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害獣対策と奴隷自慢
しおりを挟む2月に入った。
早いもので、新年に入りもうひと月が経過したのだ。
芽依は、年明けに対価を渡すと約束したシュミットからなんの連絡もないなぁ……と、新しく肉まんやごまあんのあんまんを作りながら考えこむ。
その他にもバリエーションを増やそうかなと思いながら制作中、ハストゥーレがかなり気に入ったらしく常に食べれるように準備しているのだ。
あの肉まんを食べた時の幸せそうに顔を緩ませるハストゥーレを見たら、好きなだけお腹いっばい食べれるようにしたいのだ。
奴隷生活の長いハストゥーレは特に自分から何かが欲しいとは言わない。
だが、明らかに気に入り定期的に食べたくなっているようで、時々ソワソワと芽依を見る。
自分から食べたいと言ってくれるのが1番だが、なかなか言えずモジモジしているハストゥーレを見るのも可愛すぎて鼻血ものだと喜ぶ芽依をメディトークが呆れながら見ている。
食わせてやれよ……と呆れながら言われた回数は両手を超えている。
そんな毎日を送っている芽依たち庭組は、これから大事な作業に取り掛かる。
それは、2月に起きる害獣対策だ。
1月末には様々な薬液などを既に購入していたらしいメディトークとフェンネルの素早い行動で、物の売り切れなどにも合わず時間に余裕を持たせて準備ができそうだ。
なにせ、芽依の庭は広いのだ。
「これで薬液散布終わりかな?」
「はい、こちらも終了しました」
「ちょっと休憩にチーズボール食べよっか、フェン口開けて、あーん」
「………………ん」
小さな四角い籠に入った山盛りのチーズボールを持ち、芽依は薬液散布してくれた2人の口にチーズボールを放り込む。
改良され尽くしたチーズボールは口の中でじゅわりと溶けだし、濃厚なチーズの旨味を味わせてくれる。
目を細めて満足そうに微笑む2人を見ると、ますます大事にしないといけないなと芽依は笑った。
実はつい先日、カテリーデンで奴隷を連れた客が来たのだが、その態度が物凄く悪かった。
美しい女性のご主人様は、夜の共をする為も含めて購入した麗しい男性の妖精を従えていた。
キラキラ太陽のように輝く金髪に、青空のような真っ青の瞳。
切れ長の瞳は涼しげで美しい容姿なのに一切表情を動かさなかった。
綺麗だからこそ残念だなと最初思ったが、主人の女性は常に色を含んだ眼差しでその奴隷を見て指先に触れ、腕を組み妖艶に微笑んでる姿を見て気付く。
嫌で嫌で仕方がないんだなと。
芽依達売り子は表情に出さないが、その雰囲気は日中のカテリーデンにはあまりにも場違いで変に浮いている。
女性は流し目でその妖精を見てから芽依の商品を見て、顔を上げると2人の奴隷紋に気付いた。
そして、ニンマリと笑う。
「まあ、あなたも素敵な奴隷がいるのね。それもとびきり極上品だわ。こんな素敵な奴隷は中々居ないもの、とても自慢できるわ。羨ましいわね」
ジロジロと二人を見定めている女性に眉を顰めると、真っ赤に引いた紅がテラテラと光る唇と歪に歪ませる。
「…………ねぇ、夜の具合もいいのかしら」
テーブルに手を付き、フェンネルの腕に人差し指を当ててツツツ……と指を動かす女性を見て、すぐさまフェンネルを芽依の後ろへと引き寄せる。
そのままハストゥーレにも手を伸ばそうとしたら、既にメディトークが庇っていた。
「……あら、独り占め? 」
「お触りは許可していません。うちは野菜とかを売る場所ですから」
「……ふぅん、残念。ねえこれ、あげるわ。良かったら来て」
紅色の美しい封筒を芽依に渡そう差し出すが受け取らないため、女性は艶やかに笑ってテーブルに置いた。
そして、連れている妖精のネクタイを引っ張り女性のすぐ隣まで引き寄せると、見せつけるように頬を合わせる。
スル……と、胸元を撫で芽依を見た。
「そこは極上品を自慢する場所よ。あなたもどうぞいらして」
そう言って何も買わずに離れていった女性を見送ったあと、芽依は箱庭からウェットティッシュを取り出してフェンネルの腕を丁寧に拭く。
