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暫定食当日、芽依は重大な真実を知る

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 今回の暫定食は、丁度芽依がカテリーデンに行く日だった。
 定例会が終わってから、ユキヒラの芋もちは販売が開始されていて、食べやすく腹持ちが良いと爆売れしていた。
 それに乗っかり販売者は増えて、定期的に芋もちは売られている。
 カテリーデンだけでなく、市場や闇市でもジワジワと広がっているようだ。

 そんな美味しい芋もちを大量に作り、まずは領主館へ。

「芋もちの出前ですー」

「メイ……? 」

 軽くノックして、扉越しに声をかけるとアリステアの声が聞こえきた。
 すぐに扉はシャルドネによって開けられ、ふんわりと相変わらずの笑みを浮かべてくれる。

「暫定食の芋もちですか? 」
  
 大きな箱に入っている芋もちは、全てパックに詰められていた。
 とはいえ、数も数だから、1パック10個入りのファミリーパックだ。
 領主館には人数もいるから構わないだろうと、詰め込まれているが、どうしても全員分は賄えない為、あとは自力で購入してくださいとなる。

「いつもすまないな、メイ」

「アリステア様の為ですからね! 」

 胸を張り言う芽依。
 その隣には今日はハストゥーレが佇んでいた。
 様々な部署から書類を渡しに来ている職員が、芽依の出現にざわつき、さらに暫定職の芋もちを持っている。
 絶対食べたい……とギラギラ見ていて、その中には芋もちだけではなく芽依にも視線が向かっていた。
 そこには、前回の戻り呪の時に無遠慮に話しかけてきた人外者もいる。
 
 ハストゥーレは、そっと芽依の前に出てアリステアが指定した机に芋もちの箱を置いた。

「ご主人様……そちらも」

 全てハストゥーレが持つはずだったが、芽依がハストゥーレにだけ持たせないと、1箱だけ持っていた。
 それもハストゥーレに回収されて机に置く。

「ありがとう、ハス君」

「いえ」

 んふふ、と笑って礼を言う芽依にはにかむハストゥーレ。
 可愛い……と内心暴れる芽依はそっと手を握った。

「………………」 

 そんな二人を曇った目で見る労働奴隷。
 領主館で働く奴隷が羨ましそうに見てくるのは仕方ないだろう。

「メイは今日はカテリーデンか? 」

「はい。とは言っても、販売はみんなに任せて今日はお留守番です」

「そうなのか? 」

「はい。暫定食の芋もち販売があるから、今日は庭にいろって言われてしまいまして……大人しく自動販売機の補充でもしてます」

「あ、そういえば、シャリダンにある自動販売機に芋もちをって話が来ていたな」

 護衛で部屋にいるオルフェーヴルが思い出したかのように言った。

「え、そうなんですか? 」

「餅に似た食感で好きらしいぞ。色んな味があったらなお嬉しいって言っていた」

「なるほど、了解です! 」

 手を挙げて返事をする芽依に笑うオルフェーヴル。
 ちょっと悲しい顔をしてからすぐに切りかえて芽依はアリステアの執務室を出ていった。

「どうされましたか? 」

「うーん……実はね、温泉での観覧車でオルフェーヴルさんの伴侶の祈り子様が別の人に抱き締められてるのが映っていたんだよね」

「! そう、なのですか」

「移民の民を呼んだ人外者って、伴侶が離れていても大丈夫なものなの? 」

「……大丈夫では、ないです」

 眉尻を下げて足下を見る。
 力を明け渡してまで伴侶にと願い、連れ帰る移民の民を囲うほどに愛情深い人外者なのだ。 
 離れていられるわけがないのだ。

「だから、今オルフェーヴル様の心がどうなっているか私には……」

「そっか……結構長い月日離れているんだよね……心配だね」

「はい」

 芽依も頷いて返事を返す。
 そして、ハストゥーレを見上げる。
 やはり、あの衝撃的なハストゥーレの姿が目に焼き付いて離れないのだ。
 今は隣で穏やかに笑っているハストゥーレだが、もし本当に死んでしまっていたら。

 移民の民の伴侶を失った人外者は、身を切るような気持ちになるのだろう。
 だが逆に、片翼となった移民の民は伴侶の人外者を失ったらどうなるんだろうか。

 想像するのも嫌で、芽依はギュッとハストゥーレの腕にしがみついた。
  
「如何しましたか? 」

「ハス君が死ななくて良かったなって。ずっと皆で一緒にいたいから」

 そう言った芽依に、ハストゥーレは困ったように笑った。
 返事がなく不安になった芽依は顔を上げる。

「……ご主人様、人外者にも寿命があります。メディトーク様やフェンネル様、シュミット様は最高位ですので寿命は無限と言ってもいいのですが、私は中位ですので、どちらにしても永遠に側にいるのは難しいのです」

 綺麗に微笑むハストゥーレに芽依は足が止まる。
 目を見開きハストゥーレを見上げると、一緒に足を止め芽依を静かに見た。

「……え」

 生まれてから数十年は奴隷としての知識や技術を磨き、それからギルベルトに売られてからも果てしない月日を生きてきたハストゥーレ。
 人外者としての年齢は若いが、中位妖精としてはそれ程寿命は残っていないのだ。
 だから、助けられたハストゥーレの寿命も数十年で消える。
 ハストゥーレ自身もそう思っていた。


 

『あ? ハストゥーレの寿命が短い? 』
 
「……え? 嫌だなぁ、そんなわけないじゃん」

 メディトークがフライパン片手に振りむき、ソファに寝そべりクッキーを食べているフェンネルが、顔を芽依達に向ける。
 そのすぐ近くに座るシュミットも煙草を吸いながら頷いた。
 またあんな絶望を感じるのかとハストゥーレにしがみついていた芽依は、二人の予想外な視線や言葉に目を見開く。
 
「あの時のハス君は死んじゃったけど、言っちゃえば別の種族の妖精に生まれ変わってるんだよ。森の妖精が、メイちゃんの力を貰って森と収穫の妖精に変わってる。索敵とか調べる事に特化していたのが、収穫に赴きが変わってるよね」

「中位の力にメイの力が多量に注がれてるからな、今のハストゥーレは最高位に近い高位だ。定着の為に今後も喰うだろうからもっと上がるぞ」

「…………え、じゃあハス君は」
 
「もう簡単に死んだりしないよ。今までよりも体も頑丈にはなってるから、この間みたいな攻撃でも致命傷は負わないから安心して」

 フェンネルの言葉にズルズルと座り込む芽依を慌てて支えるハストゥーレ。
  
「…………あぁ……よかったよぉぉ……これでまたハス君がってなったら……世を恨んで世界滅亡を願う所だよ」

「メイちゃんは本気だからなぁ」

「全部枯らしちゃうぞ」

「そんなキュルンって笑って言うことじゃないよね」

 あはは、と笑いながら言うフェンネルに笑い返す。
 ふざけて言っているが、ディメンティールの能力を受け継いでいる芽依には不可能ではないのだ。

「……わたしは、みんなが元気で笑って、一緒に居てくれたら……それだけで幸せ」

 ハストゥーレの手を握って言う芽依を全員が優しい笑顔で見ていた。
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