上 下
170 / 528

シロアリの侵入

しおりを挟む

 シロアリの進行は思ったよりも早く予定より一日早い到着となった。
 最初に襲われたガヤとシャリダン。 
 ここは庭と言うより家庭菜園が多く、家の周りが黒く埋め尽くされ、家から出れなくなった人達は窓からその様子を見ていた。
 果敢に戦いを挑み、ある一角では壮絶なバトルも行われてはいるが、それ以外は家庭菜園に釘付けである。

 このシロアリはどうやらあまり魔術は使わないらしい。
 基本的な攻撃は噛み付くや、細い足で踏み潰す等の打撃が多く地道に食らいついてくる。
 ただし、栄養になり得ないこの世界の人太刀が相手だと沢山の短い足をファイティングポーズかまして戦うのだが、小ささリーチの身近さによりあまりダメージは少なく逆に蹴られ吹き飛ばされるようだ。

 しかし相手は大群の為、足をすくわれ転倒させられたら最後。
 白い波となり、運ばれ遠くに連れていかれるのだ。
 移民の民が居ない時のシロアリは攻撃的では無く、穏やかにこの世界の人達を遠ざけ自分たちは土に牙を突き立て栄養を摂取する事だけに集中していた。

「………………野菜たちが一瞬で」

「もう土は……使えないな」

 小さな家庭菜園では国からの援助は受けられず、対策のためのお金を使い渋った人達も多かった。
 何故か、それはほぼ壊滅状態になるとわかっている小さな家庭菜園を手放し備蓄にお金を回したからだ。
 落ち着いたらまた家庭菜園を始める、だけど今は生き残ることを優先させたのだ。

 それでも丹精込めて育てたものを一瞬で壊された悲しみは強い。
 シャリダンの高齢者達は家の中にシロアリが居ないのを確認してから追加で作った餅の在庫を頭の中で計算した。
 餅はとても優秀な備蓄食料である。
 シャリダンの人たちは特に食べなれているから、これからの飢饉をなんとか乗り越えようと奮闘するだろう。


「………………あの子は大丈夫かね」
  
「だれ?」

「ほら、餅つき大会にきてたあの子……多分移民の民だよ、じいさん」
 
「…………そうか、移民の民か」

「頑張って生き残ってくれるといいね……」

 シャリダンの住人は高齢者が多いが、その殆どが元騎士だったりと戦いに特化した人達ばかりである。
 肉体的にも精神的にも鍛え上げられた年寄り集団はこの危機的状況もどこか楽しそうに野営飯だな!と言う人すらいる。
 この尋常ではない精神力の塊の年寄り達はこれからの飢饉では多少殺伐としつつも笑い飛ばして生活をするだろう。
 そう、彼らには狩りという食料確保ができるからだ。

 逆にカヤはカテリーデン等の買い物でじっくり吟味し食料を買い生活をする慎ましく清貧な人達であった。
 勿論狩りなどは出来ず今後の絶望を思って青ざめる。

 ゾロゾロと移動するシロアリはスピードを早めて次の街へと進行を開始。
 波打ち離れていく姿を見送ったシャリダンの住人は家庭菜園の土を触って深いため息を吐き出したのだった。



 シャリダンとカヤを襲ったシロアリはかなりの距離があるはずのカシュベルに5分もかからず到着した。
 遠くからせまる白い波を確認した瞬間、町中に低く響く渋い金の音がなる。
 それは領主館にも届き、別空間であるにもかかわらず庭が密集している芽依たちにも聞こえたのだ。
 空間を分けているのに、なぜかシロアリは庭の密集する場所を見つけるらしい。

 庭の密集地は勿論ここだけじゃなく、ドラムスト全土に散りばめられる庭全てを喰らい尽くして行くため、領主館やカシュベルから近い場所はこの鐘が聞こえる。

 芽依達移民の民は円になりフェンネルの庭の雪を踏み固まっている。
 その周りには伴侶達人外者が守り、騎士たちが庭に散りばめられ警護に着いていた。

 他の庭、特に広い場所には数人の騎士が守備に着くが、あまり期待はできないようだ。
 ただ、移民の民が集まる芽依の庭は別である。
 様々な攻撃や守備に特化した騎士が集まり庭より移民の民たちを守る為にいる。

『…………来るな』

 メディトークが真っ直ぐ前を見ながら言うと、ドーム状に張られた結界にばすん……ばすん……と何かが体当たりする音が聞こえ始めた。

「ご主人様…………私達がお守りいたしますから……」

「…………うん」

 不穏な様子は芽依だけじゃなくて皆にも伝わり緊張が膨らむ。
 ユキヒラはメロディアに腕を抱きしめられているが、2人の眼差しは鋭い。
 ミチルは不安そうにしてはいるのだが、レニアスが守るように抱きしめていた。
 どちらも仲良さそうで、通常ならほっこりする場面なのだが、今は命の危機である。
 芽依も力を入れ手を握りしめた。

