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偽善者の移民の民
しおりを挟む2月、害獣が来る前に早めに定例会議がある。
これは移民の民とその伴侶全員参加の大事な会議である。
そんな日の前日の事、芽依の庭にインターホンがなった。
「ん? 誰か来る予定あった? 」
「いや、ねぇな」
全員で庭の手入れをして、珍しく1日お休みのシュミットが庭に出してある椅子に座って本を片手にウトウトしている。
ハストゥーレによって掛けられたひざ掛けがシュミットの体を温め、ついでにとフェンネルがシュミットの周りの温度を少しあげる。
そんなホッコリした様子を見ている時、イライラしているメロディアがユキヒラを連れて現れたのだ。
「メーイー!! 」
「わぁ!どうしたの? 」
メロディアが芽依にギュッと抱きついてくる。
フェンネルやハストゥーレは少しムッとしながらも、シュミットが座る場所から少し離れた場所に促し座った。
「メイ、貴方領主館に住んでて新しい移民の民に会った? 」
「会ってない……新しい人来たの? 」
「来たの。私は大っ嫌いだわ」
「へぇ? 珍しい気がするメロディアさんがそんなに言うの」
頬杖をついてイライラしているメロディアが珍しいとユキヒラを見ると、ユキヒラも余りいい感情がないのか無言だ。
あれ? と首を傾げると、丁度お茶を運んできたメディトークを見る。
「…………メディさん……お酒飲みたい……」
「害獣が終わったらな」
「わぁぁぁぁ!! やっと! やっと解禁!! 」
立ち上がり両手を上げ叫ぶ芽依を慌ててフェンネルが止める。
「メイちゃん、シュミットが起きるよ!」
「はっ! 」
振り向きシュミットを見るがまだ眠っているようだ。
ただ、眉をひそめているから眠りを多少は妨げたのかもしれない。
「…………良かった、寝てる」
「良く外で寝れるわねぇ」
「メイちゃんが庭にいるからねぇ」
当然のように言うフェンネルに、メロディアがはいはい、と手を振って返事をした。
「全く、メイの周りは皆拗らせてるわねぇ……て言うかハストゥーレどうなってるの? 綺麗さ跳ね上がってるんだけど? 」
「……そうかなぁ」
「そうよ……じゃなくて! 新しい移民の民の話。メイ、会ったら話しないで早く離れなさい。あの女、頭おかしいわよ」
思い出したかのように話し出すメロディアに、頭がおかしい……と復唱する。
テーブルには四人席で、メロディアとユキヒラに芽依、残り一脚だがフェンネルは芽依の椅子に座り膝に芽依を乗せた
空いてる席はハストゥーレである。
メディトークは、シュミットの近くの席に座って静かに話を聞いていた。
「栗色の髪、腰までは無いけど髪の長いの女よ……その女、自分が聖人かなんかとでも思ってるのかしらね」
嫌だ嫌だ、と首を振るメロディアが、紅茶を口に含む。
「…………いや、まずこの格好を突っ込んで」
「今更びっくりしないわよ」
当たり前の事のように言うメロディアに、えー……と言うと、隣から暖かいお茶を渡してくれるハストゥーレ。
芽依には紅茶よりお茶がよく出るのだ。
「で、どんなヤツだ? 面倒臭ぇやつか? 」
「偽善者よ。領民が大変なら施しましょうよっていうヤツ」
「…………クソじゃねぇか」
メディトークが面倒そうに言ってから、芽依を見る。
「おいメイ。定例会議は全員参加だ」
「シュミットさんも? 」
「ああ、行く」
寝ていた筈のシュミットが起きていて、くあっ……と欠伸をした。
どうやら定例会議は行くらしく、すぐに手帳を出して日程調整をしている。
「……みんな行かないといけないくらいヤバい人なの? 」
「そういうヤツは周りの不快感を感じ取ろうとしない。絡まれたら面倒だぞ」
「特にメイはね、絡まれると思うわよ」
お茶請けにと置いてあるクッキーなどの焼き菓子を手に取り食べる。
これはシャリダンの専門店のクッキーをシュミットがお土産で買ってきたのだ。
芽依お気に入りのバターブレットもある。
「なんで私? 」
「庭持ち、更にメディトークたち人外者が沢山だからよ」
これから害獣がきて販売量は大幅に減るだろう。
そんな時に偽善者とメロディアが言う人なら言いそうだ。
「………………庭の物をくばれ、とか? 」
「だろうねぇ」
フェンネルも顔を歪ませて芽依に寄りかかると、圧迫されてぐえっ……と声を出した。
メロディアから注意を受けてから定例会議に参加。
芽依は家族4人を引き連れて領主館にある会議室へと向かった。
今回の会議にキリスラディアは勿論いないから、少し狭い部屋に通された。
とはいえ、十分全員が座っても余裕のある部屋だが。
楕円形の白いテーブルに薔薇の絵が掘ってあり、底にレースのテーブルクロスが掛けられている。
テーブルとテーブルクロスで見事な白薔薇が浮かび上がり、瑞々しい葉に水滴がついている。
馨しい薔薇の香りかテーブルから立ち上がっている。
「可愛いテーブル」
「……欲しい?」
「大丈夫、いらないよ? 」
フェンネルが顔を覗き込み聞いてきて、すぐに欲しいわけじゃないと返事をする。
じゃないと、あっという間に買ってきてしまうからだ。
「メーイ」
「あ、メロディアさん」
「ねぇ、あんたの所のハンサムかぼちゃなんだけどさ。ユキヒラあれで作る煮物好きなのよ」
「あ、いる? 」
箱庭を触ろうとすると、すぐさま手を抑えられて隠された。
「しまって。見つかったら面倒よ」
「え? あぁ……」
「……よし。……だからね、今度株分けしてくれない? 」
「株分け……」
チラッとメディトークを見ると、メディトークも悩んでいる様子だ。
むりかしら? と聞くメロディアにメディトークが返事をする前にいつの間にか近付いたのか、件の女性が話しかけてきた。
「初めまして、私ティアリームと申します。ティアって呼んでください」
「……………………」
全員無言。
移民の民が自ら名前を名乗るなんて、何を考えてるのか……とティアリームを見てから伴侶を見ると、頭を抱えている男性がいた。
移民の民を選ぶ時は直感で選ぶ。
そこに性格は鑑みていない。
以前のように閉じ込め心を殺している時ならいざ知れず、今は移民の民の全てを守ろうと動き出した人外者達は移民の民に振り回されていた。
特に、新しく来た人なら尚のことだ。
にこやかに笑いながら話しかけてきたティアリームを見たあと、フェンネルは芽依をギュッと抱きしめる。
「ん? 」
「僕のご主人様、本当にメイちゃんで良かった」
「私もユキヒラで良かったわ。私の目に狂いはなかった」
メディトーク達も芽依を見る。
いつもの様子を思い出して、全員が深く頷いたのだった。
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