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キューティーももりん

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 秋も訪れ、豊穣祭もあと数週間後に行われるというのに、そんな事情など知らないと嘲笑うかのようにドラムスト領内は今日も元気にどこかで問題が起きてる。

 ガヤでは幻獣が隠れて洗浄に来なかった為に鼻につく強烈な匂いを発してガヤの住民が気絶する問題が起きていた。
 巨大な猫型の幻獣が道路や木の体を擦り付け周りに被害を出したらしい。
 職員が見つけ次第、一度投げたタオルでしっかりと意識を刈取り、瞬間解決消臭パワーと書かれたスプレーを全身に振りかけた。
 消したのは周りの匂いのため、地肌に染み付いた汚れや匂いを取り除く為に連行され、気絶している間に大型洗浄機に入れられ全身にお湯がかかる悲劇に見舞われた.
 悲しきかなその大型の幻獣は、意味もわからぬうちに全身ゴシゴシと洗われてしまい悲痛な悲鳴を轟かせた。

 
 そしてここ、カシュベルでは、あの妖精が到来していた。

「私はキューティーももりん!! この世界の悪め! 私が退治して……退治……た…………きゃぁぁぁぁぁあ…………」

「だから無理だっていっただろ!! 」

 ゴウゴウと吹き荒れる風は渦を巻き、周りを巻き込み移動をする。
 家屋等も巻き上げてうねりを上げる風の中でぐるりと回り外に吐き出された。
 そんな危険しかない竜巻の中、息も絶え絶えにモモリーヌは巻き上げられていた。

 竜巻の中心には青いパンツがヒラヒラと踊っていて、それを視界の端に捉えているがモモリーヌには何も出来ない。
 もはやこのパンツは厄災級なのだ。
 
 パンツを見たらすぐさま逃げろ。

 それがこの世界の常識なのだが、現れるパンツに真剣に怯え、パンツがもたらす厄災が竜巻だなんて不思議なものである。

 巨大な竜巻となったパンツはゆっくりと動き、ここ領主館を目指していた。
 まさに非常事態で、アリステア達はすぐさま災害時の保護魔術を展開する。
 領主館全体に常時張り巡らせている守護の魔術の上から重ねがかけしたそれは、ぶわりと煙るように領主館を覆った。

 既に領主館に帰ってきていた芽依は、その異変に気付いてはいなかった。
 だが、そばに居るメディトークは違い、そっとカーテンを開けると夕焼けに染まる空に似つかわしくない風が渦を巻いているのが目視出来る。

 せっかくの美しい夕焼けを台無しにしたパンツの妖精の姿を見た芽依は憤慨する。

「またあいつ!! 性懲りも無く現れた!! 」

 闇市でのお土産を買えなかった恨みは根強く、芽依はギリギリとしていると、後ろから片腕が回ってきて、今にも窓を叩き割りそうな雰囲気の芽依を止めた。

「無闇に外に出るなよ。今魔術が重ねがけしてるから魔術と魔術の間に挟まるぞ」

「……挟まるんだ」

 一瞬動きを止めた芽依はメディトークを見上げてから、また竜巻を見る。
 何かを巻き上げ、それを吐き出すように周囲に被害を与えている。

「……庭、大丈夫かな。フェンネルさんたち無事かな」

 眉を寄せて心配そうに言うと、優しく頭を撫でられた。
 黒曜石のような綺麗な瞳が緩く細まり芽依を見る。

「あそこはドラムスト領内だが空間が違うから心配はねぇよ」

 優しく落ち着くように笑みを浮かべて教えてくれるメディトーク。
 心配なら箱庭を見てみろ、と言われて素直に見ると、なんの変化もなく皆ピコピコと動いている。
 厨房の冷蔵庫前でピコン!とハートマークを出すフェンネルの手にはプリンが握っていてメディトークは眉をはね上げた。

「…………現行犯じゃねぇか」

「鬼の居ぬ間にってヤツだ」

「蟻だわ」

 クスッと笑う芽依。メディトークは小さなフェンネルをつまむ様に叩くと、ピコン! とビックリマークが出ていた。
 なんとも悪戯心を擽る箱庭である。

 芽依はメディトークとほんわかしているが、窓1枚隔てた場所では阿鼻叫喚である。
 逃げ惑う人たちに、巻き込まれる人たち。
 このドラムストには戦える人が多く、街中にいる綺麗なお嬢さんでさえ、緊急事態だと魔術を放ち応戦出来る人がゴロゴロいる。

 身の危険を感じて保護魔術が掛かった建物に逃げているならいいが、何故か竜巻に挑戦する無謀な人も居て、あっという間にパンツ竜巻の餌食になっていた。
 凄まじい暴風の中で目を回しながら吐き出されるのを待つ領民は、それでも楽しそうにしているのだから、芽依が見たら変態的趣向の持ち主かな?! と叫ぶだろう。

「ぐぶふふぶはぁぁぁぁぁい!! 」

 ペイッ! と吐き出された男性は、服もボロボロで着ているうちに入る? と首を傾げるようなビリビリに破れた布切れが体に張り付いているくらいだ。
 着衣とは言えない有様ではあるが意識はしっかりしていて、片手を振り上げている。

 まだ見た目は20代程だが、勿論実年齢はもっと上だろう。
 そんな男性の腕には、こちらも色々とアウトな姿になり目を回しているモモリーヌがいる。
 伴侶はガックリと頭を垂らして、救出してくれた人からモモリーヌを預かる。
 知り合い同士のようだ、男性はもはや裸も同然な姿で堂々と立ち会話を始めた。

「お前の伴侶だったな。目を回しているが大丈夫か? 怪我は無かったか? 」

 鍛え抜かれた体に逆立つ金髪の男性は、モモリーヌにふわりとコート被せていた。
 肌が見えていて、普通だったらパニックにもなりそうだが伴侶である妖精は至って冷静だった。

「…………はぁ、まったく毎回なんでこうなるかなぁ」

「随分跳ねっ返りだな」

「跳ねっ返りねぇ……居場所を探して泣く幼子みたいな子だよ」

「幼子か……苦労しそうだな、シャリーシャ」

「勘弁してよ、まったく…………それより君は服を着なさいって」

「ハッハッハッ! これもパンツ竜巻に挑んだ証だな!! 」

「何嬉しそうにしてるんたよ、まったく」

 呆れてため息を吐いたシャリーシャに、友人であるネクタリスはまた笑っていた。

 
 
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