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人形祭り
しおりを挟む着々と準備がされていた人形祭り当日。
起床後すぐに芽依の準備が始まった。
芽依は本日お泊まり会開催のハストゥーレに手伝ってもらいながら薄い水色から濃い青に変わるグラデーションのワンピースタイプドレスを着て背中側に付ける飾りを付けてもらっていた。
小さな薔薇ボタンに引きずるほどの白いレースを取り付けると、ベアバードという幻獣の羽を使われている為、床に触れることなくレースはフワフワと地面より10センチほど上を浮いている。
ローヒールの白いパンプスを履いて、ベールを付けるとハストゥーレが窓を大きく開ける。
そのタイミングでノックがあり、ハストゥーレが直ぐに扉を開ける。
「おはようございます、セルジオ様」
「…………ああ」
チラッと見たのはベッドとソファ。
ソファには掛布団と枕があり、初日のフェンネルとの寝酒で酔いつぶれて一緒に寝た日以外は、皆ソファで眠っている。
巨大な蟻が、領主館を歩く姿に驚き剣を向けるハプニングがあったが、比較的問題なく過ごしている。
「………………ベッドを入れるか」
「あ、それ相談しようとしてたんです。ずっとソファは体の疲れが取れないから」
スカートを翻して芽依が振り向くと、セルジオが目を細める。
ふわりと揺れるスカートには、芽依好みの刺繍が入っている。
濃い青のスカートに刺繍がキラキラと輝いていて上品なドレスだ。
全体的に白と青で統一した衣装は今回もセルジオが選んでいた。
普通は伴侶が選ぶものだが、芽依は最初から伴侶がいなく、見つけた時に対応したのがアリステアとセルジオだった。
それからお母さんのように手を貸し続けてくれたセルジオに感謝しているが、セルジオの中の葛藤は計り知れない。
今でこそ落ち着いたが、まだ伴侶がいない状態なのだ。いつパクリとしてもおかしくない程の静かな情熱はある。
その危惧にどうしてもたどり着けない芽依だからこそ、伴侶ではなく家族の3人がセルジオだけじゃない全ての人外者へと疑いの眼差しを向ける。
未だにフツフツと湧き上がる愛情を向けているのに気付かれていないセルジオに同情も感じてしまうが。
「今日は髪を纏める。人も多いからな、動いても崩れないようにするぞ」
「はい」
大きな手が器用に芽依の髪を結っていく。
編み込んでアップスタイルにした髪にパールの髪飾りを散らすと白いベールから黒髪とパールの髪飾りが透けて美しい。
前から見ると、後れ毛がゆるりとベールから見えて上品なドレスにあっている。
「場所はカシュベルだ。一般入場が始まる前には集まり整列を……全開出ているからわかってるか」
「はい、フェンネルさんとハス君とちゃんと行きますね」
「ああ……転ばないようにな」
「転びません! 」
小さく笑ってから部屋を出ていったセルジオを見送った後、芽依はスリーピースを着たハストゥーレを見た。
式典用に用意した紺色のスリーピースにフリルの着いた白のシャツ。そして、銀色のクラバットには光に反射して浮かび上がるツタが描かれている。
また今回もフェンネルとお揃いで、フェンネルは上品な花の模様のクラバットになっている。
「……ハス君。今日はこれを付けて」
奴隷の証であるクラバットピン。
フェンネルに送った後、直ぐにハストゥーレにも新しく用意して欲しいな……とお願いされた。
手持ちにハストゥーレに合いそうなものがなく、鮮やかなエメラルドグリーンという花をモチーフにしたクラバットピンをオーダーメイドにした。
ふわりと集まり咲くエメラルドグリーンの花に、それよりも濃い緑の葉が縁どり鮮やかなクラバットピンが出来上がっていて、ハストゥーレにも本人の印象をモチーフにした素敵な仕上がりとなっていた。
「……これは」
「新しい奴隷の証。ハス君イメージして作ってもらったの……どう? 気に入ったかな? 」
「…………はい、ありがとうございます……とても嬉しいです」
銀色のクラバットに鮮やかなエメラルドグリーンの花が咲いた。
指先でクラバットピンに触れてから、幸せそうに笑ったハストゥーレが印象的だった。
昼前、10時前位の時間帯に芽依たちは庭に着いた。
準備の為に、既にカシュベルに向かったメディトークはいなく、庭にはフェンネルだけ。
勿論茶畑にいる2人や、メフィストにパピナスはいるが、メディトークとハストゥーレ達がそばにいない時間というのを、この庭に来てから初めてであるフェンネルは、ソワソワとしてしまう。
「フェンネルさん」
「メイちゃん! ハスくーん!! 」
「……あれ? 寂しかったのかな? 」
犬なら尻尾がちぎれる程振ってそうなフェンネルは、両手を伸ばして走ってきた。
ギュッ……と抱きつこうとして芽依の姿を見たフェンネルはピタリと止まる。
「今日もメイちゃんは綺麗だね」
「……ありがとうございます」
蕩けるような眼差しに眩しいくらいの笑み。
そして、ハストゥーレと揃いのスリーピース姿に最早拝んでしまう。2人が並んだら壮観だ。
「じゃあ、行こうか。」
フェンネルとハストゥーレ2人に挟まれてエスコートを受ける芽依はにっこり笑って歩き出した。
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