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モモリーヌの育った環境と転移

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 キューティーももりんこと、モモリーヌが生まれた世界は正義の魔法少女と悪の組織がいる世界だった。

 正義の魔法少女とは言っても、全てがフリフリな魔法少女の訳ではなくて、様々な姿をして日夜戦っていた。
 エリートサラリーマン風の人が銃を撃っていたり、幼子が巨体を蹴り飛ばしていたりと様々で、等しく高い身体能力と戦闘技術を持っている。

 そんな魔法少女の育成は魔法少女専門学校で技術を学び、実施訓練を経て卒業と共にプロ魔法少女となるか、魔法少女育成プログラムという幼稚舎からから育てられる優等生魔法少女の2種類がある。

 モモリーヌはその中で魔法少女育成プログラム卒業の魔法少女であった。

 魔法少女育成プログラム、幼稚舎からの育成とはいっても、それは実の所、戦災孤児が集められた幼稚舎で、自身の家族が殺された復讐の為に魔法少女となる子供達の事だった。

 とはいっても、モモリーヌにそこまでの戦意はなくヒーロー育成は劣等生だった。

 怖かったのだ。
 目の前で殺された父、母、姉の姿が今も脳裏にこびり付いて離れない。
 なぶりごろされるように、まるで遊んでいるかのように殺された家族たち。
 そんな家族に守られて、クローゼットの中で震えていたモモリーヌは、微かな隙間から3人が殺される姿を見ていた。

 床にどしゃり……と落とされた姉の首は無かった。床に吹き飛ばされ形をなくしている父、そして、四肢を裂かれた母。
 まるで玩具のように扱われた3人は、ついさっきまで笑いあっていたのだ。

 涙が止まらない、声を出さないように必死に口を抑えてカタカタを震える体を小さくする。

 すると、クローゼットの隙間に写った悪の組織は、ぬっ……とモモリーヌを見る。
 にやぁ……と笑った人間とかけ離れた外見のそれが手を伸ばしてきて、悟った。

 こんなのに、誰が勝てるの。

 死を目前にしたモモリーヌは恐怖と共に諦めた。
 隠れて、出てはダメだとクローゼットに押し込めた父が、姉を隠そうとする母が、母に逃げないとと叫ぶ姉が。
 間に合わず、現れた悪の組織にせめてモモリーヌだけでもと、3人が必死に意識を逸らし続けてくれたのに、モモリーヌは諦めた。
 生を、諦めたのだ。

 ふっ……と笑った悪の組織は、目線をずらして外を見る。
 そして、もうモモリーヌを見ることなくどこかへと行ってしまった。

 あとから知ったが、外で別の魔法少女が到着して戦っていたらしく見事討伐したらしい。
 モモリーヌの家の周りでも被害が出ていて、家族を亡くしたのはモモリーヌだけでは無かった。

 皆揃って幼稚舎へと連れていかれたモモリーヌ。当時6歳。

 勿論、全員が身体能力に恵まれる訳では無い。
 カリキュラムから脱落して一般人へと戻ったり、サポートへと回ったり、そもそも魔法少女になりたくないとカリキュラムを拒否する事も出来る。
 そして幼稚舎と言っても、その年齢は様々で、10歳より下の子が送られる。
 11歳以上であれば、通常の進学先の魔法少女志望か一般人へと戻るか選択をするのだ。

 こうして家族を失ったモモリーヌは気持ちを整理する時間も無く魔法少女育成カリキュラムを受けることになった。

 6歳なのだ。
 何が正しいのか、そのカリキュラムがなんなのか、受けて良いものか、ちゃんと理解出来ずに言われたまに魔法少女育成プログラムを受けた。
 しかし、どうしても必死にはなれず、そのためにどんどん後輩に追い抜かされてモモリーヌが劣等生になるのに時間はかからなかった。

