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森の小さなレストラン 2
しおりを挟むサクッとパイにスプーンを刺しビーフシチューと一緒に食べる。
ジョシュアモデルの何かはビーフシチューに肩まで浸かり皿の端に寄りかかるようにいてなかなかスプーンを入れれない。
チラリと隣を見るとスプーンに乗る自分の生首と見つめ合っていて思わず吹き出しそうになった。
「やめてくださいよ、生首と見つめ合うの」
「生首とか言わないでよ」
スプーンから目を離して芽依を見るジョシュア。
その手にはスプーンにのった生首。どんな顔すればいいの。
この森の小さなレストランは、クリームパン屋さんとは違い場所は固定されているが扉がランダムに開く店のようだ。
扉は木彫りのリスで1度出現して来店し、店主が気に入ったら定期的に扉が開くらしい。
1回目が訪れるかは本当にランダムで一生現れない人の方が多いのだとか。
店長は巨大なリスで、一匹で切り盛りしている。
味はとても良く、この世界の料理をあまり食べれない芽依の口にも合う。
ただし、見た目は猟奇的。
「……………………ジョシュアさん、いただきます」
「痛くしないで、優しくしてね」
「食べずらいから少し黙って」
「はい」
肩までビーフシチューに使っているジョシュアの下半身を食べる。
野菜の甘い味にビーフシチューが混ざり合いものすごく美味しい。
え、これ野菜ゼリー寄せ? なんでこんなに精密にジョシュア妖精作れるの? ゼリー寄せで? え?
意味がわからないと上半身しかなくなったジョシュアを見ると、隣からずっと向けられている視線に耐えられずに横を見る。
「………………キスしても」
「しない!! 」
残りのジョシュアゼリー寄せにキスをせがむ、どんな変態だろうか。
「お前、客減らす様なことするなよ」
「してないって」
すかさずフォローしてくれる店長を見ると、何処と無くメディトークを思わせる。
大きさだろうか。
「………………ん? なんだ」
「いや、メディさんに似てるなぁって思って」
「………………メディさん? 」
「メディトークさん。私の……保護者? 家族です」
「「………………………………メディトーク? 」」
2人は目を丸くして芽依を見る。
信じられないと言うような、何かを探るような眼差しに首を傾げると、店長は上半身をカウンターからニュッと出してきて至近距離で見てきた。
「それは蟻か? 」
「デカい蟻ですね」
「まじか、あのメディトーク様か。凄い人といるな 」
「………………………………メディトーク……様? 」
今度は芽依が眉を寄せて首を傾げた。
何故メディトーク様と、様付けなんだろう。
「どうして様付けなの? もしかしてメディさんの部下みたいな人? …………部下いるのかな、たしか中位の幻獣でしょ? メディさん。加勢の幻獣って聞いてるけど…………え? 違うの? 」
「中位だぁ? 何言ってんだ、メディトーク様は幻獣の頂点だぞ? 」
「……………………………………は? 」
「元々あまり姿を見せないから知らないヤツらは多いし、新しく派生した人外者は知らないだろうがなぁ」
「……………………はぁ?! 」
「店長、これ言って言い内容だったの? メディトーク様怒らない? 」
「あ? 怒るような事か? 」
「いや、家族だと思ってる人にすら隠すくらい…………ちょっ……何してるの?! 」
「ぶっ叩いてる」
箱庭の中の自室にいるメディトークを指先で叩き続ける芽依。
なんだ?! と飛び上がりビックリマークが出ているが、構わず叩きまくっている。
「ちょっと?! 落ち着いて……それ箱庭だよね?! 叩かないの!! 」
「落ち着いていられますか!! なにそれ、幻獣の頂点?! なにそれ、王様なの?! 蟻の王様?!」
「…………まあ、王だな」
「当たり?! なにそれ!! 料理上手な蟻が王?! ……………………………………そんな」
一気にしゅんとする芽依を2人は見る。
大丈夫か……? と肩を叩かれると、箱庭の中で明日の仕込みの為に厨房へ向かうメディトークを眺める。
近くにはフェンネルとハストゥーレもいる。相変わらず仲良しだ。
「……………………王様なら、いつか居なくなるんじゃないの? だって、色々しないといけない事あるんでしょ? 今は契約があるから居てくれるけどアリステア様みたいに忙しくていつか居なくなるんじゃ……」
「……………………あの人が幻獣の王って聞いて怯えたりはしないんだね? 」
静かに聞いてきたジョシュアに視線だけを向ける。
怯えるって何に? 何を怯えるの?
王様だから? 偉い人……幻獣だから?
芽依にとっては最初から大好きで大切な人だ。
そんな彼が、今更芽依のそばを離れるなんて、そんな事考えるだけでも嫌だ、泣きそう。
うるり……と瞳に膜ができる。
にじみだした視界に何度も手で涙を脱ぐうと、店長からおしぼりを渡される。
目元に当ててホカホカ暖かいタオルに幾分か気持ちも落ち着いた。
「怯えるとかは無いです。私にとって、初めてあった時からあの蟻は唯一無二だから」
そんな芽依を何も言わずに見ている2人は静かに目を合わせていた。
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