 ふわりと風が吹き、地面に魔法陣が浮かぶ。
 それはフェンネルが発動したもので、この魔法陣の中に居る人以外の体感温度を下げ動きを鈍らせた。
  
「………………効いている……のかな」

 集団で体当たりしている為、結界に小さなヒビが入り、底に隊長アリが凄まじい音を立てて隙間を開けた。
 小さな蟻達は体をねじ込み侵入を開始する。

「…………入ってきた」

「メイちゃん、抱っこさせて」

 両手を伸ばして言うフェンネルに頷き素直に抱き上げられると、腕に座るよう抱えられた。

 ゾロゾロと現れたシロアリ達は狙いをすますように当たりを見渡す。
 広々とした庭にか、集まる移民の民にか、歓喜した女王は地上に上がってから初めて甲高い雄叫びをあげたのだった。
 
しおりを挟む
感想 81

あなたにおすすめの小説

前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る

花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。 その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。 何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。 “傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。 背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。 7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。 長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。 守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。 この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。 ※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。 (C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

(完結)嘘をありがとう

七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」 おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。 「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」 妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。 「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」

順番を待たなくなった側室と、順番を待つようになった皇帝のお話 〜陛下!どうか私のことは思い出さないで〜

白猫
恋愛
主人公のレーナマリアは、西の小国エルトネイル王国の第1王女。エルトネイル王国の国王であるレーナマリアの父は、アヴァンジェル帝国との争いを避けるため、皇帝ルクスフィードの元へ娘を側室として差し出すことにした。「側室なら食べるに困るわけでもないし、痛ぶられるわけでもないわ!」と特別な悲観もせず帝国へ渡ったレーナマリアだが、到着してすぐに己の甘さに気付かされることになる。皇帝ルクスフィードには、既に49人もの側室がいたのだ。自分が50番目の側室であると知ったレーナマリアは呆然としたが、「自分で変えられる状況でもないのだから、悩んでも仕方ないわ!」と今度は割り切る。明るい性格で毎日を楽しくぐうたらに過ごしていくが、ある日…側室たちが期待する皇帝との「閨の儀」の話を聞いてしまう。レーナマリアは、すっかり忘れていた皇帝の存在と、その皇帝と男女として交わることへの想像以上の拒絶感に苛まれ…そんな「望んでもいない順番待ちの列」に加わる気はない!と宣言すると、すぐに自分の人生のために生きる道を模索し始める。そして月日が流れ…いつの日か、逆に皇帝が彼女の列に並ぶことになってしまったのだ。立場逆転の恋愛劇、はたして二人は結ばれるのか? ➡️登場人物、国、背景など全て架空の100%フィクションです。

王太子妃、毒薬を飲まされ意識不明中です。

ゼライス黒糖
恋愛
王太子妃のヘレンは気がつくと幽体離脱して幽霊になっていた。そして自分が毒殺されかけたことがわかった。犯人探しを始めたヘレン。主犯はすぐにわかったが実行犯がわからない。メイドのマリーに憑依して犯人探しを続けて行く。 事件解決後も物語は続いて行きローズの息子セオドアの結婚、マリーの結婚、そしてヘレンの再婚へと物語は続いて行きます。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

暗闇に輝く星は自分で幸せをつかむ

Rj
恋愛
許婚のせいで見知らぬ女の子からいきなり頬をたたかれたステラ・デュボワは、誰にでもやさしい許婚と高等学校卒業後にこのまま結婚してよいのかと考えはじめる。特待生として通うスペンサー学園で最終学年となり最後の学園生活を送る中、許婚との関係がこじれたり、思わぬ申し出をうけたりとこれまで考えていた将来とはまったく違う方向へとすすんでいく。幸せは自分でつかみます! ステラの恋と成長の物語です。 *女性蔑視の台詞や場面があります。

愛しの婚約者に「学園では距離を置こう」と言われたので、婚約破棄を画策してみた

迦陵 れん
恋愛
「学園にいる間は、君と距離をおこうと思う」  待ちに待った定例茶会のその席で、私の大好きな婚約者は唐突にその言葉を口にした。 「え……あの、どうし……て?」  あまりの衝撃に、上手く言葉が紡げない。  彼にそんなことを言われるなんて、夢にも思っていなかったから。 ーーーーーーーーーーーーー  侯爵令嬢ユリアの婚約は、仲の良い親同士によって、幼い頃に結ばれたものだった。  吊り目でキツい雰囲気を持つユリアと、女性からの憧れの的である婚約者。  自分たちが不似合いであることなど、とうに分かっていることだった。  だから──学園にいる間と言わず、彼を自分から解放してあげようと思ったのだ。  婚約者への淡い恋心は、心の奥底へとしまいこんで……。 ※基本的にゆるふわ設定です。 ※プロット苦手派なので、話が右往左往するかもしれません。→故に、タグは徐々に追加していきます ※感想に返信してると執筆が進まないという鈍足仕様のため、返事は期待しないで貰えるとありがたいです。 ※仕事が休みの日のみの執筆になるため、毎日は更新できません……(書きだめできた時だけします)ご了承くださいませ。

処理中です...