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芽依の言い分

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 メロディア達は言われたそうだ。
 
 食事ができずにいつ死ぬか分からない生活を強いられては辛いでしょう?
 だから、全員平等に幸せな生活をする為に、豊かな人は援助をするべきよ。
 幸せは自分自身だけではいけないわ、周りも見て苦しむ人を助けるの。それが何にも変えられない幸福だわ!

『……綺麗事だな。それを出来る余裕が一体どれだけあると思っていやがるんだ』

「出来るでしょうよ。でもそのせいでドラムストが傾いたら、どう言い訳するのかしらね。前も言ったけど、したいならひとりでするべきよ」

 馬鹿らしい、と手を振るメロディアに、皆賛成のようで呆れている。
 そんなに簡単にドラムストが傾くことは無いが、そんな個人的な考えで簡単に領主館が動くと思わないで貰いたいと、全員憤慨している。
 芽依が来るはるか昔に起きた食糧難や、全世界を震撼させたシロアリ後の食糧難は記憶に新しい。
 どうにか生き残るためにみんなで出し合い再生に力を入れた。
 しなくてはいけない状況がどんな時なのか、身をもって知っているのだ。
 たかが毎年起こる害獣被害ごときで騒いでいたら話にならない。

「結局、1部しか見えてないから軽はずみな事が言えるんだよね。分配しないといけない状況ならあの人が言わなくてもみんな一斉に動いているし、アリステア様が何もしないわけがない。みすみす命を落とすのを放置するような領主様じゃないから。周りが見えずにひとりで騒いで……伴侶さんも大変だよね、パートナーの話を聞かないのは」

 その芽依の言葉に数人の人外者が反応を示していた。
 最近、問題行動が見られる移民の民で、その素行はオルフォアにも伝わっている。

『まあ、伴侶と話し合ってちゃんと対話が出来てるならこんな馬鹿げたことはしねぇだろ』

「まったくだね」

 芽依はやれやれ、と首を振ると、アリステアとセルジオがちらりとオルフォアを見る。
 ティアリームの問題もだが、今別の問題も浮上しているからだ。
 移民の民の問題はまず初めに担当のオルフォアに行く。
 以前からの芽依の行動やその後の意識改善は様々な資料を見て理解していたオルフォアは、芽依を見る。

「メイ、お前の考えが聞きたいんだがいいか? 」

「え? はい……え、なんですか? 」

 いきなりオルフォアから話しかけられ芽依は隣にいる鴉頭を見た。
 漆黒の羽が風もないのに揺れていて、思わず見てしまった。

「……たとえば、反応がなかった相手が少しずつ感情をだしたら、どう思う? 」

「えっ!! 」

 オルフォアは、今までの移民の民について聞いた。
 だが、芽依にはすぐ側に似た状況の人がいる。
 似た状態の、大切な家族。

「ええ……えへ。幸せでたまらない」

「…………その相手が我儘を言いお前の話を聞かなかったら? 」

「我儘?! そんなぁ、デロデロに甘やかしますよぉ。我儘の内容が分からないけど、可愛いお願いなら即ききます」

「…………………………」

「あれ? 」

 アリステア達は誰を想像して芽依が話しているのかがわかっているから苦笑した。
 芽依ならば、そうするだろ。
 知らされていないとはいえ、禁術を使う程に深く愛しているのだ。
 ちょっとのお願いは、破顔して頷くだろう。
 それこそ、お強請りをしないハストゥーレが高額な何かを欲しがったとしても、両手を上げて喜こび一緒に買いに行くくらいはする。

「例えば、全く話を聞かず、お前がイライラし始めたらどうする? 」
  
「………………イライラ」
  
 芽依は考えた。何を言っても話を聞かずに反抗するハストゥーレ。
 芽依を無視して好き放題するハストゥーレ。
 それに怒る芽依。
 悲しむハストゥーレ。泣き出すハストゥーレ。
 謝るハストゥーレ。それに飛びかかる芽……。

『おい、ぜってぇ違う事考えてるだろ』

「はっ?! いや!! 反抗期で泣き出すハス君が可愛いとか思ってないよ?! 」  

『真面目にやれや!』

「……なんでバレたの」

 ブツブツと文句を言う芽依は、んー……と悩みユキヒラを見る。
 移民の民で、1番近しいのはユキヒラ。
 そして、闇堕ち状態から復活を近くで見ていたのもだ。
 その頃を思い出す。オルフォアが言いたいのはこれだろう、と。 
 芽依も噂程度に話を聞いていたのだ、移民の民と伴侶の不仲。
   
「たぶん夫婦の不仲についてですよね? ちゃんと話し合って聞く耳を持っていれば、そもそも今回の無理やり庭に訪問とかもなかっただろうし……」

 そう言ってから、芽依は少し俯く。
 昔の自分を思い出しているのだ。

「あのですね、来たばかりのよく分からない状態で私と同じ立場の移民の民がなんでこんな事になるの? って、多少なりとも憤りがありました。話くらい聞いてよ! って。それほど酷い状態でしたから。それに気付けない皆は、良かれと思って守ったやり方が囲うって極端な状態だったじゃないですか。あの時の私の意見は変わっては無いんですよ。話し合い大事、お互いを知るの大事」

 そう言ってから、芽依はメディトークを見た。
 そして、今いない大事な家族を思い出す。

「あの頃と今の私、1番の違いは伴侶じゃないけど大切な人が居ることだと思うんです。離しちゃいけない、大事に大切に守って傷1つも付けたくない。まあ、無理なんですけどね。だから、囲って守るあの頃の人外者の気持ち、今更になってわかるんですよ、困ったことに。あれだけ偉そうに言ったくせにって、私でも思うんですが」

