじゃうよォ!助けてぇ!」


泣きながら言い募る様子を見ていたナズナ。
しかし、無常にも……………

「……………スイが怒ったからむり」

「「「「「「「ァァァァァァっっっーーーー!!!」」」」」」」






無常にも10回打ち上げられたプレイヤーに、ナズナは蹴り技のレベルが2つ上がって嬉しそうに笑う。

そして、それを見ていた全プレイヤーは男性プレイヤーはある場所を隠すように手で覆い前かがみに。
女性プレイヤーもカタカタと震え倒れているプレイヤーたちを見ていた。


こうして女王蜂の救済は終わり、殺戮天使ナズナ様の恐怖を周囲が周知した瞬間だった。


ちなみに後日、運営からやりすぎと注意を受けたスイとナズナは唇を突き出して不満を漏らしたのだった。
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