「私のに勝手に触るなよー! なにあのねちっこい感じ!! 」
「…………メイちゃん、熱烈」
「何喜んでるの! もう!! 」
蕩けた笑みを浮かべるフェンネルの胸元をペチリと叩き注意するが、それすらも嬉しいのかホワホワと笑っている。
『…………夜会の招待状だな。しかも色事か』
「なに? 」
「先程の女性のように、一定数の方は奴隷の美しさや強さを自分のステータスのように見せる会があるのです。たぶん、そのご招待ではないでしょうか」
「ステータスって……」
「実際多いんだよ、綺麗な奴隷や可愛い奴隷を連れて如何に従順に主人に仕えるか見せつけるの。ある意味人外者が伴侶の移民の民を見せびらかす夜会と似てるかな」
ギュッと抱き着いてきたフェンネルが言うと、そんなフェンネルを見上げて見せびらかす……と呟く。
「まあ、僕たち程愛されて大切にされてる奴隷は居ないと思うけどね? 」
『今、お前はまさに見せびらかしてんぞ』
「え? 」
周りを見ると、フェンネルの輝かん笑みを直撃したらしい顔を赤らめた女性たちが崩れ落ちている。
流れ弾に当たったらしい男性も数人含まれている。
更に、フェンネルが羨ましくなったハストゥーレも隣に来て控えめに芽依の指先を握ってくるいじらしさは悶絶するほどの可愛らしさだ。
「…………私、鼻血出てない? 無事? 」
「出たら僕が拭いてあげる」
「遠慮するよ」
『……まあ、コイツには行くなよ』
ひらりと動かす招待状に頷く。
どうやら見せびらかすのは、容姿だけでなく夜の姿も含まれるらしい。
芽依は顔色を変えて二人を抱き込む。
「むりむりむりむり。二人を邪な眼差しに晒すわけないし、夜の姿ってなによ。出来ても添い寝だわ」
「……喜んでお供いたします、添い寝」
「ハス君! 変な誤解を生んでしまう!!めっ!! 赤い顔しないで! 可愛いだけだから!! 」
「僕も全然大丈夫だよ? メイちゃん真ん中にして川の字で寝る? 」
「こら! 頭を擦り付けるのをやめなさい! カテリーデンですよ! 」
「じゃあ、庭ならいい? 」
「………………え? 庭ではいつも勝手にくっついてるから気にした事無かった……そうか、注意するべきだった」
「………………フェンネル様。ご主人様にいらぬ知識を与えないでください」
「あれ、ごめんなさい」
『……お前ら仕事しやがれ、客いんだぞ』
こんな軽口を叩きつつも売りきったカテリーデンだったが、あの女性のねっとりした眼差しは気持ち悪かったし、気付かれないようにしていたが、その眼差しを向けられた2人の指先は酷く冷えていた。
ギュッと握った手にほっと息を吐く2人に眉を下げる。
奴隷をアクセサリーのように見せて歩く人は今までも見てきたが、まさか絡まれるとは思わなかった。
どんな人でも、下心を抱えた人は酷くねっとりとして気味が悪い。
大事な大事な芽依の奴隷たち。
その枠から外れて家族として迎えた2人をそんな眼差しに晒す夜会などに行くわけがない。
しかも、入り交じっての乱行パーティのようだ。願い下げである。
「うちの子たちは、庭で愛でるので十分です」
『だな』
「………………大事にされてる」
「はい…………」
そんな出来事があるから、現在余計に猫っ可愛がり中である。
うちが一番幸せ、それでよろしい。
『おいメイ、例年より暑いから気温が高い時に現れる害獣も出るかもしれねぇって話が来てんぞ』
「なんですと?! 」
グリンと首を回してメディトークを見た芽依はすぐさま走り出しセイシルリードから聞いた話を教えてもらう。
どうやら2月の害獣は寒さに強い幻獣らしく、気温が上がった今はもう少し暖かい時期に出てくる幻獣の可能性があるのだとか。
薬液は聞くが、他の罠も購入した方がいいかもしれないと2人で頭を悩ませる。
まだ半月あるとはいっても、それが確実なわけじゃないので準備は厳重にである。
追加購入をしながら来る幻獣に備えるのだった。
「…………もうシロアリみたいなやつは勘弁だよ」
『まったくだな』
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