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2代目自動販売機
しおりを挟むこれは、前から考えていた事のひとつだった。
裏路地で小さなお店をずらりと並べて販売しているお姉さん達の間にひっそりと存在する自動販売機。
アリステア直々の注意喚起が書かれた紙が貼り付けられていて、皆大切に扱ってくれている。
野菜などは勿論、普段売られていない料理やおにぎり等も度々現れる芽依のスペシャルな自動販売機だ。
元々カテリーデンやガーディナーといった販売を主に扱う施設に行きずらい生活を送るお姉さん達のために設置したもので、それから買い付けが楽になった。日頃の献立が豪華になったとお墨付きを貰っている。
そんな自動販売機、2代目購入を考えている。
サイズ等は全て同じで、置く場所はシャリダン。
ここは昔から販売場所が遠く家庭菜園が多いイメージである。
屈強なじいさまばあさまが溢れる小さな町は、穏やかな日常が流れていた。
勿論、筋肉ムキムキな好戦的じいさまばあさまの穏やかな日常である。
一般市民の日常とは思ってはいけない。
彼らの日常とは、入ってはいけない森に入り、獰猛な食用の幻獣を狩り笑顔で帰宅する事だ。
そんな獲物は死んではいない。
新鮮第一と、生け捕りにした暴れる幻獣を押さえつけ笑顔で首を落とすばあさま。
他の領から来た人達が1度見ると、二度と忘れられず夢にまで見るのだという。
そんな屈強な住人達は、肉は狩れるが野菜は足りない。
以前餅つきの場に来て、餅を貰った変わりに渡した野菜に目の色を変えたばあさまたち。
これを見て、芽依は前からシャリダンに自動販売機を置きたかったのだ。
「なるほど、それでシャリダンに自動販売機なんですね」
今日もナイスミドルな男性、セイシルリード。
白髪混じりな髪が以前よりも増えた気がするのだが、穏やかな笑みで、真っ白い歯を見せるセイシルリードはとても素敵だ。
芽依は、ハストゥーレと手を繋いだまま頷く。
「あの土地はどうしてもカテリーデンなどから遠いので、かなり喜ばれると思いますよ」
自動販売機のカタログだろうか、それを見ながら言う。
最近視力が落ちたのだろうか、カタログを見る時だけ丸眼鏡をかけていたセイシルリードは、眼鏡を外してニコリと笑った。
「ご希望は以前と一緒でとの事ですが、よろしいですか? 最新も出ていますよ」
出品の数が増えて、更に大きい自動販売機。
色味も鮮やかな赤ではあるか、少し黒を垂らしたような滲みがあり綺麗だった。
派手すぎはしないが、田舎な風景には溶け込めずらいかもしれない。
「どうですか? 」
「うん、少し派手だから今までのと一緒でいいかな」
「はい、ではこちらを手配しますね」
断ったが、穏やかな表情は崩れずいそいそと準備するセイシルリード。
どちらにしても買ってくる事に変わりは無い。
勿論買わなかったからと言って何か言ってくる人ではないが。
本当にいい人である。
「……………………セイシルリードさん、転勤とかないですよね」
「転勤はないですね、担当地域はずっとこちらです」
「安心しました」
ホッと息を吐き出す芽依に、セイシルリードはにっこりした。
「では、すぐに設置しますか? 」
「お願いします」
ワクワクとセイシルリードを見ているが、見ている限り何かをしている様子はない。
庭のお財布からお金が無くなり、シャリダンに自動販売機が置かれたのは数秒後だった。
「……………………はい、大丈夫です。1度確認しに行って頂けると助かります」
「はい、了解しました」
こくんと頷き、今日はもうする事はないからデートしよう! とハストゥーレを誘った。
「私でよろしいのですか? 」
「勿論だよー」
行こう? と手を繋いだまま、フェンネルに声を掛けてハストゥーレとシャリダンに向かった。
フェンネルは行きたがったが、今日はお留守番だと言うと、頷き手を振ってくれた。 可愛い。
「転移ってすごいね、人外者みんな出来るの? 」
「距離はそれぞれ違いますが、出来ますよ」
弱い人外者は数メートルしか出来ない人や歩いた方が早い人もいて、誰でも使う訳ではないようだ。
だが、高位になればなるほど行動範囲は広がり転移を常用するのだとか。
世界中を移動する人も少なくないし、種族的に渡りをする人もいる。
「…………色んな人がいるんだね」
「そうですね…………あ、ありました」
広場にあるドン! と置かれた自動販売機。
その周りには人が集まり物珍しそうに見ていた。
自動販売機は知っているが、シャリダンにはないので物珍しいのだ。
ぺたぺたと触ったり、ボタンを押して笑っている。
可愛らしいじいさまばあさまが、少し力を入れたら自動販売機を壊す人達だと忘れてはいけないのだ。
「こんにちは」
「あらあら、あの時のお嬢さん! 」
餅つきで来ていた芽依を覚えていたらしく、特にばあさま達が色めき立つ。
「お久しぶりです、自動販売機を起きたいのですがいいですか?」
「あら、これは貴方のなのね」
「はい。色々販売したいのですが、例えばどんなのがいいですか? 」
「「「「野菜!! 」」」」
一斉に言った言葉は野菜一択だった。
そこから、お安い惣菜やあまり食べない果物など、芽依の専売特許なものがどんどん出てくる。
芽依は、うんうんと聞いていると、じいさん達から強い酒の要望も来て、芽依はぎらりと視線を鋭くさせる。
「お酒は命の水です!! 」
「わかっておるの!! 」
じいさま達の勢いに飲まれるように頷き、テンションを上げた芽依に、ばあさま達は目を細める。
好きになり結婚した相手は大の酒好き。それはシャリダンのじいさまみんなだ。
そんな酒好きと同じ匂いがする……と生暖かい眼差しを向ける。
「………………好きになれるわぁ」
ふんわりと笑ったばあさまたちは、ハストゥーレと笑いながら箱庭を見て指さし、自動販売機の中を補充している姿にホッコリする。
「…………あら、そういえばあの時の男の子じゃないわね」
「あら! 恋多き子かしら」
「今度こいばな……だったかしら、そんなのもしたいわねぇ」
「この歳になって楽しみが増えたわ! 」
うふふ……と笑い芽依とハストゥーレ、そして酒の話に盛り上がるじいさま達を見た。
芽依が置いた自動販売機は、野菜をあまり買いに行けないシャリダンは勿論、隣のガヤからも新鮮で大きな美味しい野菜だと評判になり買う人が途切れなくなる。
裏路地に置いている自動販売機よりも回転率が高く、嬉しい悲鳴を上げた芽依。
特に酒は良く減り、試作品を安くばらまく時は、そのスピードがさらに加速しているようだ。
芽依がシャリダンに来る度に、囲まれるようになるのはもう少し後の話。
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