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久しぶりの酒盛り

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 今日は朝から芽依の機嫌は最高超だった。
 お泊まりのハストゥーレと手を繋ぎ、昨日採取した沢山のきのこが箱庭にあるのを確認してから朝食の席に座った。
 見るからにニコニコしていて、シャルドネは微笑む。

「おはようございます。朝からご機嫌ですね」

「おはようございます! なんと! 今日からお酒解禁なんですー!!飲めなかった期間が長い分幸せもひとしおです! 」

「そうなんですね、良かったです。私とも飲みましょうね? 」

「もちろんですー! 」

 以前に約束していたフェンネルを含む3人での酒盛り。
 純粋に楽しむ気でいるのだが、ほのかに足を噛みたい下心がある。
 勿論それを綺麗に隠して微笑んだ芽依は、扉を開き入ってきたアリステアと、新人3人を見る。

「おはようございます、アリステア様」

「ああ、おはよう……食べないで待っていたのか? 」

 ドラムストの会食では、1番目上の人から食事を始めるのだが、時間がバラバラな普段の食事には摘要されない。
 その為、食べていない芽依に何か用事があるのだろうとアリステアはにこやかに聞いてきた。
 ただし、懐に胃薬があるか確認しながら。

「アリステア様、昨日はきのこ狩りをしてきまして。沢山採ったからおすそ分けに」

 テーブルに巨大な籠を置き山盛りになっているきのこを見て目を見開いた。
 籠は4つあって、それぞれ種類別に分けられている。
 芽依とハストゥーレ以外が驚き時間が止まったかなのように微動だにしない。

「……メイ? 」

「はい! 」

「これは一体……」

「きのこの山? 」

「見ればわかる! 何故こんなに……一体どこから……」

 困惑しながら籠ひとつを手繰り寄せ中を見ると、新人3人も見て目を見開く。

「……え、凄い良いきのこ……」
  
「一体何処できのこ狩りをしたのだ? 」

「メイさん……これは……」

 全員の眼差しが芽依に向かった。
 にっこり笑って手を組んだ芽依は、まるでなんでもない事のように話した。

「山を買ったんです。きのことか、山菜が沢山で! 」

「山?! また……随分凄い買い物をしたものだな……」

 驚き声を荒らげるアリステアに、芽依はさらに追い打ちをかけた。

「はい! 珍しいハス君のお強請りだったので! 即決です」

「……………………え、白の奴隷がお強請り……」

「しかも、それが山で即決?! 」

 内容も規模も規格外だ。まず、奴隷が何かを頼む事もなければ、奴隷の為に高額な買い物をする主人もいない。

「…………山……」

 3人がポカンと見ていると、アリステアはスン……と無表情になった。
 数日前に行った会議でハストゥーレが何かを頼んだら両手を上げて喜び即決すると芽依は言った。だが。

「山を買ってと言われて即決……」

「満場一致でした」

「……どれくらいの大きさなんですか? 」

「え? 私はよく分からないんですけど、大きい山選んでたような……」

 うーん……と悩む芽依。
 メディトークとシュミットが選び決定後に確認してくれと見せられただけなので詳しくは無い。
 むしろ、金額は全力で見るのを拒否したので、どれくらいのグレードなのかはさっぱりだ。

「……そうか」

 疲れたように息を吐き出して椅子に座ったアリステアは腹部を優しく撫でていた。
 シャルドネは、4つの籠の中を確認してから芽依に提案をした。

「メイさん。ドラムストの備蓄にきのこ類が不足していまして」

「いいお酒で手を打ちます」
  
 にまぁ……と笑う芽依に、ふふ……と笑ったシャルドネは口元に手を当てながら頷いた。

「ええ、勿論ですよ」

「んふふ! ハス君、一緒に飲もうね」

「はい、ご主人様」

 禁酒が解かれた芽依は放たれた怪獣へと変貌する。
 それは収穫祭の時に広く知れ渡ってしまったが、犠牲者は相変わらず3人だけだ。
 そして、今芽依の頭を占めるのは、噛まれる回数が断トツで多いお餅の妖精である。

「まずはフェンネルさんと飲まないと……あ、シャルドネさん。家族と先に飲みたいんですけどいいですか? 」

「ええ、勿論です。後程日にちを擦り合わせましょうか」

「はい」
  
 ハストゥーレと違う森と英智の妖精。
 同じく森の属性を持つセイシルリードもいるが、皆、見た目も性質も違う。
 闇の最高位であるシュミットとセルジオも同じと言っても個の個性が強い。

 そんな個性的な人外者達を見て、にヘラと笑った。

 こうして、ドラムストに足りていなかったきのこや山菜の備蓄が増え、芽依にはまだ知らぬ未知の酒が手に入る。  
 win-winだと喜ぶ2人にアリステアはまだ山を買った衝撃から抜け出せず、報告なしに備蓄を決めたシャルドネには後からアリステアが詰め寄っていたのだった。