 沢山いる生徒の中、脱落者も多い。
 モモリーヌも脱落するのにおかしくない力量だった。
 だが、それでもモモリーヌはヒーローになった。


「………………私、私は……」


 ボロボロになりながらもヒーローを続ける意味は、朧気になった家族の存在。
 そして、死ぬことすらどうでもいいと思った幼い自分。
 でも、育成途中の実地訓練で、何度も死に目を見てモモリーヌは死にたくないと足掻いた。
 その時点で、生への執着を取り戻したのだ。

 あとは、あの懐かしい暖かな場所。
 なんの不安もなくてモモリーヌを慈しみ大切に守ってくれる家族という存在。

 居場所が欲しかった。 
 誰かに寄り添って欲しかった。
 大切だって、言って欲しかった。
 
 家族を奪った悪の組織を倒しても家族は帰って来ないことはわかっているのだが、頭の片隅に残っている家族の優しさや温もりは忘れられなくて、それを追ってしまう。
 だから、家族を奪った悪の組織へと、憎しみを込めて今日もステッキを振り魔法を浴びせるのだ。
 

 
「ももりん!! 立て!! 」

「くそっ!! 危ねぇ!! 」

「ももりん、私の後ろに! 回復するわ!! 」

 5人で動いている魔法少女はいつもモモリーヌが足を引っ張る。
 魔法少女とはいってもそのうちの3人は男で、モモリーヌ以外が優秀だった。
 
 いつも足を引っ張る。私のせいで窮地に陥る。

 
「…………もう、むり……」

 四方に囲まれ飛びかかる悪の組織。
 そこはから逃れるが無理だと足掻いても、モモリーヌの四肢は数分後には弾け飛ぶのだろう。
 だが、せめて……と血塗れの状態でステッキを掲げた時だった。

「…………あれ、なになに。修羅場? 」

 空間に現れた窓が開いて、身を乗り出して見てくる男性は真っ白なフードを被っている。
 目の上に手をおき、まるで遠くを見るようにしながら言うが、その異常な様子をものともせず明るく話をしている。

「………………だ……だれだ」

「ん? あんたには関係ないよ」

 突然の登場に、全員が眉を寄せて警戒する中、窓からぬるりと出てきた男性はモモリーヌを見る。

「そうそう君。君を連れに来たんだよ」

「…………は? 」

 気付いたら悪の組織は吹き飛ばされていて、ハッ! と周りを見るが目の前には男しかいない。
 仲間は離れた場所で見ているが、近付けないのかピクリとも動かなかった。

「君をこの世界から伴侶として連れ出そうと思って。大丈夫、家族になって楽しく過ごすだけだよ」

「か……ぞく」

「そう…………欲しいでしょ? 家族。こんな血生臭い場所じゃなくて、もっと綺麗な場所で美しい世界で伴侶として」

 そう言って手を伸ばす男にモモリーヌは無意識に手を伸ばした。
 指先が触れるギリギリで振り返り仲間を見ると、青ざめ身動きひとつ出来ずに目を見開いてモモリーヌを見ている。

 あんなに強くて動けないモモリーヌに叫んでいた人たちが、今では恐怖に青ざめモモリーヌに声を掛けることすら出来ない。
 歪んだ笑みを浮かべたモモリーヌは指先が少しだけ触れると、男は満足そうに笑ってモモリーヌを引き寄せた。

「ようこそ、こちらの世界に。君はこれから大いなる母に抱かれて幸せになるんだ。だからもう、心配は何もないよ」

 ぶわりと風がふいた。
 フリルとリボンに飾られたスカートが揺れるのを見てから顔を上げたモモリーヌは言葉にせずとも男の手を取った時に、その契約は結ばれてしまったのだ。

 異世界への扉が開く。
 この世界に絶望していたモモリーヌは、差し出された手を握ってしまった。

 行き先が優しく美しい世界では無いのをまだ知らないモモリーヌは導かれたように足を進める。

 なぜこの男が家族を、ぬくもりを欲していたと知っているのか。
 頭の働かないモモリーヌは、この時理解が出来なかった。
 
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