 それは、芽依の感性が人外者に近付いてきた証拠でもある。
 大事で大好きで、全てが欲しい。その感情は消せない。
 相反しているのだ。
 話し合いをしなくてはいけない。相手を尊重しないといけない。
 でも、相手を縛り付けたい自分もいる。矛盾している。
 ディメンディールの力と人間の芽依が共存している証拠だ。

「そんな大好きな人が、まるで話を聞いてくれないのは、悲しくて辛くてたまらない。私なら、話を聞き入れてくれるまで諦めないで押しまくる。離したくないから…………絶対堕とす」

 グッ……と手を握りしめて目を据わらせた芽依がワントーン落とした声で言った。 
 全員、ゾクリと体を震わせて芽依を見る。
 
 シュミットを思い出して不憫に思うメディトークは、無言で芽依の頭を叩いた。
 実行しているからこそ、タチが悪い。

「何か悩みがあるなら話を聞ききます。抱えられないなら一緒に抱えます。たとえその人が諦めて消えようとしても、絶対離さない。離したりしない」

 アリステア達や、メディトーク、メロディアたちにも真っ白な髪を揺らして花を咲かせる花雪の妖精が頭を掠める。
 狂ってしまい悲しそうに粛清を受け入れたフェンネルを、あの時見ていた人は多い。
 あの時必死に伸ばした芽依の手を掴んでくれた事を、芽依は生涯忘れない。    

「でも、そんな気持ちになるのは、沢山大事にしてくれたからで、私も大事にしたいって思えるくらい大切だから。全力で隠すことなく大好きって示してくれるから。対話は大事、話し合いは何よりも基盤になると思います。それがないと何も生まないから………………だから、その感情がお互いになくて、疲れ果てて、もうしんどくなったら……切り捨てます」

 思ったよりも冷たい声が出た。
 片方からの溢れる気持ちを向けても気遣うことすら出来ないなら、そんな人いらない。
 私は愛し、愛される大事な人しかいらない。 
 離したくない人は意地でも離さない、振り向かせる。
 でもそうじゃないなら。

「死ぬとしてもか? 」

「大事な人なら死なせません。何をしても助けてみせます。でも、そうじゃないなら……切り捨てれる位の感情しかないから……」

 にこっと笑って見た芽依をオルフォアは数秒見てから目を逸らした。

 交差しない人生なら、生きていようが死んでいようが芽依の人生には関係ないから、どうでもいい。
 どんなに愛しても、虚しいだけだ。
 
 そんなことより大切にしないといけない人がいる。
 全力で愛してくれる3人がいて、どうしても欲しいと同じだけの愛を与えたいと思える人がいる。
 振られようが嫌がられようが、特別だから仕方がないと手を伸ばし続けた。どこかで握り返してくれると信じて。
 いつか捕まえる、囲ってでも離さないと歪んだ愛を向けるのは、メディトークたち以外では彼だけ、シュミットだけなのだ。
 それ以外は、極端に言えば切り捨てても構わない。

 まさに、人外者らしい排他的な考え。



 
おまけ?


「メイ」

「はい? 」

 静かに響くセルジオの声にオルフォアから顔を逸らしてセルジオを見る。
 少しだけ眉尻を下げたセルジオが場違いな質問をした。

「……それに俺は含まれているのか? 」

 切り捨てる対象か? と聞くセルジオに芽依は首を傾げた。
 そして、当然のように言うのだ。

「え? セルジオさんが私を嫌いになる日なんて無いですよね。私の話を聞かないで無視するなんてないじゃないですか」

 たとえ家族が出来ても、最初の頃から世話を焼き続けたセルジオは今も変わらない。 
 常に芽依の身の回りを片付け、食べれるものを食べれる量取り分ける。
 常に気を配り、芽依を領主館の人外者から守っているのはセルジオだ。

 そんなセルジオが芽依を見放す日はないと確信している。
 強欲で傲慢な考え。
 それにセルジオはじんわりと広がる満足感を胸に抱える。

「……え? 違った? 私はセルジオさん大好きなんだけど……」

「……振った相手に言うことじゃないな」

 小さく笑うセルジオはチラリとメディトークを見ると静かに隣にいる芽依を見る巨大蟻。
 あれ? と首を傾げる芽依を参加者全員が凄い勢いで見てくる。
 そして、一気に空気が悪くなるのは隣に座るメディトークから。

『…………おい。なんだ今のは聞いてねぇぞ。振ったってなんだ、あ? 吐けおら!!  』  

「ふぎゃ!! ぐ……ぐるじ……」

 ドシン! と芽依の上に巨大蟻が乗り芽依を押し潰す。 
 足を叩くが、その手はペイッと外され器用に頬を潰された。

『アイツだからいいものの、誰にでも懐きすぎなんだよ! 閉じ込められてぇのか?! 』

「あ……愛が重い……物理的に……」

 ぐえっ……と潰される芽依を見て、以前の囲われていた自分自身を思い出した移民の民は顔色を変える。
 愛され方は違うが、閉じ込める発言でフラッシュバックしたようだ。
 だが、巨大蟻はすぐに人の姿に変わり、芽依を押し倒した状態で顎を掬う姿に顔を赤らめた。
 
「俺ら以外に目移りすんじゃねぇよ、馬鹿が」

「……してないよ。あと今会議中」

「……………………口答えか? 気絶するまでキスすんぞ」

「なんで?! 」 

 悲鳴が響いた。
 それは芽依じゃなくて参加者女子からの羨望の眼差し付きでだ。
 それに焦り、必死に話しかける伴侶達に、完全に会議どころではなくなったのだった。 
 
 
 
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