「ずるいぞシャルドネ。私もきのこや酒の話をしたかった」

「いつでも出来ますよ、アリステア」

 最近芽依の周りが楽しそうで仕事に日々忙殺され、疲れ切っていたアリステアは暗い目でシャルドネを見る。 
 仕事から離れたて休憩を取りたいところだが、なかなか時間にゆとりが取れず、こんな些細な会話にすら羨ましがるアリステアはだいぶ追い詰められているようだ。  

 芽依とハストゥーレは顔を見合わせた。
 家族がこの状態だったら、抱き締めるなり休ませるなりするが、相手はアリステアだ。
 家族ではないが、彼はこのドラムストの領主で毎日沢山の仕事が舞い込む仕事中毒、芽依は心配していた。どんな人でも休息は大事なのだ。



 
「だーかーらぁ、だからねぇ? アリステアさまがー疲れてるのぉ。何とかしてあげたいような? あげたくないようなぁぁ? 」

『どっちだよ』

「私、みんながぁ疲れてたらぁ、ぎゅーしてちゅーしてぇ……なでなでしてぇぇ…………癒すけどぉ……ねぇ? 疲れてるからぁ……つかれえるんらり? 」

『ちゃんとしゃべれ? 』 

「んひひひひ……あむあむあむ……んひひひひ」

『足齧って笑ってんじゃねぇよ、こえーっつの』
  
「おしゃけぇぇぇぇぇ」

「うわぁぁぁぁ!!ちょっと……まって! まって!! ねぇ、久々に見たんだけど! 歯でカジカジして準備するのやめて?! 」

 久々のお酒にテンションが上がって片っ端からお酒を飲んでいる芽依。
 最初はビールに似た酒を一気飲みした。
 至福!! と叫び2杯目、3杯目も飲みきったあと、メディトークのおつまみを食べて舌鼓を打つ。
 酎ハイを可愛くがぶ飲みし、ジュースだわと満面な笑みを浮かべ、焼酎を飲み干す。
 そして、鬼門のワインに手を出した。

「んふふふふひひ……んひひひひぃ」
  
「こわっ!! 」

 肩を押されてソファに押し倒されたフェンネルの腹部より下に座り、目当ての腹部を撫でる。
 にまぁ……と笑い、シャツをガバっ! と捲るとつるりとした芽依曰くはんぺんが現れる。

「いららきまぁぁー…………」

「いただきますじゃな…………いっっ!! 今日力強い! もっと優しくして! 」
  
「やひゃひくぅぅぅ……あむむむむ」

「………………優しくなったけどさぁ」

 ソファに押し倒されて腹部に噛みつき甘いお餅を味わう。 
 歯型が着いたのは最初だけで、次からは優しく唇で食む。たまに、かじ……と歯を立てるたびに、ピクリとフェンネルの手が芽依の髪を掴んだ。

 ふ、と顔を上げると、真っ赤に染った顔で見ているハストゥーレに、芽依はにっこりする。
 フェンネルの上に座ったまま首から胸下までのボタンをゆっくりと外しだした芽依にフェンネルが慌てて腕を掴み止めた。
  
「何してるの?! 何脱いでるの! 」

「はしゅきゅん……あむあむあむあむ? 」

『語彙消滅したか』

「いえ!! 我慢……我慢します! 脱がないでください!! 」

「ちょっとー、メイちゃん降りてー」

「……………………んあ? 」

「んあ? じゃなくてぇ」

 首を傾げると、その重さに引っ張られるようにソファから落ちた。
 フェンネルは慌てて起き上がり芽依を見ると、転がったままフェンネルを見る。

「えへ 。 えへへへへ……おちたぁ」

「うん……わかる……」

 無事だとわかりソファにまた横になった時、シュミットが仕事から帰宅した。
 芽依の様子を見て、すぐに回れ右をする。危険を感じ取ったのだ。
 だが、シュミットを見つけた芽依はみすみす逃がすはずが無い。
 ガバっ! と立ち上がり走り出すが、ふらつく芽依は見事にテーブルに脚をぶつけてしゃがみ込んだ。

「いっっ!!ううぅぅぅぅ……!! 」 

 たまたまローテーブルを準備していて、立ち上がった時脛を強打したのは悲劇だろう。 
 脛を抑えて崩れる芽依に全員が立ち上がり、シュミットも戻ってくる。

「大丈夫か? 」

「………………いたいぃ……シュミットさん……いたいぃ……だっこしてぇ……噛む」

「噛むんじゃないよ」  

 両手を伸ばして首に腕を絡ませた芽依は、膝に乗り上げてしがみつく。
 すぐに噛み付きを拒否をするが、頭を撫でてくれる手は暖かくて優しい。

 くいっ、と肩口のシャツを引っ張るが、ボタンをしているので下がらない。
 むー……と唸りながら頬に擦り付くと、はいはい、とまた頭を撫でられた。

「………………いたいのにぃ……足……足? あしぃ……撫でてぇぇ」

「飲みすぎ」
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