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豊穣祭の妖精会議ととばっちり(挿絵あり)

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 宵闇の中に浮かび上がるのは緩やかな服を着る収穫と豊穣を司る妖精たち。
 皆が宙に浮かびふわりふわりと服を風に揺らしていてとても優雅である。
 だが、その表情は皆一様に険しいのだ。

 男性2女性8の比率の収穫と豊穣の妖精。
 どちらかというと女性で生まれやすい個性らしく、皆穏やかな性質だ。
 だが、この時期だけはちがうのだ。

 豊穣祭。
 今年の恵みに感謝し、来年の実りに願いを馳せるこの祭には収穫と豊穣の妖精が必要不可欠である。
 力を補うためにメディトークがくるとはいえ、妖精が祈りを捧げる必要があるため、ディメンティールのかわりに別の妖精が執り行う。

 その妖精達の力はもちろんディメンティールに遠く及ばずにメディトークの力を借りても満足いく結果を出せない事も多々あった。

 表立って妖精達に何かを言う人はだいぶ減り、気持ちを磨り減る事は減ったがそれでも収穫が足りない、なんの為の豊穣祭なのだと心無い言葉を投げかける人は一定数いる。

 収穫と豊穣の妖精がいないと、そもそも素晴らしい作物ができないというのに。
 豊かな実りによって蓄えられた幸福感が、ディメンティールがいなくなったらその反動をぶつけられる。

「私、5年前にしたからやらないわよ」

「あたしはその2年前にしたわ」

「俺たち男がやると反発されるからパスで。数年前やったしな」

「そんな不公平な事を許すはずないでしょ」

 早々に戦線離脱しようとした男性達にギロリと鋭い眼差しを向ける女性。
 少ない男性陣にどうにか押し付けたい女性陣だが、確かに芽依が来た時の豊穣祭では男性が行っていた。
 少ないからこそ普通は回る回数が少ない筈だが、それを許すような女性陣ではなかった。

「………………ああぁぁぁ、文句言うなら自分らでやれよなぁぁぁぁ」

「そうも言ってられないでしょ。私たちだって食事が貧相になるのは嫌よ」

「どっちにしても必要なのよね私たちが」

「でもねぇ……力の強い人から祈っているのよ? それでも収穫が少ないんだもね……ディメンティール様は一体どこに行ってしまったのかしら」

 そう悶々と話をする仲間たちを黙って見ていた女性が手を挙げた。

「暫くやってないし、次は私がやりますわ」

 大きな帽子をかぶった紫色した髪をふわりと揺らして満面の笑みを浮かべて話す少女。
 白のブラウスに短めの黒のスカートを履いた少女は楽しそうに笑っている。


(挿絵はイメージです)

「あら、珍しいわねミルディオーネ。貴方が自分からやるだなんて」

「最近メディトーク様にお気に入りができたと聞きましたの。ご挨拶したいじゃないですか」

「………………貴方は相変わらずメディトーク様が好きねぇ」

「あの方以上に素晴らしい方はいないのですわ。結婚したい」

「はいはい……迷惑はかけないでよ」

 だれもやりたくない豊穣祭の祈り自ら望んだミルディオーネ。
 反対意見など出る訳もなくすんなりと決まった為にミルディオーネがワクワクと胸を踊らせる。

「お久しぶりに会えますわね、メディトーク様」

 うふふふ……と笑うミルディオーネに遠くなれた場所にいるメディトークがぶるりと体を震わせた。

「メディさん? どうしたの? 」

「あ……いや、なんでもない」

「ふぅん? 」

 お昼寝も出来るほどに広いカウチソファに足を伸ばして座る芽依。
 その後ろにはぴったりとくっついて横になっているフェンネルがいて、一緒に首を傾げてメディトークを見ている。
 丁度ナッツ等のツマミを持ってきたハストゥーレも困惑した様子でメディトークを見ていた。

「お風邪を召されましたか? 」

「いや、大丈夫だ……ハストゥーレ。悪いがホットワインをくれねぇか」

「かしこまりたした」

 ふわりと笑って頭を下げるハストゥーレの頭を撫でるメディトーク。
 その頭を手で抑えて顔をあからめるハストゥーレに芽依は身悶えていた。

「最近の溺愛供給が過剰摂取過ぎて溺れ死ぬ」

「芽依ちゃーん、大丈夫? 」

 苦笑しながら芽依の腰に片腕を回して後ろから除き混むフェンネル。
 横になっているから見上げるその姿が艶めかしく見えるのは、新しく買ったカウチソファの効果か、本人の魅力か。

「…………とりあえず、ひとかじりしておくか」

 もっていた白ワインを置いて、フワフワ笑うフェンネルの頬に齧りついた。

「わっ! もう……」

「甘い」

「だからね、僕は食べれないの」

「こんなに美味しいのにね、不思議」

「俺は、家族を食料扱いするお前が不思議だわ」

「大丈夫、メディさんも美味しいよ! 」

「ちげぇわ」

 ぐっ! と親指を立てる芽依の指を掴んで、グイッと下に向けると、普段曲がらない方向に引っ張られたので痛い痛い! と叫ぶ。

「…………そういえばご主人様、あの野菜の実験で誰かを噛むのですよね」

 いつの間にかホットワインを持ったハストゥーレが戻ってきた。仕事が早い。
 
「まあ、そうだねぇ」

「………………そうですよね」

 噛まれないハストゥーレがしゅんとしていると、芽依はハストゥーレの隣に行く。
 立っているハストゥーレは芽依からしたら高いので、そっと片手を取り手の甲を丁寧に撫でる。
 そんな芽依を黙って見ていると、不意に持ち上げられ指先に芽依の唇が当たった。

「ご……主人……様」

 チュッ……と音を鳴らして離れた芽依の唇に視線を向けるハストゥーレにニッコリと笑う。

「噛むだけが愛情表現じゃないんだから」

 ポンっ! と真っ赤になったハストゥーレ。
 首まで赤くて、そんな可愛らしい反応を見て満足そうに頷いた。

「…………やめろ獣。ハストゥーレが死ぬ」

「けもの?! 」

 なんとも不名誉な呼ばれ方をした芽依はボコポコとメディトークの胸元を叩いて反撃を繰り出すがまったくと言っていいほどダメージがない。
 次は筋トレをしてもっと鍛えれる事を誓った。
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