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天使は増殖する
しおりを挟むいきなりしゃがみ込んだ芽依をこの場にいる3人が驚きオロオロとしていると、芽依の前にしゃがみこむ誰か。
小さな靴が視界に入り、細く柔らかそうな膝が地面に着く。
「…………お姉さん、久しぶり」
「私の天使ぃぃぃぃ!!」
至近距離で覗き込んできたニアに、芽依は既にメロメロである。
これに闘争本能が現れるのはハストゥーレで珍しく細く短い眉を吊り上げている。
ぷっくぷくに頬を膨らませてニアを見ているのをフェンネルがあらぁ?と見ていた。
「なかなか会いに行けなくてごめんね……お姉さん」
「もう、今会えたから至上の喜びだよ……」
「本当……?お姉さん立って、せっかく綺麗なドレスが汚れるよ」
ニアに手を握られ立たされる芽依は、もう今日の幸せはこの瞬間使い果たしたのかもしれない、なんて考えていた。
スカートに着いた土汚れを払ったニアは芽依を見る。
「…………お姉さん、可愛いね」
「私死んでない?頭あるかな?破裂してない?大丈夫そう?」
「メイちゃん、落ち着いて」
「メイさんは本当にこの子が好きですねぇ」
苦笑する二人を他所に、芽依の隣にくるハストゥーレ。
そっと寄り添ったハストゥーレは芽依の腕に控えめに触れながらニアを見る。
「失礼ですが、ご主人様に不用意に近付かないで下さい」
「…………僕の勝手だよ、ハストゥーレ」
「いけません、私達のご主人様です」
ニアも逆隣に来てバチバチと火花を散らす2人をフェンネルはあーらら、と見ている。
ここは大人の余裕なのか参戦はしないようだ。
「相変わらず、好かれる人外者にはとことん好かれているなぁ」
「フェンネル様はよろしいのですか?行かなくて」
「うーん、メイちゃんが迷惑なら行くけどね、あの顔見てよ。嬉しそうな顔してるから止められないじゃない」
目尻が下がり可愛いを2つ両端にぶら下げた芽依は、もうニヤニヤが止まらないのだ。
ニアを見ては天使と呟き、ハストゥーレを見ては可愛すぎて死ねると喜びを表現している。
『…………お前たちはいつでもなんかしらしてるな』
特注ローブを脱いだメディトークが合流すると、芽依の様子に呆れた様子で足を組む。
「メディさん、可愛いが渋滞していて抜け出せそうにない……」
『阿呆か』
そう言いながらも近くのテーブルに、足をにょん!と伸ばしたメディトークは、野菜のゼリー寄せを取る。
やはり野菜不足だからか、野菜の減り方が異様に早いようだ。
『メイ、ほら』
両手が塞がっている芽依の口に入れてくれる親切な蟻に感謝してもぐもぐと口を動かしていると、まさかのシャルドネがワインを運んできた。
「どうぞ」
「ふぁ!まさかのシャルドネさん!」
口にグラスを近づけ傾けるシャルドネに慌てて飲み込むが、口端から垂れるワインをシャルドネが指で拭っていった。
「美味しいですか?」
「…………なんか、色んな意味でご馳走様です」
『……………………はぁ』
2人に囲まれ可愛いを堪能していたら、シャルドネのグラスをフェンネルに奪われた。
「ちょっとシャルドネ、それはダメじゃない?許可なく触ったら駄目だよ。ただでさえさっきのダンス中になんかしたんでしょ?」
「いえ、なにもしていませんよ。フェンネル様も素直に甘えてみたらいいのではないですか?あのお2人のように」
いがみ合って猫のようにフーフーしている2人を見てフェンネルは少しだけ頬を染めた。
「ぼ、僕はメイちゃんがちゃんと大切にしてくれてるのが分かるから、別にいい」
ツン……と顔を逸らした子供っぽいフェンネルは明らかに構って欲しいけど……という心情が駄々漏れである。
ソワソワと服を握ったり離したりしているフェンネルに、芽依はまた1つ可愛いを見つけた。
「…………私の周りは天使ばかりなのかしら」
実はニアが芽依の所に来たのは理由があった。
テーブルに置かれている料理の数々に、果物も豊富に置いてあって、ニアの好きなぶどうもある。
しかしニアは芽依を見上げて言った。
「あのぶどう、お姉さんが作ったのじゃないよね……」
「…………その通りだよ、よくわかったね」
今回のぶどうは、ドラムストの備蓄から出したもので芽依が作ったものでは無かったのだ。
大きさや色艶なども違うが、土を作り直している途中なので、品種が変わってもおかしくは無いのだが、ニアは違うと断言した。
「僕……お姉さんのぶどうがないと……」
しゅんとするニアに芽依は無言で箱庭を出すと、フェンネルとハストゥーレに慌てて止められメディトークに後ろから若干強めに叩かれた。
「いっっっ」
『ここで出そうとするヤツがあるか!!』
「ここで出したらメイさんに人が殺到してしまいますよ」
「くぅ!世知辛いっ!」
2人に押さえつけられたまま地団駄を踏む芽依を、子供かよ……と呆れた様子のメディトークが、また芽依に野菜のゼリー寄せを口に放りこんだ。
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