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どんな時でもこの世は弱肉強食
しおりを挟むハラハラと降る雪の中、片側を編み込み可愛く巻いてもらった髪も、豪華なサーモンピンクのドレスも汚すこと無く芽依は佇んでいる。
それはこの場には似つかわしくないのだろうが、カナンクルの決闘ではよくある光景なのだ。
芽依に決闘を申し込んだ熱風の精霊 ガザナは戦いなど知らないだろう移民の民に少しの不安や恐怖は無く、一撃で終わると思っていた。
完全に油断をしていた。
人間だろうが、人外者であろうが、その力の在り方は外見とは比例しない。
それは良く知っている筈なのに、戦いのない場所から来る移民の民を軽く見ていた結果がこれなのだ。
ゴボウによって吹き飛ばされたガザナは呆然と芽依を、野菜たちを見る。
「…………野菜?」
相変わらず血気盛んなゴボウはブルンブルンしているし、太くて長い真っ白な大根は桂剥きした程度で弱るほど貧弱でもない。
そんな野菜に守られて立つ芽依は、もはやラスボスの女王のように見え、フェンネルは囚われた美しい妖精にすら見えている。
「くっ……すぐに、すぐに助け出します!」
「……………………望んでないし、メイちゃん怪我させたら殺すから」
「こらフェンネルさん、メッ!」
「ごめんなさーい」
ニコッと笑って首を傾げるフェンネルにため息を吐く。
そんな姿を見て逆上したガザナは熱風を出し大根の力で降る雪を止ませ、さらに熱で大根に火がついた。
「え!大根さ…………ま……おぅ」
燃える大根を即座にボコボコに殴り飛ばしたゴボウによって鎮火された大根は地面にポトリと落ちる。
火事にはならなかったが、大根が事切れてしまった。
そんな惨状でも、芽依の潤沢な庭から採れた大根は勿論一本ではない。
地面に落ち残念な姿を晒す大根が完全に動かなくなった頃、すぐさま新しい大根様が生まれる。
キリッした大根は、また桂剥きをして芽依の守りをしっかりと務めてくれた。
「……………………なんなんだ、あの野菜は」
「素晴らしい大根様です」
こうして、叩き割っても叩き割っても復活する武器破壊という言葉を知らない芽依の野菜は、長期戦でも物ともせず、恐怖を植え付けガザナの動きを鈍くする。
「…………うん、なんか大根様最強……あぁ、ゴボウが荒ぶってる……」
ブルンブルンと荒ぶっていたゴボウは、大根により吹き飛ばされうつ伏せで倒れたガザナを見て近づいて行く。
起き上がるために膝を付き、四つん這い近い格好になった時、ゴボウは最高速度で振り抜かれた。
「あああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「……………………………………お尻大丈夫かな」
四つん這いのお尻目掛けて細く長いゴボウは自ら振り落ちてお尻を打ち付ける。
パシィィィィン!!と響く音と共に盛大な叫び声が轟き芽依は眉を寄せた。
それは1度では終わらなかった。
また持ち上がりお尻目掛けて振り下ろされるゴボウ。
また上がり下がり……それが複数回続きゴボウは折れて地面に転がるまでその動きを止めなかったのだ。
「くっ……おのれ……」
「…………良かったじゃないですか、叩かれるだけて…………刺されなくて良かったですね」
「…………刺され………………?」
「ぶふぅ!!」
思わず吹き出すフェンネルだが、四つん這いのお尻目掛けて垂直に飛び込みお尻に埋め込まれたら、今みたいに睨み付ける所では無いだろう。
理解したガザナは顔を青ざめ、復活したゴボウを見ながらお尻に手を当てる。
「…………降参でいいです?」
「だ……だれが…………」
「じゃあ、ゴボウさん、今度は垂直に」
「まて!!まてまてまて!!」
芽依の言葉に慌てるガザナは数歩後ずさりゴボウを警戒している。
脂汗をかき必死な形相をしていて、最早決闘どころではない。
「わ……わかった、俺の負けだ……」
「フェンネルさん諦めてくれるんですね?」
「諦めん!今回は引き分けだ!いいな?!ゴ……ゴボウの耐性を付けたらまた来てやる!」
そう言ってガザナがお尻を隠しながら走り去って行くのを芽依は黙って見つめていた。
「………………耐性って、お尻に刺す練習でもするの?」
「こらメイちゃん!お下品!!」
今回は吹き出さずに注意するフェンネルは、無事に芽依の斜め上の考えを終了させたのだった。
「本当に決闘なんてあるんだねぇ」
『結構ゴロゴロあんぞ』
「ひぇ、物騒」
『それくらい、奪ってでも欲しいヤツがいるってことだろ』
「………………そっかぁ」
この世界の不思議は、まだまだ知らないことが多い。
今回もそのうちの1つで、口頭での内容や印象は実践しないとだいぶ雰囲気が変わってくると芽依は知ったのだった。
「………………ガザナ、あんた本当にあの妖精好きなの?あれ、花雪だよ?」
「花雪?!…………そうか、だからあんなに美しかったのか……」
「…………はぁ、呆れる。あんたの彼女はあたしでしょ?」
「何を言うか、一時の交わりだろう」
「それでもよ!今は私が彼女なのに他に目を向けるなんて、さいっていね!」
「なんとでも言えばいい、テンテン」
二人は同じ精霊同士で確かに付き合うという状態ではあったが、快楽を求めた一過性の付き合いである。
人外者は長い時を生きる中で様々な遊びをし心を潤わせる。
それはこの2人だけではなくて日常茶飯事の事で心が移ることもある。
だが、その遊びが本気になる人外者も多く、所謂痴話喧嘩になる事も多々あり、それに巻き込まれる災難も同じくらいに頻繁しているのだった。
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